伊勢丹新宿本店はこのほど、自社のクレジットカード、エムアイカードで購入した時計に対して、持ち主の不注意や不慮の事故による故障までカバーする5年間の保証サービス「イセタン ミツコシ ウォッチ ギャランティー(ISETAN MITSUKOSHI WATCH GUARANTEE)」をスタートした。同店でエムアイカードやそのポイントを使って時計を購入した顧客が、その時計を受け取る際にのみ加入できる(一部ブランドは対象外)。
保証期間内なら「免責0円」で税込10万円以内の修理は何度でも受けられ、費用が10万円を超える場合は超過分を持ち主が負担する。
飛躍的に伸びた時計の品質保証期間
部品の耐久性や信頼性の向上が背景に
2015年ごろまで、時計の品質保証期間は家電同様に「購入後1年間」が普通だったが、この10年で高級時計の品質保証期間は飛躍的に伸びている。このトレンドに決定的な役割を果たしたのが、スウォッチ グループ(SWATCH GROUP)の中核ブランドである「オメガ(OMEGA)」だ。18年に品質保証期間をいち早く「購入後5年間」に伸ばして以降、他の時計ブランドが続々と追随。50万円を超える高級時計ではいまや「2年間」あるいは「5年間」が標準になった。最近では、オフィシャルサイトへのユーザー登録で「8年間」や「10年間」を保証する時計ブランドも珍しくない。その背景には“時計のエンジン”であるムーブメントや文字盤、ケース、ブレスレットの素材や構造、精度の改善と進化による耐久性・信頼性の大幅な向上がある。
しかし期間は長くなったものの、従来のメーカー保証がカバーしてくれるのは、基本的にはトラブルの原因がメーカー側にある場合のみ。持ち主自身の不注意、また不慮の事故が原因で起きた修理は、すべて対象外だった。その点で、持ち主の不注意や不慮の事故による故障までカバーする「イセタン ミツコシ ウォッチ ギャランティー」は画期的だ。
またこの保証は、メンテナンスサービスでも威力を発揮する。保証期間中なら最大10万円を上限に、通常費用の20%引きで何度でもオーバーホール(分解整備)を依頼できるほか、新作時計などを紹介する同店独自のカタログや、イベントの告知も届く。
保証料は、時計の購入代金(税抜)が100万円以下の場合はその5%。これはエムアイカードを使って時計を購入するときに付与されるカードのポイントとちょうど同じ。つまり付与されるポイントを使えば、時計の購入代金だけで加入できるのだ。さらに購入代金が200万円以上の場合、保証料金は一律10 万円とさらにお得だ。
独自の保証が生まれた経緯
時計売り場の改装と保証サービスの開発を担当した、三越伊勢丹 第2MDグループ 新宿宝飾時計・雑貨商品部の上野翔太(うえの・しょうた)宝飾・時計バイヤーは、「何年も前から、こうした保証が作れないかと法務部門と検討し、3月末の売り場の改装になんとか間に合った。保証の費用を抑えられたことやメーカーのサービスセンターで修理を引き受けて頂くことなど、画期的なサービスが実現できたのは、伊勢丹新宿本店で多くのお客さまが時計を購入してくださるからこそ。また保証サービスの会社がグループ内にあったことも大きな理由。今後は保証対象のブランドを増やしていく」と語る。
メーカー保証対象内の修理については使えないほか、火災や天災などによる故障、修理不能な全損状態の場合など、保証対象外のケースもある。だがこうした対象外のケースは、保証サービスの「常識」に照らしても妥当なものと言える。
持ち主の不注意や不慮の事故による故障までカバーする時計保証は、これが初めてではない。「フランク ミュラー(FRANCK MULLER)」の日本総代理店であるワールド通商が23年秋から提供しているような、加盟店で購入した高級時計ユーザーにのみ会員制で提供している動産保証もある。
だが百貨店が保証サービスを開発し提供するのは、画期的なこと。今後、こうした保証が百貨店業界、さらには時計専門店にも拡がるのか。あるいは独自の保証を展開する時計ブランドが出てくるのか。このサービスが百貨店業界や時計業界に与える影響に注目したい。