ファッション

「シーピー カンパニー」デザイナー2人の野心 幅広い層の心をつかむ機能美と革新性

イタリア・ボローニャ発の「シーピー カンパニー(C.P. COMPANY)」が、日本初の旗艦店を2月にオープンした。同ブランドを1971年に立ち上げた故マッシモ・オスティ(Massimo Osti)は、エロルソン・ヒュー(Errolson Hugh)やキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)ら、テクニカルなウエアを得意とするデザイナーたちに影響を与えた人物で、 “The Godfather of Urban Sportswear”とも称されている。

「シーピー カンパニー」は、縫製後に染色を施すことで独特な色味と生地感に仕上げる技術“ガーメントダイ”をはじめ、通常は紙に用いる印刷方法でTシャツを制作するなど、グラフィックデザイナーだった故マッシモの経験を生かした革新的なアイデアを数多く導入。同時に、現代では定番となったミリタリーウエアやワークウエアの機能性にいち早く着目し、ファッションアイテムへと昇華させた比類なきブランドだ。

同ブランドが生み出した数々のアイテムは、デザインだけでなく生地開発や染色技術と結実しており、そのどれもがトレンドに左右されず、時代を越えてもエバーグリーンな輝きを放つ。現在もコアなファンから若い世代まで幅広い層の支持を集め、ビンテージ市場でアーカイブの価値が年々上がっているのは、半ば必然ともいえるだろう。

そして、故マッシモの飽くなき探究心と愚直な姿勢は、現在ヘッドデザイナーを務めるポール・ハーヴェイ(Paul Harvey)とアレッサンドロ・プンジェッティ(Alessandro Pungetti)の2人にも引き継がれている。旗艦店オープンのタイミング来日した、ハーヴェイとプンジェッティ、さらにマッシモの息子であるロレンツォ・オスティ(Lorenzo Osti)社長兼GMの3人へのインタビューから、「シーピー カンパニー」を解き明かす。

「意匠性との二者択一であれば機能性を選ぶ」

PROFILE: ポール・ハーヴェイ/「シーピー カンパニー」デザイナー

ポール・ハーヴェイ/「シーピー カンパニー」デザイナー
PROFILE: 1957年生まれ、イギリス・ミドルズブラ出身。ロンドンのセントラル・セント・マーチンを卒業後、イタリアに渡ってフリーランスデザイナーとして「モンクレール」「フィオルッチ」「ベネトン」などの仕事を15年間手掛けた。94年から「ストーンアイランド」のデザイナーを12年間務めた後、「シーピー カンパニー」のデザイナーに就任 PHOTO:KO TSUCHIYA

ーーまずは、二人が「シーピー カンパニー」のヘッドデザイナーに参画した経緯を教えてください。(注:1971〜1998年はマッシモ・オスティが、1998〜2001年はモレノ・フェラーリがヘッドデザイナー)

アレッサンドロ・プンジェッティ(以下、プンジェッティ):私は、「シーピー カンパニー」の創設地でもあるボローニャ生まれなので、ブランドとマッシモ・オスティのことは早くから知っていたんだ。そして、1990年代に別のブランドでデザイナーとして働いていたところ、当時オーナーだったカルロ・リヴェッティ(Carlo Rivetti、現ストーンアイランド会長)に声をかけられて2001年から働き始めた。それからしばらくして、「シーピー カンパニー」がある企業とコラボをすることになった際、仲介人から「素晴らしいデザイナーがいる」と紹介されたのが、友人のポールだったんだ。

ポール・ハーヴェイ(以下、ハーヴェイ):アレッサンドロとは1990年代から知り合いで、2012年に2人で「テン シー(TEN C)」というブランドも立ち上げている。その後「シーピー カンパニー」でも一緒に働くようになったのさ。

ーー「シーピー カンパニー」といえば、設立時からミリタリーウエアやワークウエアを着想源とした機能性が特徴の一つです。意匠性とのバランスをはじめ、デザイン時に留意している点はありますか?

ハーヴェイ:世界中で聞かれる質問だ(笑)。「シーピー カンパニー」の洋服をデザインする上で、それぞれのディテールには意味があって機能すべきだと考えているから、意匠性との二者択一であれば機能性を選ぶ。意味のない装飾としてのディテールは、極力デザインしたくないな。

ーー“Form follows function(形態は機能に従う)”ですね。

ハーヴェイ:まさに。“Functional beauty(機能美)”という言葉が存在しているように、デザインの根底には機能があるんだ。

「全てが着想源。それらをどう昇華していくか」

PROFILE: アレッサンドロ・プンジェッティ/「シーピー カンパニー」デザイナー

アレッサンドロ・プンジェッティ/「シーピー カンパニー」デザイナー
PROFILE: 1956年生まれ、イタリア・ボローニャ出身。機械工学の製図技師として働いた後、ファッションデザイナーに転身した。フリーランスのデザイナーとして「ゼニア」や「アイスバーグ」などに携わる。94年にポール・ハーヴェイと共に「ストーンアイランド」に加わり、ニットウエアのデザインを6年間行った。2001年から現職 PHOTO:KO TSUCHIYA

ーー機能性と同時に、生地開発や染色技術もブランドの不可欠要素ですが、デザインありきなのか、もしくは逆か。完成までのプロセスを教えてください。

ハーヴェイ:生地先行のデザイン思索とデザイン先行の生地選択、そのどちらのアプローチもあり得る。

プンジェッティ:コレクション全体のバランスで考えており、どちらかといえば生地先行が多いかもしれない。ただ、アイテムのデザインを入口に私たちからテキスタイルサプライヤーに開発を依頼することも多々ある。逆に、彼らが新しい生地を開発したらすぐに提案してくれるし、どんな生地が欲しいかも逐一聞いてくれるんだ。彼らもチームの一員として行動を共にしている感覚に近い。

ーー提案された生地からアイテムのアイデアが生まれることもある?

プンジェッティ:生地や素材だけでなく、技術、体験、他のブランドの洋服、ユニホームなど、全てが着想源さ。それらをどうイノベーティブなアイテムに昇華していくかが、「シーピー カンパニー」の考え方だ。

ハーヴェイ:「シーピー カンパニー」にルールはない。基本的に、常にイノベーティブなアイテムを生み出したい欲望があるんだ。

ーー着想源というと、他ブランドの多くはシーズンごとに映画や音楽、旅など、明確なテーマを設けてコレクションを制作しますよね。

ハーヴェイ:われわれもシーズンごとにコレクションを発表しているから、同様の発想で制作することはできるけど、実行には移さないと思う。

ーーでは、数多くの生地や加工の中で気に入っているものはありますか?

プンジェッティ:あまりにも多すぎるからな……。あえて挙げるとするならば、泥染加工の“ティントテラ(Tinto Terra)”だ(注:土を原料とした天然色素を利用し、素材に虹色の光沢を与える加工法)。

ハーヴェイ:いろいろな生地と技術を組み合わせているから難しいが、われわれの「ゴアテックス」の使い方は面白いと思っている(注:世界で初めて同素材のガーメントダイを成功させている)。

1988年のエポックメイキングな発明

ーー1988年に誕生したジャケット“ミッレ ミリア(MILLE MIGLIA、通称ゴーグルジャケット)”のゴーグルとウォッチビューアーレンズのディテールは、今ではブランドのシンボルとなっていますよね。

プンジェッティ:どちらも現代では優れた機能性を誇るわけではないが、本来は純粋な意味があったディテールだからこそ、年月を経ていく中でシンボルへと確立していったのだろう。特にウォッチビューアーレンズは、さまざまな箇所にあしらわれるようになったことで機能性を損なった反面、それ自体がブランド力を持つようになったと考えている。

ハーヴェイ:ゴーグルジャケットは、いつだってクリエイションの源だ。例えば、実際にゴーグルを使用しようとすればフードを被る以外の方法はないから、フードは絶対に必要なパーツになる。では、Tシャツしか着用していない場合は?といった具合だ。ウォッチビューアーレンズのデザインも本当に大変で、袖の横にあしらうと人や壁に当たる可能性が高まり、時計の真上ではレンズに触れて傷が付く。時間を確認する際には、レンズを時計に近付けるために袖をギュッと引っ張る必要がある。言ってしまうと、機能性は低い(笑)。だが、設立当初からシンボリックなデザインがなかった「シーピー カンパニー」にとって、ゴーグルとウォッチビューアーレンズをデザインとして落とし込めるようになったことは、エポックメイキングな発明だったんだ。

ーー“ミッレ ミリア”などのアーカイブアイテムを振り返り、最新コレクションに生かすことはよくあるのでしょうか?

ハーヴェイ:アーカイブに時間を費やすことは全くないと言っていい。

プンジェッティ:倉庫にアーカイブを見に行くことはあるが、頻繁ではない。過去のアイテムは全て頭に入っているし、立ち戻ってばかりだと繰り返しになってしまう。過去の真似ごとと、ヘリテージへのリスペクトは別物だ。

ーー「シーピー カンパニー」のアーカイブアイテムが昨今ビンテージ市場で人気を博している現象についてはどう考えますか?

プンジェッティ:一度市場に出たアイテムは、個の命を持っているものとしてコントロールすべきではない。そのためビンテージ市場には介入せず別の土俵だと割り切っているが、人気を集めているのは本当にハッピーなことだ。

ロレンツォ・オスティ(以下、オスティ):これに関しては、私からも言いたいことがある。私たちとは別のプレーヤーによるこの事象は、洋服の耐久性と世代を越えて愛されていることを示す何よりの証拠だ。そして、長く着続けられていることは、結果としてサステナビリティにもつながる。素晴らしいことでしかないよ。

ーー現行とアーカイブの双方でファンを獲得している理由の一つは、ヘリテージとモダンという相対する価値観の共存だと思います。

ハーヴェイ:常に挑戦し続けてきたので、「長年にわたって、変わらず同じことを続けてきた」とは言いたくないが、その継続性にオーセンティシティー(普遍性、信頼性)を感じ取ってくれているのだろう。変わらないことに意味を見出せない人がいる一方で、そこに“本物”という価値観を見出してくれる人もいる。歴史を守りながら方向性は変えず進化していくーーいい意味でグレーゾーンな部分が魅力になっているのだと思う。

常に探求を続ける貪欲な姿勢

ーー二人が思う「シーピー カンパニー」のDNAとは?

ハーヴェイ:よく聞かれるが、難しいから次の質問で。というのは冗談(笑)。個人的には、常にイノベーティブであること。機能性という概念や、アイテムの命が長く続くための生地選びも重要だが、それはあくまで一部のこと。DNA自体が複雑な構造のように、他にも多くの要素があって言い尽くせないな。

プンジェッティ:マッシモ・オスティという人物が始めたブランドだから、彼の存在そのものが着想源。それをどう現代的に解釈するかがブランドのDNAだ。

ーー最後に、2024年はマッシモ・オスティの生誕80周年です。何か企画していることはありますか?

オスティ:今年中に新レーベル「マッシモ オスティ ストゥディオ(MASSIMO OSTI STUDIO)」を本格的に浸透させたい。「シーピー カンパニー」の中の一つのレーベルとしての位置付けで、最先端の技術を駆使した、実験的なプロダクトを今後も小規模で発表していく予定だ。また、父が遺したイノベーションの多くは、残念ながらファッションスクールではあまり伝えられていない現状にあるので、将来的にファウンデーションの設立を視野に入れている。そして、2025年は父の死後20年という節目のため、大規模な回顧展を企画中だ。東京を含む、世界中の都市を巡る予定だから楽しみにしていてほしい。

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