業界関係者によると、「セリーヌ(CELINE)」を2018年から率いてきたエディ・スリマン(Hedi Slimane)=アーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクターが、ブランドを去るようだ。スリマンは、同ブランドの親会社であるLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON、以下LVMH)に退任の意向をすでに伝えたと言われており、退任の正確な時期はまだ分からないが、今年後半になるのではないかとみられている。なお、後任の最有力候補は、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代の「セリーヌ」でレディ・トゥ・ウエアのデザイン・ディレクターを務めたマイケル・ライダー(Michael Rider)だという。ただし、米「WWD」が23日(現地時間)に連絡を取った「セリーヌ」の関係者は全員コメントを差し控えるとし、スリマンとライダーからもコメントは得られなかった。
ビジネスSNSの「リンクトイン(LinkedIn)」によると、ライダーはアメリカ・ロードアイランド州のブラウン大学を卒業後、04年から08年まで「バレンシアガ(BALENCIAGA)」でシニアデザイナーを務めた。その後10年間、「セリーヌ」に在籍。現在は「ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)」のクリエイティブ・ディレクターを務めている。
これまで「ディオール オム(DIOR HOMME)」や「サンローラン(SAINT LAURENT)」を手掛けてきたスリマンは、独自の美意識とアプローチで伝統あるブランドを活性化させてきた実績があるが、その最盛期にブランドを去ってきた。LVMHはブランド別での売上高を開示していないが、投資銀行RBCキャピタルマーケッツ(RBC Capital Markets)のアナリストによる最近のリポートで、「セリーヌ」の売上高は約25億ユーロ(約4100億円)と推定されている。
後任に求められるのは、エディの“成功の方程式“の継承?
スリマン自身は公の場にほぼ姿を現すことはなく、インタビューに応じることも少ない。しかし、その控えめな性格とは裏腹に、研ぎ澄まされたレディ・トゥ・ウエアのコレクションや人気の“トリオンフ“モチーフをあしらったレザーグッズ、BLACKPINKのリサ(LISA)のような知名度の高いブランドアンバサダー、そして自ら撮影する印象的なモノクロのキャンペーンで、世界的に「セリーヌ」の熱狂的なファンベースを築き上げるとともに、ブランドの影響力と売り上げの向上に貢献してきた。その人気の一例として、先週開催されたLVMHの年次株主総会では、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者が日本で「セリーヌ」の店舗の前に長い行列ができていることを誇らしげに語った。
また、スリマンはメンズとビューティカテゴリーにもブランドを拡大。「セリーヌ」は現在、独自のスケジュールで映像を通して新作コレクションを発表しており、メンズ(「セリーヌ オム」)の24-25年秋冬コレクションは5月に公開されるとみられる。また、成功を収めた高級フレグランス“オート パフューマリー”に続き、3月には24-25年秋冬ウィメンズ・コレクションの映像公開によってコスメ事業への参入を発表。まず25年1月にリップスティックを発売する。「セリーヌ」によると、その後もシーズンごとにスリマンによるビューティ・コレクションを発表し、最終的にはリップバームやマスカラ、マニキュア、アイライナー、ペンシル、ルースパウダー、チークケースで構成する予定だという。
LVMHは、後任に対し、フランスのブルジョワスタイルを軸にグランジやオルタナティブ・ミュージックシーンを感じさせる要素を交えるというスリマンが築き上げた“成功の方程式“から大きく外れることなく、ブランドの勢いをさらに加速させることを望んでいるようだ。