アダストリア(木村治社長)は、「ディーン&デルーカ(DEAN & DELUCA)」や「シボネ(CIBONE)」「ヘイ(HAY)」を運営するウェルカム(横川正紀社長)から、ライフスタイル雑貨業態の「トゥデイズスペシャル(TODAY’S SPECIAL)」「ジョージズ(GEORGE’S)」の2ブランドを買収する。「国内の雑貨市場は3兆5000億円規模と言われている。雑貨はコロナ禍以降いっそうニーズが強まっており、グループ化して雑貨業態をさらに強化する」(木村社長)狙い。
新会社トゥデイズスペシャルに2ブランドの事業を承継し、7月1日付でアダストリアに全株譲渡して子会社化する。買収金額は非公表。新会社の社長を務める中塚基宏氏をはじめ、これまでウェルカムで2ブランドに携わってきた社員80人がアダストリアグループに移る。現時点での2ブランド計の年間売上高は30億〜35億円前後といい、25年2月期(8カ月間)としては売上高20億〜25億円を見込む。
アダストリアはグループで約30ブランドを運営しており、雑貨に強い業態では「ニコアンド(NIKO AND …)」「スタディオクリップ(STUDIO CLIP)」「ラコレ(LAKOLE)」などを持つ。「服飾雑貨を含めた雑貨カテゴリーとしては全社売り上げの4分の1を占めるまでになっている」と木村社長。雑貨業態の中でも比較的ハイエンドマーケットに強い「トゥデイズスペシャル」「ジョージズ」をポートフォリオに加え、出店力や生産背景、自社EC「ドットエスティ(.st)」を生かしてさらに成長させる。物流やシステムも、今後共通化できる部分を探っていく。
「トゥデイズスペシャル」は現在、都心ファッションビルを中心に8店、「ジョージズ」は大型SC中心に16店がある。「『トゥデイズスペシャル』はここから急激に多店舗化するわけではないが、『ジョージズ』は出店余地がある」と見る。思い描くのは09年に買収した「スタディオクリップ」だ。「買収当時は36店、売上高30億円前後だった」が、24年2月期は売上高220億円、実店舗数179と、アダストリアの基幹4ブランドの一角に育った。その成長ノウハウを今回の2ブランドに生かす。会員数1750万人超を誇る「ドットエスティ」とは、「なるべく早期にシステムを連携させ、買収から半年以内で2ブランドの取り扱いを開始する」。
「ディーン&デルーカ」の
「ドットエスティ」出店も期待
ウェルカムは「ディーン&デルーカ」が主要業態ではあるが、「トゥデイズスペシャル」は「収益性は最も高い」(横川社長)事業であり、「ジョージズ」は30年前から運営する同社の祖業だ。「コロナ禍以降、今回の2ブランドを含めインテリアや雑貨業態は追い風にある」と横川社長が語る中でも売却を決めたのは、「すべての事業を同等に成長させるリソースが社内にない」ため。「われわれは(新コンセプトの業態開発など)ゼロをイチにすることに長けているが、(店舗の運営が各店の裁量に拠っていたり、雑貨の生産背景も未開拓の部分が大きかったりと)ある程度育った事業をさらに成長させるには、アダストリアのリソースを生かした方がいい」と判断した。
パルの「スリーコインズ(3COINS)」に象徴されるように、コロナ禍の巣ごもり期間を経て、雑貨業態の躍進が著しい。「コロナをきっかけに、お客さまのお金の使い方は確実に変わった。何が幸せかをお客さまが再考した結果、服は以前に比べて買われなくなり、消費がライフスタイル重視に変わった」と木村社長。両社長は15年来の付き合いといい、木村社長は「マック(横川社長の愛称)は僕のライフスタイルの先生。ニューヨークやロサンゼルスに出張する際は、必ずマックに今行くべき飲食店やショップを聞く」と語る。アダストリアとしては今回の買収をきっかけにウェルカムとつながりを深め、他社の乗り入れを進めている「ドットエスティ」への「ディーン&デルーカ」の出店といった青写真も描く。