PROFILE: 内藤昭男/セイコーウオッチ社長
「グランドセイコー」は4月27日、表参道ヒルズに新店舗「グランドセイコーブティック 表参道ヒルズ」 をオープン。同店はブランドに親和性のあるアーティストの作品を展示するなど、若年層の顧客獲得を目指す場でもある。また22年から参加している「ウオッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」では、高級時計の本場ヨーロッパ市場の開拓を図る。挑戦を続けるセイコーウオッチの内藤昭男社長に話を聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):ウオッチズ&ワンダーズ(以下、W&W)に参加して3回目。出展の成果は?
内藤昭男セイコーウオッチ社長(以下、内藤社長):ヨーロッパブランド以外で初めての出展は、高級時計ブランドとして認知していただくため。「グランドセイコー」を独立ブランド化した2017年から、知名度や売り上げは北米市場を中心に海外でも伸びていたが、最近は流通から小売り、メディアを含めて、欧州での知名度を感じている。
WWD:目下、欧州での知名度と売り上げのアップを目指している。
内藤社長:欧州は国が細かく分かれており、アメリカに比べれば保守的。新しいモノを許容していただくには、アメリカ以上の努力が必要だろう。欧州では20年、グランドセイコーヨーロッパの本社をパリに構えて、ヴァンドーム広場にブティックをオープン。ここを欧州戦略の出発点として、言語も、伝統も、文化も違う国々を開拓している。欧州を拠点とする世界最大の小売店、ブヘラでの23年からの取り扱いは、トップ小売りの一角に食い込んだという意味で大きかった。会社やブティックがある分、フランスでの認知度は高まっている。一方、ドイツでは課題もある。まずはフランスとドイツ、イタリアなど、ヨーロッパの中でも大きな国への浸透を図りたい。すでに国内と国外の売り上げ比率は半々だが、時計市場全体を考えれば、将来的には海外での売り上げが7、8割になってもおかしくない。そのために生産キャパシティーの増強を続け、若い技術者も育てている。
WWD:高級時計市場は、踊り場という見立てもある。
内藤社長:コロナ禍、旅行や外食を控えた富裕層の間で、高級時計は資産価値も含めてブームになった。そんなバブルは弾け、中古市場の流通価格も下落し、直近は「グランドセイコー」の成長もスローダウンしている。しかし、それでも高級時計市場は20数年右肩上がり。他の消費財に比べて感性価値が表現しやすく、長く使って世代を超えて受け継ぐSDGs的な価値観も含めて、市場は今後も成長すると考えている。個性を磨くことで、まだまだ小さなシェアをさらに獲得したい。
WWD:国内では、新しい世代の獲得に積極的だ。
内藤社長:例えば並木通りの店舗は、(ハイチェアからソファーまで複数の接客空間を用意するなどの)軽快な装いで、若い世代の獲得に寄与している。若い世代も、時計愛好家と、そこまでではない方に大別できる。ブランド志向が強く、「価値が高い」と思われている海外ブランドを選びがちな後者に向けては、W&Wへの出展や「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ」への挑戦などを続け、海外で高める評価や認知を日本でも広めていきたい。前者も含めて若い世代には並木通りのほか、春にオープンする表参道ヒルズのブティックなどでのタッチ&トライ、今の時代を生きる人に向けた「アライブ イン タイム」などのブランドメッセージを通し、親しみやすさを実感していただきたい。少しずつ、“おじさん時計”の評価は変わっているように感じている。
WWD:特に若い世代に向けては、どのような時計が必要だと思う?
内藤社長:ノスタルジックな感性が大事だ。過去のレガシーモデルを復刻しながら、「アライブ イン タイム」に代表される現代的な価値観を加え、新しい解釈で進化させることが必要だ。
WWD:特に円安による海外ブランドの値上げが続く中、日本ブランドの「グランドセイコー」にはエントリー商材の開発も期待したい。
内藤社長:海外の高級時計専門店からも、アメリカでは1万ドル(約154万円)、欧州では1万ユーロ(約164万円)を超える価格帯の時計を買える人は限られているから、「グランドセイコー」には、50万~100万円の良い時計を開発・供給してほしいとのリクエストをいただいている。今後も、この価格帯の時計は開発を続けたい。もちろん、独創的な機構が生み出す音色と表情が特徴の、心臓の鼓動を意味する“Kodo”のようなウルトラハイエンドの商材にも需要があり、とても重要。こうした時計も安定して供給・開発できるようにしたい。
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