ファッション

世界で人気高まるスウェーデン発「アワー レガシー」 成功の秘訣は「ゆっくりと着実に」

スウェーデン発の「アワー レガシー(OUR LEGACY)」は、一見シンプルでありながら素材や加工にこだわりと遊び心が詰まったタイムレスなアイテムで、世界的に多くの支持を集めている。ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)やパリのザ・ブロークン・アーム(THE BROKEN ARM)を筆頭に、世界での販売店舗数は250超。スウェーデン・ストックホルム、英国ロンドン、ドイツ・ベルリンには直営の路面店を、韓国・ソウルには3つの百貨店内にショップ・イン・ショップを構える。創業者の一人であるヨックム・ハリン(Jockum Hallin)=クリエイティブ・ディレクターに、その成功を生んだファッション業界の常識にとらわれないアプローチや考え方を聞いた。

2005年にTシャツからスタート

「アワー レガシー」は、ハリンとクリストファー・ニイン(Christopher Nying)がメンズブランドとして2005年にストックホルムで設立。ストックホルムとイェーテボリの間にある小さな街ヨンショーピング出身の2人の出会いは12〜13歳のときで、同じチームでアイスホッケーをプレーしていたという。思春期を迎えた2人はスケートボードや音楽、アートなど他のことに興味を持ち、アイスホッケーからは遠のいたが、20歳の頃に再会。異なる得意分野や視点を持ちながらも考え方やマインドとして共通する部分を感じ、一緒にさまざまなプロジェクトに取り組んだ後、ブランドを立ち上げた。

服作りを専門的に学んだことがなかった2人は、まずTシャツ数型のコレクションからスタート。徐々にアイテムのカテゴリーを増やし、07年にフルコレクションを発表した。また同年には、長年の友人であるリカルドス・クラレン(Richardos Klaren)を共同経営者として迎えた。設立初期はさまざまな業務を一緒にこなしてきたというが、現在はニインがメーンラインのコレクションを監修。ハリンが16年に始動したサステナビリティにフォーカスした独自の取り組み「アワー レガシー ワークショップ(OUR LEGACY WORK SHOP、以下ワークショップ)」での他ブランドとのパートナーシップによるスペシャルプロジェクトなどを率い、クラレンが最高経営責任者としてビジネス面を担っている。

そして、「メンズウエアだけを手掛けていた時から、女性のファンもいた」というが、19年にはブランドの世界観を補完するためにウィメンズ・コレクションをスタート。「フェミニンな素材をメンズウエアに用いたり、男性的なシルエットをウィメンズサイズで表現したりと、両方を手掛けるようになったことで良いシナジーやエネルギーが生まれている」とハリンは説明する。

着用者に解釈を委ねるデザイン

「アワー レガシー」では、毎シーズンのコレクションを制作する際、象徴的な人物などを分かりやすいテーマを掲げることはない。その背景には「曖昧にすることで、着る人自身が自由に想像してほしい」という思いがあり、実際のアイテムにおいても「重要なのは年齢やスタイルなど特定の人を想定することではなく、プロダクトとしてベストな形で仕上げること。それを着たいように着てもらえればうれしい」と明かす。そんな着用者に解釈を委ねるデザインが、幅広い年齢層から支持を得るブランドの魅力の一つになっている。

そして、シンプルなデザインにオリジナリティーをもたらしているのは、素材への探求心。「ユニークなファブリックこそが、コレクションを際立たせる。だから、オリジナルで開発したものやエクスクルーシブの素材も多い」という。念頭に置くのは普遍的でありながら他にはない価値を持ったアイテムを生み出すことであり、「いろんな人のワードローブにおいて、いつまでも色褪せない一番のお気に入りになるような服を作りたい」と話す。

ブランドの世界観を強化する「ワークショップ」

また、「アワー レガシー」を語る上で欠かせないのは、独自のアプローチでサステナビリティに取り組む「ワークショップ」だ。その拠点となるのは、メーンラインのコレクションを取り扱う直営店とは別にストックホルムの中心地から少し離れた住宅街に設けたワークスペース兼ショップ。もともとは倉庫に溜まった生地や在庫から新たなものを生み出すためにスタートしたプロジェクトだったが、現在はアーカイブにハンドペイントなどを施した“クラフト”や過去のコレクションを割引価格で提供する“デッドストック”から余剰素材を組み合わせて作る“アップサイクル”やインスピレーション源となったビンテージアイテムの“リファレンス”まで9つのカテゴリーを展開する。

「『アワー レガシー』の中にあるリサイクルやアップサイクルのハブのようなもの」と表現する「ワークショップ」では、他ブランドとのコラボレーションにより、年間8〜12のスペシャルプロジェクトにも取り組んでいる。昨年は「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」との協業によるカプセルコレクションも手掛けた。きっかけはプロジェクトごとに異なり、「『エンポリオ アルマーニ』の場合は先方からアプローチがあったが、「サティスファイ(SATISFY)」のようにパーソナルな友人関係からプロジェクトに発展することも多い」という。全てに共通するのは、古い在庫や素材を使いながら、クリエイティブの力で新鮮で面白いアイテムを作ること。最新プロジェクトとして、4月26日にはフランスのシューズブランド「パラブーツ(PARABOOTS)」とのコラボによるデッキシューズを発売した。

目標は、世界の主要都市に“ホーム”を築くこと

「アワー レガシー」は来年、設立20周年を迎える。今後数年の目標に掲げるのは、東京やパリなど主要都市に、自分たちの“ホーム”となる空間を築くことだ。「東京は私たちが最も好きな街の一つであり、『アワー レガシー』にとって大きなポテンシャルを秘めているとも思う。間違いなく最優先の場所だ。また、ヨーロッパではパリやミラノ、アメリカだとニューヨークとロサンゼルスでの出店を検討している」とハリン。「店舗は体験の場であり、人々はリアルな体験を求めている。食べ物でも、レストランでサービスや雰囲気を含めて堪能するのと、家でデリバリーするのでは全く異なるだろう?特別なプロジェクトも交えながら、『アワー レガシー』の世界観を表現していくことが重要だと思う」と続ける。

また現在、メンズとウィメンズの売り上げ構成比率は8:2。市場規模という観点でウィメンズの重要性は高く、今後さらに広げていくことを視野に入れる。しかし、「『アワー レガシー』では、ずっとトレンドや他のブランドを追いかけることも、急激な成長を目指すこともなく、自分たちのペースでブランドを確立することに取り組んできた。それが今の支持につながっていると思う。メンズがオーガニックに成長してきたように、ウィメンズも焦ることなく、地道に続けていくつもり」と、その姿勢はあくまでも自然体だ。「インディペンデントなブランドである『アワー レガシー』は、いろんなところから受けるプレッシャーもなく、ただただ自分たちが良いと考えることに向き合える。だからこそ、出店や拡大を急ぐことはなく、これからもゆっくり着実に進めていきたい」。

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