ドイツの高級ファッションEC「マイテレサ(MYTHERESA)」が、競合の「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」の買収に関心を示していると、「フィナンシャル・タイムズ(THE FINANCIAL TIMES)」紙が情報筋の話として報じた。
「ネッタポルテ」は、「カルティエ(CARTIER)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」「クロエ(CHLOE)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)が保有するラグジュアリーEC大手のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)の傘下。
リシュモンは2023年8月、YNAPの株式の47.5%を高級ECのファーフェッチ(FARFETCH)に売却することに合意した。しかし、取引が成立する前にファーフェッチが経営破綻の瀬戸際にあることが明らかになり、同12月に韓国の大手EC企業クーパン(COUPANG)が買収。これを受けてリシュモンは取引を中止し、24年1月にはYNAPの株式を100%売却することも検討していると発表した。
なお、情報筋によれば、米投資ファンドのベインキャピタル(BAIN CAPITAL)も「ネッタポルテ」の買収を検討しているほか、会員制のラグジュアリーディスカウントEC「ベストシークレット(BESTSECRET)」は同じくYNAPが運営するファッションEC「ユークス(YOOX)」の買収に関心を示しているという。
「マイテレサ」は、米「WWD」の問い合わせに対し、「当社は事業の成長のため、M&Aを含むさまざまな機会を常に検討しているが、潜在的な案件についてのコメントはしない方針だ」と回答。リシュモン、ベインキャピタル、「ベストシークレット」からのコメントは得られなかった。
ラグジュアリーECビジネスの難しさとは?
ファーフェッチやYNAPのほかにも、24年3月には英小売のフレイザーズ・グループ(FRASERS GROUP以下、フレイザーズ)が傘下の英ラグジュアリーECマッチズ(MATCHES、旧マッチズファッション)事業を管財人の管理下に置き、事業の一部もしくは全体の売却先を探していることを発表。一方で、4月にはマッチズの知的財産権など無形財産のみを買い戻した。
ラグジュアリーECビジネスの難しさが浮き彫りとなる出来事が続いているが、その要因として、オンラインでの販売、配送、返品対応など関する作業の煩雑さやそれらにかかる費用の高騰に加えて、取り扱いブランドの公式ECとの競争の激化や、コロナ禍が落ち着いたことによる実店舗への客足の回復などが挙げられる。なお、「マイテレサ」は現在、拠点のドイツ国内から商品を発送しているが、「ネッタポルテ」を買収した場合は、同社が持つ米国およびアジアでの配送システムを利用できるようになる。
また、「マイテレサ」は21年1月にニューヨーク証券取引所に上場しているが、別の情報筋の話によれば、非公開化を目指して複数の投資銀行と話し合いをしているという。