東証プライムの通販大手スクロール子会社のスクロールインターナショナルは、生成AIを使ったアパレルデザイン生成サービス「ライトチェーン(LIGHTCHAIN)」が、ユーザーを急拡大している。自社のデザイナー・パタンナーでも簡単に使えるよう使い勝手を磨きながら、技術は中国有数のベンチャー企業と組んだ。繊維商社やOEM会社、アパレル企業、小売チェーンなどをターゲットに、数年内にスタンダートなサービスへと普及させる。
「ライトチェーン」は、デザイン生成やスタイル変更、生地・柄変更、ディテール変更、ボタンやレースなどの副資材の追加・変更が数クリックでできるサービス。ユーザーは自社のアーカイブ写真データを読み込ませることで、AIに特徴を覚えさせ、生成したいアイテムの写真などを読み込ませることで、上記のようなデザイン生成や変更を数クリックでできるようになる。月々の使用料を支払い、ブラウザ上でログインして使用するSaaS(=Software as a Service、ネット経由のソフトウエアサービス)型のサービスになる。
「ライトチェーン」の最大の特徴は、必要な”プロンプト(テキストでの指示)”をなくし、クリックやドラッグで操作が可能にしたこと。「本日も取材を受ける前に某大手のアパレル専門店チェーンに行ってきたが、その場で(採用を)即決してもらえた」と語るのは、大手商社から2017年に同社に転じた、スクロールインターナショナルの音羽裕之・社長だ。音羽社長は、スクロール本体の執行役員も兼任しており、もともと通販事業の内製化・直紡化の担当役員だった。
だが、昨年9月に「生成AIを使ったアパレルデザイン生成に衝撃を受け」、事業化プロジェクトをスタート。今年2月には「ライトチェーン」のローンチにこぎつけた。「実質的に営業期間はまだ1カ月たらずだが、説明に行くと即決というケースも多く、アパレル企業からの反応は予想以上。当初はOEMなどを手掛ける企画会社や商社などをターゲットにしていたが、どんどんユーザーが広がっており、いまでは商社・OEM会社だけでなく、アパレル、小売チェーンなどにも広がっており、すでに50〜60社から申し込みをもらっている。初年度に掲げていた100社の獲得はほぼ前倒しで達成可能で、もしかしたら当初計画の2倍にすら到達しそうだ」という。
同社が自身も驚くほどの反響を得ているのには、いくつか理由がある。「1つ目が価格。OEMなどを行っている商社に営業に行くと、『こんなに安くていいの?』と聞かれるほどの価格設定。2つ目は、そもそもスクロールのデザイン・企画担当者が使えるよう、つまり使いやすさに徹底的にこだわっていること」。もともとカタログ通販が主力のスクロールは自社内に多くのデザイナー、パタンナーを抱えており、それらのスタッフが実務で使えるように日々改善、改良しているというわけだ。「中国でトップクラスの生成AIベンチャー企業とタッグを組んでおり、技術的にはかなり高い。その上でAIを全く触ったことのないデザイナーがストレスゼロで、数クリックで作業が完結できるUI/UXにしている」という。
価格をあえて低く設定している理由について音羽社長は「生成AIは、ものすごいスピードで進化している。大げさではなく、半年・1年で最新のサービスや技術も古臭く感じるほどだ。だからこの2−3年が勝負だと思っている。ワンクリックで瞬時に絵型を1000型でも2000型でも作れるような生成AIの普及は、これまでのアパレルの企画を根底から変えかねず、大きなインパクトをもたらす。まさに”ゲームチェンジ”だ。全くの新しいサービスだが、数年内に当社の『ライトチェーン』を日本のファッション業界で誰もが使うようなスタンダードなSaaSサービスにしたい」と意気込む。