ファッション

2024-25年秋冬のトレンドキーワードをおさらい 「WWDJAPAN」セミナー事後レポート

 
「WWDJAPAN」はこのほど、2024-25年秋冬シーズンに向けたトレンドセミナーを開催した。第1部と第2部では海外コレクションの動向を出発点に、国内マーケットの消費傾向なども交えてウィメンズとメンズそれぞれの市場の動きを考察した。第3部では中国企業サンチの代表をゲストスピーカーに迎え、巨大市場の中国から学ぶ新ビジネスの可能性などについて議論した。


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「遍的なアイテムをいかに新鮮に見せるかが問われるシーズン」

ラグジュアリーストリートのトレンドが終焉し、1年ほど前から影響力を持っているキーワードが「クワイエット・ラグジュアリー」だ。戦争や生活費の高騰、SNS疲れなど、ストレスフルな消費者のマインドを背景に、「普遍性」や「心地よさ」を追求したファッションに需要が集まっている。

ウィメンズトレンドがテーマの第1部で村上要編集長は、「2024-25年秋冬シーズンは普遍的なアイテムをいかに新鮮に見せるかが問われるシーズンになる」と総括。パリとミラノのコレクションブランドから代表的な例を紹介した。

パリを現地取材した向千鶴編集統括は、「シャネル(CHANEL)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」「アンダーカバー(UNDERCOVER)」などを例に挙げてひねりのバリエーションを解説した。例えば、「アンダーカバー」のショーは一人の女性の日常生活を描写する演出でストーリーを組み立てた。カーディガンやスーツ、シャツなどにシースルー素材やビニールなどの異素材を圧着する手法で、特別な一着に仕上げている。向編集統括は「ルーツであるストリートカジュアルと非日常性を上手に掛け合わせている。ジュエリーブランド『ノグチ ビジュー』と協業した大ぶりなアクセサリーがとても効果的にスタイリングされている」とコメントを添えた。

また「シャネル」は、ドーヴィルの海辺を歩く散歩時間を演出した。「店頭では『長く着られるシンプルなアイテムです』ではお客さまは物足りないと感じてしまうはず。『シャネル』のようにいかに豊かなストーリーを載せられるかがポイントになる」と話した。

ミラノで発表したサバト・デ・サルノの「グッチ(GUCCI)」は、ファーストシーズンの方向性を素材使いやスタイリングで発展させた。「ミラノでは『グッチ』のように、お客さまのワードローブをシーズンを重ねて徐々に豊かにしていく“買い足し型”の提案が増えている」と村上編集長。

第1部のゲストスピーカーとして登壇した阪急うめだ本店 Dラボの源野里沙子バイヤーは、「店頭でも前シーズンのアイテムと合わせられたり、毎シーズン安心感のある商品を提案したりするブランドに長く顧客が付いている」と加えた。店頭では「オーラリー(AURALEE)」が売れているという。Dラボでは今季、「サルトリアスタイル」や「バレエコア」などをキーワードに提案する計画だ。

ウィメンズトレンドと
シンクロするメンズ市場

第2部は、國友崇裕・前伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー バイヤーをゲストに交え、メンズトレンドについて分析した。メンズコレクションを現地取材した大塚千践記者は、今シーズンを象徴するキーワードとして「グランパコア」「ニューオフィスウエア」「マリンボーイズ」「ハイパーコントラスト」を挙げた。中でも「グランパコア」を最重要トレンドとして推す。「おじいちゃんのクローゼットから借りてきたようなケーブル編みのカーディガンや、タックの入ったワイドパンツ、ツイードジャケットなどビンテージライクなアイテムを上品な着こなしで提案するのがポイントだ」。大塚記者は「オーラリー」のファーストルックで登場した、ビンテージ加工を施したラムレザーのブルゾンを象徴的な「グランパコア」スタイルとして紹介した。

また、テーラードはこの5年でストリートミックスから日常着として取り入れるカジュアルエレガンスへと変化しているという。「オーラリー」はテーラードスタイルの提案も、今のムード感をうまく取り入れていると評価した。

シアーな素材使いやボディーコンシャスなシルエットなど、ウィメンズトレンドとの共通点も増えている。丸首のカーディガンやアンサンブルニット、ハイゲージのニットポロシャツなどは「グランパコア」スタイルにも通ずる注目アイテムだ。

國友バイヤーもウィメンズトレンドの影響力は注視していると話した。「若い世代を中心に、メンズやウィメンズのカテゴリーに縛られない消費動向が顕在化している。メンズフロアでも約4割を女性客が占める時もある」と話す。特にシアーアイテムは、強化中のテーラードスタイルとも好相性と見る。加えてメンズファッションは従前、モードやクラシコなどテイスト別に顧客層が明確だったが、最近では一人の人がさまざまなテイストを楽しむ消費スタイルに変わってきていると話した。

その他伊勢丹メンズ館では異素材を組み合わせるハイブリッドスタイルやワーク&ミリタリースタイルなどに注目する。足元はスニーカーブームが落ち着き、厚めソールのクラシックシューズが主流だ。アウターは暖冬の影響で、重衣料の提案が減っている。代わりに異素材ミックスや、フーディーなどをレイヤードできるアウターが売れ筋になると見込む。一方でジャケットの上から羽織れるロング丈のチェスターコートなども需要が高まるだろうと話した。

新たなビジネスモデル
「ファッションIP」とは

第3部では中国でファッションブランドのマネジメントを担うサンチを交えて、新たなビジネスチャンスを生むであろう「ファッションIP」の考え方について議論した。サンチが2001年から提唱する「ファッションIP」とは、独創的なデザイン能力と高い影響力を持つデザイナーやブランドなどに帰属する知的財産のこと。登壇したサンチ創業者のポール・ファンCEOは、「ファッション企業が建築や飲食など、服以外の領域にビジネスを広げる中で、デザイナーや業界のオピニオンリーダーなどを『ファッションIP』化できないかと考えた」と起業背景を語った。

従来海外マーケットへの進出は、店舗のオープンや合弁事業の設立などが主流だったが、「ファッションIP」を活用するケースが増えているという。中国における「ファッションIP」の活用事例として、中国で人気の飲料ブランド「ヘイティー」と「フェンディ(FENDI)」のコラボレーションを説明。「フェンディ」のロゴをカップに配した「ヘイティー」の特別ドリンクは、発売後1カ月で1億杯売れた。「『フェンディ』は中国で圧倒的な知名度を誇る『ヘイティー』と協業することで、多くの中国メディアに露出することができた。インフルエンサーに投資するよりも結果的に、効率的に知名度を獲得できたわけだ。また『ヘイティー』の顧客は20〜30代が中心。『フェンディ』の商品は買えないという潜在ターゲットにもリーチできた」とファンCEOは手応えを語る。

サンチが世界のファッションブランドを対象に独自に算出する「ファッションIPランキング」で上位に入っている日本ブランドの1つがビームスだ。ファンCEO によると、ビームスは中国で人気のある「エル・エル・ビーン(L.L.BEAN)」や「リーバイス(LEVI’S)」とのコラボレーションをきっかけに広がり、日本を代表するブランドとして中国で認知を得ているという。「中国のSNSでも、消費者が自発的にビームスを紹介するUGCのコンテンツが非常に多い」と報告した。

セミナー後半には、ビームスクリエイティブ代表取締役兼ビームス取締役の池内光がゲスト登壇し、さまざまな事例を用いながらビームスらしさの作り方について語った。ファンCEOは「ビームスは社員全員が影響力を持つことで、総合的に文化を醸成する発信力につながっている点が素晴らしい」と感想を述べた。

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