コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)の2024年3月通期決算は、売上高が前期比3.3%増の206億1600万ユーロ(約3兆4841億円)、営業利益は同4.7%減の47億9400万ユーロ(約8101億円)、純利益はおよそ8倍(同682.3%増)の23億5500万ユーロ(約3979億円)だった。
純利益については、傘下に持つラグジュアリーEC大手のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)の株式の47.5%を高級ECのファーフェッチ(FARFETCH)に売却することに関連した非現金費用34億ユーロ(約5746億円)などを22年度に計上し、純利益が激減していたことが影響した。なお、後述のように、その後この取引は中止となっている。
日本は円安とインバウンド需要で8%増収
地域別での売上高は、欧州が同1.6%増の44億4200万ユーロ(約7506億円)、南北アメリカが同1.4%増の45億3000万ユーロ(約7655億円)、中東およびアフリカが同7.1%増の16億7300万ユーロ(約2827億円)だった。日本を除くアジア太平洋地域は同3.6%増の82億2000万ユーロ(約1兆3891億円)と、中国の景気後退がやや響いた。日本は、中国人観光客を中心とした力強いインバウンド需要と円安の恩恵を受け、同8.4%増(現地通貨ベースでは20%増)の17億5100万ユーロ(約2959億円)と好調だった。
ジュエリーとウオッチ部門で明暗分かれる
部門別では、「カルティエ(CARTIER)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」「ブチェラッティ(BUCCELLATI)」を擁するジュエリー部門が同6.0%増の142億4200万ユーロ(約2兆4068億円)と業績をけん引。
「ピアジェ(PIAGET)」や「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」などを擁するウオッチ部門は、やはり中国の景気後退を背景とした世界的な高級腕時計の需要減や、スイスフランの高値により同2.7%減の37億6700万ユーロ(約6366億円)と不調だった。
「クロエ(CHLOE)」や「ダンヒル(DUNHILL)」などを擁するファッション&アクセサリー&その他部門も、同1.6%減の26億700万ユーロ(約4405億円)と減収だった。
ヨハン・ルパート(Johann Rupert)会長は、「23年度はマクロ経済および地政学上の不透明感が続き、不利な為替レートに直面する中でも、堅実な業績を上げることができてうれしく思う。第4四半期は、アジア太平洋地域の業績が芳しくなかったものの、他地域の力強い成長で相殺できた。予想通り、中国市場の本格的な回復には時間がかかることが見込まれるが、成長の著しい地域もある。当社の事業戦略、ユニークなブランド資産、健全なバランスシートにより、長期的な目標を達成できるものと確信している」と語った。
YNAP売却の進捗や「デビアス」買収のうわさについて
前述のように、リシュモンはYNAPの株式の47.5%をファーフェッチに売却する予定だった。しかし、取引が成立する前にファーフェッチが経営破綻の瀬戸際にあることが明らかになり、23年12月に韓国の大手EC企業クーパン(COUPANG)が買収。これを受けてリシュモンは取引を中止し、23年10~12月期(第3四半期)決算を24年1月に発表した際に、YNAPの株式を100%売却することも検討していることを明らかにした。
今回の決算発表の説明会で、ブルクハルト・グランド(Burkhart Grund)=リシュモン最高財務責任者は、「(売却の)プロセスは進行しており、複数の当事者がかかわっている」と発言。24年12月末までに取引が成立する予定だという。
また、リシュモンは5月にイタリア・ミラノのジュエラー、ヴェルニエ(VHERNIER)の株式の100%を取得。1984年に金細工の工房としてスタートした同ブランドは、人体や現代彫刻の曲線美を着想源とした大胆なデザインが特徴だ。
ルパート会長は、適切な機会があればさらなる買収も前向きに検討するとしつつも、かねてより臆測が広まっている「デビアス(DE BEERS)」の買収については「全く関心がない」と一蹴。「デビアス」は2011年にグローバルな鉱業資源会社アングロ・アメリカン(ANGLO AMERICAN)の完全子会社となったが、それ以前の段階で買収を断っているという。同氏はその理由について、「当社は(ダイヤモンド原石の)採掘事業は行っておらず、『デビアス』の価値を高められないと判断した」と説明した。