欧州では「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」が年内に施行される。EU圏内で商品の製造および販売するラグジュアリーブランドを対象に、透明性と追跡可能性を要求するものだ。規制に対応するべく、対象となるブランドは「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」の導入を急ぐ。
「DPP」は、個別の製品情報を電子的に記録したパスポートのようなもので、原料元から製造工程、流通経路、リサイクル性といったライフサイクル全体の情報を証明する機能を持つ。LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)などのラグジュアリー企業が結成したオーラ ブロックチェーン コンソーシアム(Aura Blockchain Consortium)と、コンサルティング会社のデロイト(DELOITTE)はこのほど「規制要件としてのDPP:ラグジュアリーの新基準(Embracing Digital Product Passport as a regulatory requirement: Setting a new standard for luxury)」と題した報告書を発表した。
消費者、ブランド、規制当局、3社にメリット
報告書では「DPP」の機能を、製品のライフサイクルにまつわる全情報を記録した「製品と所持者、企業をつなぐデジタルリンク」と定義した上で、消費者、ラグジュアリーブランド、そして規制当局、3者それぞれのニーズを満たすことができるツールだと指摘している。「『DPP』を活用することで、ブランドと顧客間の価値創造につながると同時に、将来的に導入される規制に先手で対応するきっかけにもなる。『DPP』はまもなく義務化される。早期に導入の準備を始めることが重要だ」と続く。
透明性と追跡可能性の担保に加えブランド価値の保護にも役立つだろう。LVMHグループのフランク・ル・モアル(Franck Le Moal)最高情報責任者は報告書の中で、「私たちは多くの偽造品問題に悩まされている。製品情報を最初から最後まで追跡できる『DPP』は、顧客との信頼関係構築に寄与してくれるだろう」と述べている。
また製品の差別化に欠かせない、ストーリーテリングの役割も担うと報告書は指摘する。「コミュニケーション戦略に組み込めば、一貫したストーリーテリングを可能とし、より深い顧客体験を創出できる」という。さらに追跡可能性と持続可能性にまつわる情報は、消費者の購買動機にもつながるだろうと加える。
プラダ・グループのCSR部門責任者のロレンツォ・ベルテッリ(Lorenzo Bertelli)は報告書の中で「『DPP』を活用したストーリーテリングは、店舗の販売員にとってもすばらしい会話のきっかけを提供してくれるだろう。結果として購買率を高め、購入後も商品の所有権を確認できるようにすることで、これまでにないような信頼関係を築いてくれるだろう」とコメントした。上記のメリットに加え、より豊かな顧客データを獲得できる可能性もある。