
中価格帯メイクの現状が見えてきたところで、取材に協力していただいた業界関係者に「中価格帯メイクを活性化させるためにはどうすればいいか」をヒアリング。そのポイントを5つの戦略としてまとめた。ここに中価格帯メイクブランド復活のカギがある。(この記事は「WWDJAPAN」2024年4月22日号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋です)
西原羽衣子/@cosmeリサーチプランナー
中原絢子/@cosme TOKYO事業部
西村拓也/トモズ 商品部マネージャー
岸野彩/トモズ 商品部チーフ
匿名A/ドラッグストア
匿名B/化粧品販売店
匿名C/ドラッグストア
菅野沙織/日本輸入化粧品協会 理事長
戦略1:
ワクワクさせる施策・情報発信の強化
資生堂ジャパンはデジタルに特化した美容部員をそろえ、YouTubeアカウントを開設。双方向のコミュニケーションでエンゲージメント強化を図っている。「資生堂の美容部員のSNS発信は好印象。アットコスメの口コミの情報源としても、出現率が少しずつ上がっている」(西原氏)
「セルフブランドであるプチプラはあまたある競合ブランドの中で、どのように差別化し目立たせるか、という点で雄弁。熱いパワーを感じる」(菅野氏)。「キャンメイク」の公式インスタグラムのフォロワー数は70万に迫る勢い
ピールオフ広告を展開した「ミシャ」。サンプルを全て取るとTWICE・SANAの特大ビジュアルが登場する仕掛けがファンの間でも話題に
「K-POPや映画、ドラマなど、韓国はトレンドのハブになっていると言える」(匿名B)ことから、韓国コスメのメイクは、すでに“高揚感”をもって生活者に迎えられている。「それに対抗するのは難しいが、『キャンメイク(CANMAKE)』のSNSなどプチプラが提供する“ワクワク感”は参考になるはず」(匿名A)。「化粧下地とファンデーションは違うブランドを使う人がほとんどだからこそ、異なるブランドのアイテムと相性がいいなど、知る人ぞ知るという情報をインフルエンサーに発信すれば注目を引き付けられるはず」(中原氏)。また、「韓国の有名な女優やアーティストを起用し、生活者が『この人になりたい』と心動かす戦略」(西村氏)も参考にしたい。
pick-up 好調な国内ブランド1:
「フジコ(FUJIKO)」
感性に訴える
ネーミングと商品でヒット連発
中価格帯メイクが苦戦している中、好調の理由は?
「インフルエンサーなど“人”に依存せず、あくまでブランドや商品の特異性を出すことに専念しているからだと考える」(大谷奈央PR担当)。
認知度や売り上げを伸ばすための施策は?
「ワクワク感を感じさせることを軸に置くことで、商品に対する期待感を醸成し続けている。SNSでの話題作りはもちろん、生活者目線も大切にしている」。
戦略2:
“ジェネリックコスメ”というワードも
まねることを躊躇しない
「アットコスメ(@COSME)では“ジェネリックコスメ”というワードが頻出している。デパコスのリップAとプチプラのリップBのカラーが似ている場合、BはAの“ジェネリックコスメ”という表現で使われており、1本数千円のリップは手がでなくても、『プチプラで品質がいいなら、これをリピートすればいい』という声がある」(西原氏)と、“人気色に便乗する”という流れが加速している。一方、韓国コスメは流行っているカラーや質感をすぐさま分析。短期間で開発して市場に出す、というスピーディーなサイクルで展開しておりこの流れは止められない。人気色やトレンドになりそうなアイテムがあれば、すぐさま自社ブランドに取り入れつつ、オリジナリティーを付加して市場に出すという柔軟さが求められる。
戦略3:
企業努力が伝わっていない現実
品質の高さを主張・喧伝する
百貨店やプチプラの価格が中価格帯に食い込んでいるからこそ、中価格帯ならではの価値創出が不可欠に。それは商品の魅力や成分に関わる積極的な発信も含まれる。「中価格帯の商品は、企業努力が伝わりきっていないようにみえる。生活者の美容知識が高まる中、メイクにおいても成分や技術を丁寧に伝えるべき。例えば、アイシャドウが粉飛びしない、パウダーなのに長時間よれないといった技術。ブランドが考える以上に生活者にニーズのある情報だと思う」(西原氏)。「メイクアップは乗り換えのハードルが低いが、ベースメイクはリピーターも多い。特に美容成分が配合されているベースはスキンケアに近い選び方をしており、このカテゴリーにはスキンケアに定評のある国内老舗ブランドの勝機があるはず」(中原氏)。
戦略4:
ブランドのオリジナリティーで攻める
「韓国生まれの“毛穴管理”ナチュラルコスメ」とうたう「バイユア」。毛穴ケアは多くの日本女性の心に響いているようだ
「ミシャ」はスキンケアシリーズのミューズとしてTWICEのSANAを起用した
オリジナリティーを持つブランドは、競合の中でも揺らがない強さを持つ。「韓国コスメの『バイユア(BYUR)』は“毛穴管理”を公式サイトやSNSなど至るところで言及しており、毛穴といえば『バイユア』というイメージ作りに成功している。また敏感肌で使えるレシピながら、トレンドに敏感な配色をそろえているイメージがある『エトヴォス(ETVOS)』など、独自の魅力を打ち出しているブランドには支持が集まっている」(西原氏)。それは、ブランドを代表するアイコンであってもいい。「『ミシャ(MISSHA)』が起用しているTWICEのSANAは、『イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)』のアンバサダーも務めるなどイメージが大人路線。“かわいい路線”が多い、他の韓国ブランドとの差別化ができている。F2層のアテンションも集めている」(匿名C)。
pick-up 好調な国内ブランド2:
「エトヴォス(ETVOS)」
徹底した“敏感肌仕様”と
トレンド感あるカラーで「ダブルの魅力」
中価格帯メイクが苦戦している中、好調の理由は?
「敏感肌でもトレンドカラーでメイクができることが人気を後押ししている。また、肌への優しさだけではなく、仕上がりの美しさも訴求したことと考える」(江利山結美PR担当)。
認知度や売り上げを伸ばすための施策は?
「ミニサイズのキットの販売をきっかけに積極的に新規顧客を開拓した他、既存品のリプロモーションも行うことでクロスセルを促した」。
戦略5:
商品開発スピードを上げる
商品リリースのスピードを上げる必要性も多くの業界関係者が口をそろえる。「スピードを上げて開発し、商品を発売しないと乗り遅れる。1つの商品を継続して使う時代は終わった」(岸野氏)。「国内ブランドは企画・開発から商品化までのリードタイムが長く、トレンドに遅れがち。韓国で流行っているミニサイズのコスメを見ると、若年層のトレンドの移り変わりがいかに早いかが分かる」(匿名B)。それに加え「コスモプロフ(国際美容展示会)を見ても、韓国ブランドは新たな剤型を生み出すのが得意。驚くほどアイデアに満ちている」(菅野氏)という。新しいトレンドや成分を生み出し、失敗を恐れず商品化すること。その姿勢に学ぶべきことは多くある。