ドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS、以下DSMP)が、ついに5月24日にオープンする。場所は、マレ地区のフラン・ブルジョア通り35-37番地(35-37 rue des Francs-Bourgeois, 75004)。店舗面積は1100平方メートルで、17世紀に建てられたタウンハウスの1階、2階、地下を使用する。ブランドごとに独自スペースを設けていたこれまでのドーバー ストリート マーケット(DSM)とは異なり、パリ店は併設するカフェ「ローズ ベーカリー(ROSE BAKERY)」も含め、全体のデザインを川久保玲「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」デザイナーが担当。DSMとしては、近隣にあるビューティに特化したドーバー ストリート パフューム マーケットも含めると、8店舗目になる。なお、建物の3〜5階はすでに入居しているDSMPのブランド開発部門のオフィスやショールームとして引き続き使用する。
外からは服が見えない店舗デザイン
ルールにとらわれないショップ作りで知られる川久保デザイナーが今回手がけたのは、ウインドーディスプレーのない店。実際、全ての服はカーブを描く壁の裏側にあるので外からは見えず、売り場のほぼ半分は空いた状態になっている。しかし、この世のものとは思えないような息を呑むほど美しい建築や、シャルトリューズグリーン、ベビーピンク、スカイブルーなど意表を突く色彩を加えて、こだわりの空間に仕上げている。DSMPは、またしてもマルチブランドショップのあり方の常識を覆し、川久保デザイナーの小売における奇才としての地位を、そして彼女の夫であるエイドリアン・ジョフィ=コム デ ギャルソン インターナショナル(COMME DES GARCONS INTERNATIONAL)最高経営責任者(CEO)兼DSM CEOの大胆なビジネスマンとしての地位を確固たるものにするものだ。
川久保デザイナーは、歴史あるタウンハウスの中に映画「メッセージ(英題:ARRIVAL)」に登場するミステリアスなホバリング船のような空間を生み出すことで、心躍る荘厳な雰囲気を醸し出す。楕円形の部屋からゆがんだ円錐や円柱の形をした白く輝く金属製のオブジェ、亜鉛メッキのスチール棚まで、妥協を許さない厳格さをもちながら感情を揺さぶる彼女の建築は、複雑なアイデアと感情を建物に融合する建築家のダニエル・リーベスキンド(Daniel Libeskind)を思い起こさせるものだ。加えて、空間には「コム デ ギャルソン」の核である生き生きとしたフェミニニティーも漂う。
ジョフィCEOは、そんな空間を「まさに発見の旅だ。しっかりと見ないと、きっと見落としてしまうものがあるだろう」と説明。そして、「彼女にとって最も重要なのは、美しさと見たこともないものをデザインする意外性。それは、彼女が55年間変わらず持ち続けている深い価値観だ」と、自身が生み出すファッションと同様に小売環境も革新的であり、パーソナルな発見を促すものでなければいけないという信念を再び表現した川久保デザイナーについて言及する。
150ブランドが混在する“カオス”な空間
DSMPの店内には、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」や「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」といったコム デ ギャルソン傘下のブランドをはじめ、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「プラダ(PRADA)」「ミュウミュウ(MIU MIU)」といったラグジュアリーメゾンから、「セッチュウ(SETCHU)」や「ニコロ パスカレッティ(NICOLO PASQUALETI)」「アラインポール(ALAINPAUL)」といった若手デザイナーブランドまでが混在。DSMではおなじみの「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」や「クレイグ グリーン(CRAIG GREEN)」「サカイ(SACAI)」「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「リック・オウエンス(RICK OWENS)」「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」に加え、DSMPがブランド開発やセールス、生産に携わる「ERL」や「ランダム アイデンティティーズ(RANDOM IDENTITIES)」「ヴァケラ(VAQUERA)」「ウェインサント(WEINSANTO)」「オリー シンダー(OLLY SHINDER)」などもラインアップする。さらに、スニーカーは「ナイキ(NIKE)」や「アディダス(ADIDAS)」「アシックス(ASICS)」「ホカ(HOKA)」「サロモン(SALOMON)」「コンバース(CONVERSE)」「ニューバランス(NEW BALANCE)」「ヴァンズ(VANS)」などをそろえる。
取り扱いブランドの合計数は、約150。そのうち、「ホダコバ(HODAKOVA)」や「マリーナ イー(MARINA YEE)」「デュラン ランティンク(DURAN LANTINK)」など12ブランドはDSMでは同店のみの限定になるほか、川久保デザイナーとチャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ(Charles Jeffrey Loverboy)とのコラボレーションといった特別なアイテムも並ぶ。
また、中庭と地下のスペースではアートや文学、音楽などのイベントやコミュニティーイベントを実施する。オープン時には、中庭と地下で「パオロ・ロヴェルシのための、パオロ・ロヴェルシによる『コム デ ギャルソン』(Comme des Garcons for and by Paolo Roversi)」と題したインスタレーションと展覧会を開催。地下では、気鋭英国人デザイナーのマッティ・ボヴァン(Matty Bovan)がTシャツのカスタマイズやデッドストック生地を使った服作りなどを行う期間限定の“アーティスト・イン・レジデンス”インスタレーションも行う。将来的には、過去3年間この場所を文化施設として運営していた「3537.org」のクリエイティブな精神に則り、アーティストを招いて、その視点や展示を店舗自体に侵⾷させる取り組みも計画しているという。
“来店者が⾃ら探し出す努⼒をすればするほど満⾜感は高くなる”
川久保デザイナーは常々、来店者が⾃ら探し出す努⼒をすればするほど満⾜感は高くなると考えており、昨年の米「WWD」のインタビューでも「私の理想は、人々が自分で考えるとともに何かを感じ、自分で服を探して発見し、そして選ぶこと」と語っていた。その思いに応えるようにジョフィCEOがDSMPで目指すのは、たくさんの発見を約束することで、できるだけ多くの人々を呼び込むことだ。「一度来たことのある人が再び訪れた時に『これは初めて見た』と言ってもらえたら、それは素晴らしいことだ」とし、「人々を飽きさせず、毎回が冒険であるという感覚を失わないようにすること」を願っているという。世界中から集められたクリエイティブなファッションが混ざり合う空間には、04年に初めてロンドンのドーバー・ストリートにあるオフィスビルにオープンしたDSMのコンセプトである“美しいカオス”が息づいている。