故郷のアメリカ・シカゴを拠点に活動するジョー・フレッシュグッズ(Joe Freshgoods)ことジョセフ・ロビンソン(Joseph Robinson)。彼は、自身のブランド「ジョー・フレッシュグッズ」を手掛けるデザイナーであり、セレクトショップ「ファットタイガー ワークショップ(Fat Tiger Workshop)」を運営するファウンダーであり、若きアーティストやクリエイター支援するメンターであり、地元のブラックコミュニティーをサポートするチャリティプロジェクト「コミュニティー・グッズ(Community Goods)」の主宰者であり、シカゴの文化を自身の体験と重ねて世界に発信する“ストーリーテラー”である。
彼のストーリーテリングに賛同するシカゴベースのブランドや団体は数多く、これまでにNFLのシカゴ・ベアーズやシカゴ現代美術館などと協業を果たしてきた。そして、その巷説はシカゴの摩天楼を越え、1400km離れたボストンに本社を置く「ニューバランス(NEW BALANCE)」まで一足飛び。2020年2月にファーストコラボ“992”を発表すると、以降は「ニューバランス」の最旬コラボレーターの1人に数えられている。
そんなジョーが、1999年に発表された「ニューバランス」のパフォーマンスランニングシューズ“1000”をベースとした最新コラボモデル“ワン・サウザンド ウェン・シングス・ワー・ピュア(1000 WHEN THINGS WERE PURE)”の発売にあわせて、約1年半ぶりに来日。今作に込めた思いから、ジョーといえばのアイコニックなピンクカラーとの出合い、現在のスニーカーシーンについてまでを語ってくれた。
コラボでは“飽きられないこと”が重要
ーー今回のコラボモデル“ワン・サウザンド ウェン・シングス・ワー・ピュア”は、前作“990v4 メモリーズ・イン・モノクローム(990v4 MEMORIES IN MONOCHROME)”から約4カ月ぶりのリリースと、インターバルが短いですね。
ジョー・フレッシュグッズ(以下、ジョー):この4年間で、今作が8つ目のモデルになるから、相当のハイペースだと思う。だからこそ、“コンシューマーに飽きられてしまうかもしれない”といった不安は常にあるが、少しでも興味を引く工夫を凝らしているよ。
ーーそれでは、今回のコラボモデルのベースに“1000”を採用した理由を教えてください。
ジョー:理由はシンプルで、「ニューバランス」側からの提案だね。協業し始めて4年が経ち、俺からベースモデルを提案する権限もあるけれど、今の気分と“1000”のデザインが合ったから受け入れることにしたんだ。何より、自分のコラボ遍歴の中に未経験のモデルが加わるということは、今後のチャンスにつながると思ったのさ。
ーー“1000”は、1999年にオリジナルモデルが発売されて以来の初復刻ですが、ジョーさん自身は過去に着用経験のある品番なのでしょうか?
ジョー:いや、一度も履いたことが無かったけど、そのおかげで新鮮な気持ちでコラボに取り組むことができたよ。
ーー“990”シリーズや“574”とは異なり、“1000”という品番自体がある程度の知名度を持たないことは、コラボモデルを制作する上での難局になりませんでしたか?
ジョー:先ほども話したように、コラボでは“飽きられないこと”と、“大勢ではなく小規模のコンシューマーを相手にスタートすること”が何よりも重要だと思っているから、“1000”はむしろピッタリだったよ。徐々に親しんでもらい、知名度を上げていけばいいんだ。
ーー今回のコラボモデルが、“1000”という品番の入口になる機会ということですね。
ジョー:まさに、その通り。
ピンクという活動の原体験
ーー改めて、“ワン・サウザンド ウェン・シングス・ワー・ピュア”の着想源をご説明していただければと思います。
ジョー:俺のコラボプロジェクトは、ストーリーテリングを特に重要視していて、前作“990v4 メモリーズ・イン・モノクローム”は1998年が背景だったから、今作はその続きで2000年代初頭を着想源にしている。“1000”のオリジナルも1999年に発売されていたしね。2000年当時というと、俺は14~15歳のティーンエイジャーで、よく友達とダンスをしていたんだ。ベストダンサーではなかったけど、それなりに楽しんでいたよ(笑)。だから、ダンスをキービジュアルのモチーフにしていて、同時にシカゴのカルチャーを世界に広めたいという思いも込めているんだ(注:“フットワーク”と呼ばれる音楽およびダンスが、1990年代のシカゴで誕生)。
カラーに関しては、俺のサイト限定のピンクと、グローバルで展開するピンクがかったブロンズの2色を用意した。どちらもピンクがキーカラーなのは、服作りを始めるきっかけだったから。というのも、ラッパーのキャムロン(Cam'Ron、1990~2000年代に活躍したヒップホップ界随一のピンク好き)が常にピンクのアイテムを着用している姿に憧れて、それを真似るように自分でピンクのTシャツを作り始めたーーピンクが今の活動の原体験そのものなんだ。今も俺の最も好きなカラーで、今回の“1000”はキャムロンへのオマージュと、地元に“ピンクハウス”(注:築100年越えの外装がピンクの一軒家で、シカゴのランドマーク的存在)があったことなど、2000年代初頭のピンクへの思いを落とし込んだ結果なのさ。
ーーブロンズは、ジョーさんのコラボモデルの中では珍しいダークトーンですよね。
ジョー:俯瞰して「ニューバランス」とのコラボプロジェクト全体を見直した時、これまでのDNAはキープしながら、どこかでアクセントを付けたい気持ちが生まれて、意図的にカラーの変更を行ったんだ。新しいことにトライして、方向性を探ってる段階だね。
ーーカラーは最初から決め込んでいたのではなく、手探りで進めたのでしょうか?
ジョー:発売までに10個以上のサンプルを作ったんだけど、こんなことは初めて。やっぱり、自分が最初に思い描いていた色に一発で決めるより、実際にお店の棚に置いた時にどういう風に見えるか、スタイリングと合わせた時にどのように溶け込むか、などにも気を付けないといけないと思ったよ。最終的に、このカラーとブロンズで迷ったんだけど、君はどっちが好き?
ーー個人的には、ブロンズが好きですね。
ジョー:よかった!君がそう選ぶということは、グローバルでこのカラーを発売して正解ってことだよね。
ーー先ほど、ダンスの話が上がりましたが、シカゴのダンスコミュニティーでは「ニューバランス」の着用率が高いのでしょうか?
ジョー:あまり大きな声では言えないけど、その比率は高くないと思う。だからこそ、今回のビジュアルを制作したんだ。“周りが履いていないから、自分も履かない”といったような気持ちになってほしくなくて、「ニューバランス」というブランドの見方のアングルを変えて、提案した感じさ。
自分を偽らないこと
ーー2024年4月現在、スニーカーシーンは数年前と比べて落ち着いているとの見解が多いですが、渦中の人物としてどう見ていますか?
ジョー:特に落ち着いたとは感じていないかな。うれしいことに、俺と「ニューバランス」で作ったスニーカーの大部分は売れ残っていないけど、これはマーケットの動向を注視して、コンシューマーの声に耳を傾けているからだと思うしね。
ーーシカゴのスニーカーシーンの現状はいかがですか?
ジョー:他のアメリカの都市と同じで、街では流行っているモデルやハイプシューズをみんなが履いて、店にはそれが並んでいる感じだから、面白味はないと思う。それより、俺は今回で3回目の来日なんだけど、日本はリセール目的でスニーカーを買う人が少なくて、多くの人が意思を持って自分が欲しいモデルを選んで買っている印象があるね。俺が作ったスニーカーに対しては、ディテールに細かく注意を払ってくれているし、ユニークさにも価値を見出してくれていて、本当にありがたいよ。
ーー最後に、スニーカーをデザインする上で最も大切なマインドを教えてください。
ジョー:今、アスリートやラッパー、エンターテイナー、アーティストなど、多くの人がスニーカーのデザインを手掛けているけれども、その中で俺は本当に普通の人だと思っている(笑)。普通の人が、シカゴのちょっと厳しい環境の中から這い出して、一生懸命に仕事をしていたら、「ニューバランス」がチャンスを与えてくれた。なんでチャンスがもらえたかは分からないけど、“オーセンティック”な部分が評価されたんじゃないかな。とにかく、自分を偽らないことが大切なマインドだね。