ファッション

“パンクの女王”ヴィヴィアン・ウエストウッド 反骨の精神と伝統への敬愛を振り返る

英国のデザイナー
ヴィヴィアン・ウエストウッド

「迷ったら、ドレスアップ」。これはヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)のモットーだ。政府に抗議するときも、社会や環境のために戦うときも、パリやロンドンのランウエイで挨拶をするときも、そのモットーを忘れることはなかった。4月8日は英国のデザイナー、故・ヴィヴィアン・ウエストウッドの誕生日だった。

ウエストウッドは歴史的な衣装やミリタリーウエアに多大な影響を受け、英国のタータンチェックやツイードをエッジイでセクシー、そして一目で「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」と分かるデザインに落とし込んだ。米「WWD」の故ジョン・B・フェアチャイルド(John B. Fairchild)発行人兼編集長は、ウェストウッドは「デザイナーの中のデザイナー」であり、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)らと並ぶ「真のきらめくスター」と評した。

長年の友人であり、顧客でもあったヘレナ・ボナム・カーター(Helena Bonham Carter)は、ウエストウッドはロココ期の画家、フラゴナール(ジャン・オノレ・フラゴナール、Jean-Honore Fragonard)の絵画を身につけるチャンスを与えてくれたという。「『ヴィヴィアン・ウエストウッド』のデザインはとても幻想的。絵画の中の人物が飛び出し、夜中に踊っていても不思議ではない」と語った。そのデザインは見た目だけでなく、着心地も良かった。2023年2月にロンドンで行われたウエストウッドの追悼式に、「ヴィヴィアン・ウエストウッド」の厚底のプラットフォームを履いて参列したボナム・カーターは、「ドレスはあなたのために全てをこなしてくれる。フル・イングリッシュ・ブレックファーストとベーコンロールを食べていても、“ココット・ドレス”があれば優美な佇まいに仕上げてくれる」とそのデザインを讃えた。

パンクから歴史的衣装まで
ウエストウッドの自由なデザイン

ウエストウッドの反骨精神と活動家精神は、当時パートナーだった「セックス・ピストルズ(Sex Pistols)」の生みの親、マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)とブティック「セックス(SEX)」を経営していたころから芽生えていた。政治的メッセージを洋服の袖やTシャツにあしらうのが好きだった彼女は「パンクはとてもグラマラスで、あなたを美しく見せてくれる。そしてスローガンは身につければ、その考えは広まる」と語っていた。

“パンクの女王”として知られるウエストウッドだが、彼女の功績はパンクにとどまらない。好奇心旺盛で賢く、行動的なウエストウッドはパンク(とマクラーレン)から離れ、絵画や文学、オペラなどの中世風の衣装をインスピレーションとしたコレクションをデザインすることにシフトしていった。1980年代後半から90年代にかけてのコレクションは、ロココ絵画やマリー・アントワネット(Marie Antoinette)の宮廷、馬に乗った19世紀の英国貴族、トゥールーズ・ロートレック(Toulouse Lautrec)の描いた貴婦人などに着想し、ランウエイにはスーパーモデルも多く登場した。

生涯学習者であり、小学校の教師としてのキャリアをもつ読書家のウエストウッドは、常に深く学び、ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria & Albert Museum)で17世紀のファブリック・スラッシングなど歴史的なテクニックの研究にも熱心だった。彼女は洋服を裏返しにして、どのように作られたかを追求すること以上に好きなことはなく、模倣することは恥ではないと信じていた。実際何年もの間、コレクションの多くは、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)にインスパイアされたものだった。コルセット、クリノリン、バッスル、コッドピース、プラスチック製の鯨骨、パッドなどをデザインに取り入れ融合させることで、ブランドの特徴であるセクシーで破壊的なシルエットを生み出した。ほかにもインナーウエアをアウターウエアとしてデザインしたり、女装・男装のアイデアも好んだりと自由にデザインを楽しんだ。

テキスタイルの才に長けたウエストウッドは、愛用のハリスツイード、タータン、タフタ、バラシアウールなどをコレクションに取り入れ、社会的・環境的活動が花開いたキャリア後半にはメルトン生地と麻に目を向けた。

18年秋冬メンズ・コレクションでウエストウッドは、第二次世界大戦中にマウントバッテン卿によって導入された「マウントバッテンピンク」として知られる色の洋服を制作。この色について「この色は灰色に見えるが、夜明けや夕暮れの光の下ではモーブ色に変わるので気に入っている」と米「WWD」に語った。

伝統と過去への敬愛

ウエストウッドは異端児でありながらも、伝統と過去への尊敬は忘れない。77年にセックス・ピストルズのためにデザインした “God Save the Queen”Tシャツもその一つ。破れたTシャツには、安全ピンで口を挟んだ“クイーン”を描いたジェームズ・リード(James Reid)のデザインがあしらわれていた。

ブランドロゴはクラウンの宝珠、オーブにインスピレーション得て作成したものだ。02年にエリザベス女王が亡くなったとき、ウェストウッドはその功績を称えた。「女王は国をまとめており、国際外交の象徴。私たちは皆、女王に感謝する必要がある」と語った。80年代には、チャールズ皇太子と彼の妻、現在のカミラ王妃にフォーマルなイベントのための服も制作している。06年、黒いシルクのポルカドットドレスに身を包み、古代の豊穣のシンボルであるゴールドのスワロフスキーの角を頭に載せたウェストウッドは、当時のチャールズ皇太子(現チャールズ3世)からデイムの称号を授与された。

「迷ったら、ドレスアップ」

素晴らしいデザインはもちろんだが、シャープな肩のケープコートに身を包み、当時のイギリスのキャメロン首相(David Cameron)の自宅の芝生に戦車を走らせたウェストウッドの姿を忘れる人はいない。シェールガス採掘反対デモに参加していたウエストウッドは、「迷ったら、ドレスアップ」のモットーを忘れることはなかった。

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