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「SOUCE(源)」がテーマの「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2024」リポート 写真家の川内倫子らがメインプログラムに参加

京都の歴史的建造物や近現代建築に国内外の作家の写真作品を展示する「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2024(以下、KYOTOGRAPHIE)」が5月12日まで開催している。

12回目を迎える今回は「SOUCE(源)」がテーマ。生命や愛、自由の源を探究し、新たな未来の姿を想像するきっかけとなる作品群と共に、おすすめの展示をリポートする。

川内倫子/潮田登久子「From Our Windows」
川内倫子「Cui Cui + as it is」
潮田登久子「冷蔵庫/ICEBOX + マイハズバンド」
Supported by KERING’S WOMEN IN MOTION

ケリングが2015年に立ち上げた、芸術や文化に関わる分野で活躍する女性たちに光を当てることを目的とした「ウーマン・イン・モーション」が今回サポートするのは、川内倫子と潮田登久子による対話的展覧会「From Our Windows」だ。

川内は、13年にわたり祖父の死や甥の誕生など家族を被写体として撮り続けた「Cui Cui」と自身の出産から約3年間、子どもの姿や子育ての中で出合った身近な風景を撮りためた「as it is」を展示している。

潮田は、ごく普通の家庭にある冷蔵庫の外側と内側を定点観測的的に撮影した2枚組のモノクロ写真シリーズ「冷蔵庫/ICE BOX」と、夫で写真家の島尾伸三と娘のまほとの約40年前の生活を記録した「マイハズバンド」を展示。作品に合わせて40年前から大切に取っているという思い出の品々も展示している。

共に家族を被写体として記録を続ける中で、時間を積み重ねて向き合ってきたからこそ、独自の視点やアプローチを感じることができるのだろう。あえてスペースを分けたキュレーションに加えて、それぞれの展示方法がすべて異なる点も興味深い。

会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
時間:10:00〜18:00

川田喜久治
「見えない地図」
Supported by SIGMA

1965年に刊行した写真集「地図」は、原爆ドームの壁や天井を埋め尽くすシミを追い、若い攻隊員の肖像や手紙、廃虚と化した要塞等を通じて戦火の記憶を炙り出した、日本写真史の金字塔として国内外に知られている。同展では、「地図」より、戦後から昭和の終わりまでを写した「ラスト・コスモロジー」、近年新たに取り組んでいる「ロス・カプリチョス」の3タイトルを7つの部屋に分けて鑑賞できる。

現在もプリントの作品に加えて、2017年から始めたInstagramに写真をアップし続けている。戦後直後から記録を続けてきた川田にとって、現代の日本はどう映っているのだろうか。何かを暗示するような同展のタイトルからもそう考えさせられる。

会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
時間:10:00〜18:00

柏田テツヲ
「空(くう)をたぐる」
Presented by Ruinart
Ruinart Japan Award 2023 Winner

旅をしながら人と自然の関係性を問いかけるような作品づくりを行う柏田テツヲは、「Ruinart Japan Award 2023」を受賞し、世界最古のシャンパーニュブランド「ルイナール」のアート・レジデンシー・プログラムに参加。2023年に2週間、ランス地方で滞在制作を行った。

滞在中に目の当たりにした、自然に影響をもたらしている地球温暖化と葡萄畑を歩いているときに引っかかった蜘蛛の巣が目視しづらい状態でも存在していることから、環境変化のメタファーとしてインスピレーションを受けた作品を展示している。
会場には写真の他にも、糸を蜘蛛の巣に見立て植物と組み合わせた作品も観られるので、滞在制作の足跡を辿るような感覚で鑑賞できる。

会場:両足院
住所:京都府京都市東山区小松町591
時間:10:00〜17:00
休日:5月1、8日

バードヘッド(Birdhead/鳥頭)
「Welcome to Birdhead World Again, Kyoto 2024」
Presented by CHANEL NEXUS HALL

2004年に結成されたバードヘッド(Birdhead)は中国・上海を拠点に活動するアートユニットだ。めまぐるしい発展を遂げる上海で客観的なまなざしで街や人間の変化を見続け、身近な存在を被写体にノンフィクションで発信してきた。

会場では、老舗帯問屋の誉田屋源兵衛の建築的特徴を活かした二部構成で作品を展示している。竹院の間では、シルクスクリーンで木材に写真画像を印刷した「Bigger Photo」シリーズの近作5点に加え、代表作でもあり、昨年京都と東京で撮影された124点のイメージからなる「Matrix」の新作を展示している。

古い蔵を現代建築と融合させた黒蔵では、写真の神秘的な力を崇めて、空想の宗教「Phototheism」と信条「We Will Shoot You(我らは汝を撮影す)」をテーマにしたコラージュやインスタレーションを展開している。媒体を横断した作品展示からは、写真表現の可能性や在り方を問いかけるような印象も受ける。

会場:誉田屋源兵衛 竹院の間、黒蔵
住所:京都府京都市中京区室町通三条下ル 西側
時間:10:00〜18:00
休日:5月2、9日

クラウディア・アンドゥハル
「ヤノマミ ダビ・コベナワとヤノマミ族のアーティスト」

スイス出身でブラジルに移住したアーティストのクラウディア・アンドゥハルは、アマゾンの奥地で1万年以上にわたり、独自の文化や風習を守り続けているラジル最大の先住民族ヤノマミの主張や権利を守るために撮影を続けた活動家だ。同展では、アンドゥハルの写真や映像作品とヤノマミのアーティストによるドローイングが展示されており、彼らの思想や政治観、社会性などを垣間見ることができる。監修を務めたのは、シャーマンでもあり、ヤノマミを代表するダビ・コペナワだ。

コペナワは「ヤノマミ族の住む地は、ブラジル政府によって先住民保護区の認定をされているものの、金の違法採掘で環境破壊や感染病といったさまざまな被害を受けている」と悲惨な現状を明かすと共に「展示作品を通じてヤノマミ族の素晴らしい文化や豊かな自然、そしてどのような脅威に晒されているのかを知ってほしい」と鑑賞者に訴えかける。

会場:京都文化博物館 別館
住所:京都市中京区三条高倉
時間:10:00〜19:00
休日:5月7日

ヨリヤス(ヤシン・アラウイ・イスマイリ)
「カサブランカは映画じゃない」
Supported by agnès b.

モロッコの写真家ヨリヤス(ヤシン・アラウイ・イスマイリ/Yassine Alaoui Ismaili)はプロのブレイクダンサーとして活動した後に2015年に写真家としてのキャリアをスタート。

展示作品は、ヨリヤスの出身地でありカサブランカに暮らす人々や日常、公共空間などを撮影し続けたことで浮き彫りになった社会変化に焦点を当てる。ダイナミックで動的な作品群からはカサブランカという都市が持つ多面性も写し出している。作品特性を活かした展示空間も新しい写真の見方を提示しているようだ。

会場:ASPHODEL
住所:京都府京都市東山区八坂新地末吉町99-10
時間:11:00〜19:00
休日:5月1、8日

イランの市民と写真家たち
「あなたは死なない──もうひとつのイラン蜂起の物語──」
In collaboration with Le Monde

同展では、2022年9月、女性の髪を覆うヒジャブの着用が不適切だとして、22歳のマフサ・アミニが警察に拘束された後に亡くなった事件を受け、各地で起こった抗議運動を報道するために集められたSNSでの写真や動画が展示されている。ほとんどの作品の撮影者は伏せられているのだが、これはイラン当局による報道規制に背き、その現状を伝えようとする市民の写真や動画が匿名で展示している。

抗議する市民の様子を切り取った写真からは、スローガンに掲げた「女性、生命、自由!」というメッセージが痛いほど伝わってくる。

会場:Sfera
住所:京都府京都市東山区弁財天町17 スフェラ・ビル2階
時間:12:00〜19:00
休日:5月1、8日

ヴィヴィアン・サッセン
「PHOSPHOR|発光体:アート&ファッション 1990–2023」
Presented by DIOR
In collaboration with the MEP - Maison Européenne de la Photographie, Paris

同展は、オランダ・アムステルダム出身のファッションフォトグラファー、ヴィヴィアン・サッセン(Viviane Sassen)の日本初の大規模個展となる。

会場には、30年に及ぶキャリアを紹介する回顧展で、約200点の作品を展示。作品は、南アフリカで幼少時を過ごしたルーツともいえる鮮やかな色彩、緊張感のある多層的で豊かなイメージにあふれていて、絵画的なポートレートのファッション写真から数々のラグジュアリーブランドのビジュアルにも大きな影響を与えていることが伺える。

光と影のコントラストに加えて、セクシャリティ、死といった根源的な思想が写真やドローイング、映像作品に反映されている。会場の京都新聞ビル地下1階の印刷工場跡という広大で無機質な空間とのコントラストも有機的なエネルギーを増幅させている。

会場:京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)
住所:京都府京都市中京区烏丸通夷川上ル少将井町239
時間:10:00〜18:00
休日:5月12日

ティエリー・アルドゥアン
「種子は語る」
Presented by Van Cleef & Arpels
In collaboration with Atelier EXB

フランスの写真家、ティエリー・アルドゥアン(Thierry Ardouin)による「種子は語る」では、フランスの国立自然史博物館の所蔵品で1万年以上前の出現時の種子から、現在のハイブリッドな種子を顕微鏡のような拡大鏡を直接カメラに取り付けて撮影を行なった作品が展示されている。

同作は、2009年にスタートした農業に関するドキュメンタリープロジェクト「Seed Stories」がきっかけとなった。種子の造形や美しさを観察するような会場設計も生命の歴史を紐解くことを試みているようだ。作品群からは既視感のある種子から、およそ微生物にように見えるものまで、自然の生命力を感じさせられる。

会場:二条城 二の丸御殿 台所・御清所
住所:京都府京都市中京区二条城町541
時間:9:30〜17:00

ジェームス・モリソン
「子どもたちの眠る場所」
Supported by Fujifilm

ケニア出身でヴェネチアを拠点にするアーティスト、ジェームス・モリソンは、世界各国の子どもたちの肖像と寝室を写したシリーズ作品「子どもたちの眠る場所(Where Children Sleep)」を発表している。

作品から読み取れるのは、それぞれの国の経済状況や親の価値観を通した子どもを取り巻く環境だ。親の愛情を一心に受けているような温かな印象の部屋から、安全性が確保されているかわからない、ヒリヒリする緊張感が伝わる部屋まで、鑑賞者にあらゆる考察の視点を与える。毎日を平和に暮らせている現状にも改めて気付かされる。

会場:京都芸術センター
住所:京都府京都市中京区山伏山町546-2
時間:11:00〜19:00

ルシアン・クレルグ
「ジプシー・テンポ」
Supported by Cheerio

フランス・アルル出身で世界最古の写真祭「アルル国際写真祭」の創始者でもあるルシアン・クレルグ(Lucien Clergue)。写真や音楽において功績を残したクレルグの活動の根底にあるアルルという街とジプシーの関係に焦点を当てる。

1969年に開催した「アルル国際写真祭」と同じ頃に、間もなく世界的な名声を得るロマ族のギタリスト、マニタス・デ・プラタとの出会いから、ロマ族のコミュニティと親密な関係を築き、長年にわたり撮影を続けた作品や演奏やダンスを楽しむジプシーを捉えた写真が展示されている。

ちなみに、マニタス・デ・プラタはフラメンコギターバンドの「ジプシー・キングス(Gipsy Kings)」のバリアルド兄弟(ジャクー、モーリス、トニーノ)の父親でもある。会場内で流れる音楽を感じながら鑑賞したい。

会場:嶋臺(しまだい)ギャラリー
住所:京都府京都市中京区御池通東洞院西北角
時間:10:00〜18:00
休日:5月7日

ジャイシング・ナゲシュワラン
「I Feel Like a Fish」

インド出身の写真家、ジャイシング・ナゲシュワラン(Jaisingh Nageswaran)のプロジェクト「I Feel Like a Fish」では、ダリットと呼ばれる、ヒンズー教のカースト制度の最下層民のレジスタンス(抵抗)とレジリエンスに焦点を当てる。作品にはコミュニティーへの献身と共に、社会から疎外された人々の生活や闘争、忍耐などが表現されており、精度の根深さを感じさせる。

会場:TIME’S
住所:京都府京都市中京区三条通河原町東入中島町92
時間:11:00〜19:00

KG+SELECT 2024

公募型のコンペティション「KG+SELECT」の展示は、10名の写真家・アーティスト作品を展示している。グランプリに選ばれた作品は来年の「KYOTOGRAPHIE」で展覧会を開催する。

同所の特設ブース「SIGMA Lounge」では、濱田祐史の新作「Color Collection」シリーズを展示。コロナ禍の植物園で制作をスタート、デジタルで撮影した作品をインクジェットプリントした際に現れる色に着想し、被写体である植物の一部が漂白され、流れ落ちる様子が収められている。

会場:堀川御池ギャラリー
住所:京都府京都市中京区押油小路町238-1
休日:5月6日
時間:11:00〜18:00(最終入場18:00)

メインプログラム以外のおすすめ展示

髙橋恭司
LOST TIME

写真家の髙橋恭司は花をテーマに、写真集「Lost time」から13点と新作4点、1990年代のビンテージプリント3点を展示。現実において1秒でも同一性を保っている存在はなく、すべての瞬間は過去に直結し喪失していくのだが、花の先品は、ある瞬間にそこに存在していた痕跡を浮き彫りにする。

髙橋がノードホテルでの展示について「ウェルカムドリンクのように花で鑑賞者を迎えている」と話すように、フロントの鮮やかな花の写真から始まり、徐々に抽象性も帯びていき、空間には自然の美しさや静かで幻想的な雰囲気が共存する。会場では、完売となっている作品集「Lost time」を再刊行し販売している。

会場:ノードホテル
住所:京都府京都市中京区四条西洞院上ル蟷螂山町461

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