アメリカ発ブランド「モンマルトル ニューヨーク(MONTMARTRE NEW YORK)」を手掛ける八木佑樹とヘイリー・シャンポー(Hayley Champoux)は、新ブランド「バウルズ(VOWELS)」を5月に本格始動した。全アイテムを日本で生産し、生地も日本製にこだわる。13日にファーストコレクション9型をアメリカ・ニューヨークに開いたショップ兼ショールームで披露し、17日には東京・南青山で関係者向けのイベントを開催した。さらに、パリ・メンズ・ファッション・ウイーク期間中の6月18日には2025年春夏シーズンのフルコレクションをパリで発表し、年内には日本に直営店をオープン予定というスタートダッシュを切っている。
1着に込めた膨大な情報
同ブランドでは、数々の有名ブランドで経験を積んだ八木がクリエイティブ・ディレクターを、シャンポーがマーケティング・ディレクターを務める。ブランド立ち上げの構想は約2年前から開始し、現在は合計15人のメンバーでブランドを運営する。八木クリエイティブ・ディレクターが拠点のアメリカと日本を行き来しながら、日本のスタッフと連携して素材の調達などを行う。ファーストコレクションは、ワークウエアやストリートウエアのムードを盛り込んだシンプルなデザインだ。日本の“守破離”の精神に沿い、確かな技術と素材選びでクラシックを独自に解釈して、シルエットやディテールでオリジナリティーを探究する。
全アイテムにはNFC技術を用いたタグが付き、スマートフォンで読み取るとECにリンクし、各アイテムの着想源が見られる。例えばチョアジャケットは、ニューヨークの写真家ビル・カニンガム(Bill Cunningham)のポートレートや1990年代の雑誌「i-D」、日本の書籍やムックなどからインスピレーションを得ている。これらの資料は八木クリエイティブ・ディレクターが収集した膨大な印刷物で、ニューヨークの直営店にも約2000冊を展示している。
価格帯はチョアジャケット9万8000円〜、シャツ5万5000円、ロゴ入りフーディー4万円〜、ジーンズ6万円〜、Tシャツ2万円など。サイズはトップス0〜4、ボトムス26〜36。全アイテムがユニセックスで、ファーストコレクションはECで現在販売中だ。
まっすぐ見据える“世界一”
コレクションは華美な装飾や強い色柄を使わず、「そぎ落とすデザインにこだわった」と八木クリエイティブ・ディレクター。日本製にこだわった理由については「世界一だから」と即答する。「日本の産地には高い技術があるし、自分自身もこれまでいろいろなものを与えてもらった。でも、今は後継者不足などで厳しい状況だ。だから、ブランドを通じて小さな経済を作り、恩返しをしたい」。日本発の雰囲気を大切にする姿勢はビジュアルでも表現しており、ファーストコレクションは写真家ホンマタカシが日本の各所で撮りおろした。シャンポー=マーケティング・ディレクターは「『バウルズ』は母音という意味。母音は全ての言語のスタートであり、エッセンシャルでもある。そういうブランドになりたいという思いを込めた」と説明する。
ファーストコレクションの9型では全貌は見えないものの、パリで発表する2025年春夏シーズンはアイテム数を約150点に拡大し、「バウルズ」らしさをさらに鮮明にする。パリでの発表についても「世界一の舞台だから」と八木クリエイティブ・ディレクター。ベンチマークには海外のラグジュアリーブランドを挙げる。セールスはセイヤ ナカムラ2.24(SEIYA NAKAMURA 2.24)と契約し、卸先の獲得を目指す。新ブランド立ち上げの取材では見え方を気にするあまり、必要以上に謙虚に語るデザイナーがほとんどである。しかし「バウルズ」チームが堂々と語る「世界一」には、ピュアな情熱とローカルの誇り、そして自信が宿る。