ファッション

サレへ・ベンバリーによる「クロックス」 多様な視点が生み出すデザインに迫る

世界中の老若男女が好む「クロックス(CROCS)」に革命をもたらしたシューズデザイナー、サレヘ・ベンバリー(Salehe Bembury)。37歳にして、シューズ業界で数々の名作を生み出してきた若きデザイナーだ。そんな彼が“指紋”から着想を得てデザインした「クロックス」の“ポーレックス クロッグ(THE POLLEX CLOG)”は、画期的なモールド成型(金型で樹脂を形づくる製法)を使用し、シューズ業界に新しいトレンドを生み出した。まるで恐竜の化石のような見た目のフォームには、立体成型サンダルの概念を変えるほどのインパクトがあった。そのシグネチャースタイルから一変、シンプルなフォームとナチュラルなカラーリングに仕上げた最新コラボモデル“サル(SARU)”が5月9日に発売する。東京でのお披露目となったポップアップイベントの会場で、サレへに思いを聞いた。

――シラキュース大学でインダストリアルデザインを学んだあなたがシューズデザイナーになったきっかけは?

サレヘ・ベンバリー(以下、サレへ):大学時代はそれがシューズのデザインに繋がるとは思ってもいなかった。ただ、シューズが自分自身にどんな影響を与えてきてくれたかは、今でも覚えている。スニーカーを履くと空を飛べるような気がして、自分がスーパーヒーローになったような気がしたんだ。だから、自分の仕事と関連付けたいとも思ったし、自分の成長とともに、シューズをデザインするチャンスがやってきた。そのチャンスに感謝しているよ。

――インダストリアルデザインがシューズのデザインに影響を与えていると思う?

サレへ:もちろん。シューズデザイナーになるにはいくつかの道があると思う。一つはファッションを学ぶこと。もう一つはインダストリアルデザインを学ぶこと。もし、僕がファッションだけを学んでいたら、今もどこか窮屈に感じていたかもしれない。当然、それも間違ったことではないけど、自分自身は多くの視点を持ちたかった。当時はタイポグラフィやホワイトスペース(新事業領域)について学んだんだ。それがシューズデザインに多くの影響を与えていると思う。美学や見た目のデザインよりも先に実用性と機能性を重視するのは、僕が他のデザイナーと違うところかも知れない。まずは実用性と機能性を考えて、その上で美学や見た目のデザインを追求するんだ。

――「クロックス」のデザインでは、どのように機能面にこだわった?

サレへ:専門的な話になるけど、市場に出回っている「クロックス」製品の大部分は、EVAでできている。EVAは、加工しやすく環境にもいい。汎用性は高いけど、グリップ力はもう少し高い方がいいと思った。“ポーレックス クロッグ”では、既存の製品をどのように改善できるかを考えて、実際にアウトソールの前後2カ所にTPU(熱可塑性ポリウレタン)を追加した。TPUはゴムのようにしなやかな弾力性とプラスチックのような強さを併せ持った素材で、摩擦力が向上する。そのほかにも、通気性や履き心地も改良していて、そうした細かい配慮が僕のデザインなんだ。

――趣味がハイキングだと聞いた。ハイキングがデザインにもたらした影響はある?

サレへ:もしかしたらハイキングがそういった機能面にインスピレーションを与えたのかもしれないけど、シューズデザインにおいては、消費者全体のことを考えなければいけないと思っている。通勤や通学で道を歩く人がいれば、シェフで一日中立ちっぱなしの人もいる。僕は誰にでも履けるものを目指しているんだ。

――“ポーレックス クロッグ”をはじめ、あなたのデザインは新しいフォームを作ることに定評がある。新しいデザインを生み出すために最も重要なことは?

サレへ:既存の製品の隙間を見つけて、その問題を解決するためのデザインを考えることだね。デザインをすると美的感覚にとらわれすぎて、機能よりも美的感覚に負けてしまうことがあると思うけど、僕は常に両方のバランスを保つように心がけている。

――“ポーレックス クロッグ”は、“指紋”から着想を得たとか。

サレへ:そうだね。指紋を三次元的にデザインした。「クロックス」から、自分のシルエットをゼロから作ることを許されたとき、これは素晴らしいチャンスだと思ったよ。ほとんどの優れたクリエーターやデザイナー、アーティストは、一貫したブランドアイデンティティーを持っているけど、それがロゴの中に存在しなくてもいいんだって分かったんだ。“指紋”のデザインは、まさに僕のロゴのようなものだね。

――今回のコラボレーションモデル“サル”について教えて欲しい。

サレへ:新しいデザインは、「クロックス」とのコラボレーションでやってきたブランドアイデンティティーやデザインアイデンティティーを、より多くの人に届けることを目指したんだ。コラボレーションの中で、僕たちは3年間、積極的に消費者と対話を続けてきた。これまでにパリで2回、ドバイで1回、そして今回の東京と、ポップアップイベントも開いてきた。たいていのシューズは10カ月で寿命を迎え、ブランドは次のシューズに移行していく。そのデザインアイデンティティーを生かして、さまざまな価格帯のさまざまな商品を開発するんだけど、“サル”もそれと同じく、次の新しいシューズにあたる。“ポーレックス クロッグ”では、カラーも大胆で明るい色を選んだけど、“サル”はよりシンプルなフォームで、カラーも自然に結びつくように控え目にした。これまでとは異なる消費者に訴えかけるためだよ。

――“サル”というネーミングの由来は?

サレへ:北海道の沙流川(さるがわ)から付けたんだ。沙流川は過去に日本の(一級河川の)水質調査で1位に選ばれているというのを見かけたからね。今回のコンセプトにぴったりだと思った。ネーミングは、コミュニケーションを生み出すからすごく大切にしている。

――シューズに限らず、将来、デザインしてみたいものはある?

サレへ:歯ブラシをデザインしたいね。歯ブラシはかなり長い間、あまり変わっていないと思うんだ。「ダイソン」の掃除機やハンドドライヤーは、何十年も変わっていなかったものをより良いものにした。全ての人が使う製品を再考することが重要なんだよ。それがビジネスチャンスでもあると思う。

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