2024-25年秋冬シーズンのメンズ・ファッション・ウイークは、現代におけるダンディズムを探究し、”男性らしさとは何か”と問うクリエイションが印象に残っています。昨年は、性差を曖昧にする両性具有的なメンズモデルが目立っていたのに対し、同シーズンはコレクションに関連して、体格が比較的大きめな男性らい骨格のメンズモデルに需要が高まっていたようです。過去に取り上げた中野悠楽さんと源大さんも引き続きランウエイで素晴らしい活躍を見せる中、海外のコレクション初挑戦の日本人モデルの姿もありました。間もなく開幕する2025年春夏コレクションでも注目すべき、ニューフェイス3人をご紹介します。
1.前野歩岳
モデルデビューからたった1年
「プラダ」「ロエベ」でブレーク
海外で活躍する日本人メンズモデルの仲間入りを果たしたのが、HOTAKAの名前で活動する富山県出身の前野歩岳さんです。モデルのキャリアをスタートして1年ほどで、ミラノの「プラダ(PRADA)」のランウエイでショーデビューするという前途有望なニューフェイスです。続くパリでも、「ジバンシィ(GIVENCHY)」「ロエベ(LOEWE)」、日本ブランドの「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」でウオーキングを披露しました。2〜3月のウィメンズ・ファッション・ウイークでは「マルニ(MARNI)」と「バリー(BALLY)」「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」、東京では「アンリアレイジ オム(ANREALAGE HOMME)」などに起用され、メンズとウィメンズ合わせて11ブランドという好成績で海外でのデビューシーズンを終えました。
前野さんは1998年生まれで、モデルデビューのきっかけは、富山の工場で働いた頃に東京のファッション業界で働く友人に勧められて、モデル事務所の門を叩いたこと。意気込んでいたというよりも、「人生経験として面白そう」という好奇心からスタートさせました。海外コレクションに挑戦したのも、「せっかくなら誰もが知るミラノとパリコレで歩きたいと思ったから。海外へ行くこと自体ほぼ初めてだったので、観光できるいい機会だなくらいに考えていました」と、フットワーク軽く臨んだようです。
多くのブランドに起用された中で最も印象に残っているのは、「プラダ」だといいます。「エクスクルーシブだったのと、初めての海外でのショーだったので、気持ちがかなり高揚しました。日本でお世話になっている方々のショーでも歩かせてもらい、うれしかったです。ウィメンズのミラノでは発熱してしまい、悔しいところもありましたが、それも含めていい経験になりました」と振り返ります。
「ロエベ」や「マルニ」の芸術気質なルックから、「バリー」や「イッセイ ミヤケ」のモード感の強いルックまで、変幻自在に着こなしていたのが印象的です。モデル業でもプライベートでも、今後の目標は「いろいろな経験をして、引き出しがたくさんある人間になりたい」という前野さん。日本以外にも欧州の4つのモデル事務所に所属しており、国内外問わず飛躍が期待できそうです。
2.フィン・コリンズ
デビュー直後の大抜擢
「フェンディ」の開幕モデルに
サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)=クリエイティブ・ディレクターによる新生「グッチ(GUCCI)」の初のメンズショーでは、無名の新人モデルがキャスティングされました。その中の一人が、スコットランド出身のフィン・コリンズ(Finn Collins)です。彼は同シーズンのメンズとウィメンズ合わせて19ブランドに起用され、最も多くランウエイを歩いたメンズモデルとなりました。
現在19歳のフィンは、グラフィックデザインを学んでいた大学生時代に、モデルをしている恋人の手伝いでファッション撮影に何度か参加したことがあったそうです。そして、ロンドンでロックバンドのコンサートに参加した際にスカウトされ、恋人の後押しもあり、今年から正式にモデル事務所と契約を結んでキャリアが始まりました。
デビューシーズンにして、「フェンディ(FENDI)」でオープニングルックを飾ったことが最も印象的だったと語ります。ほかにも、2月上旬にはスイスの高級リゾート、サン・モリッツで開催された「モンクレール・グルノーブル(MONCLER GRENOBLE)」のショーも歩き、「雪山のランウエイを歩くという、貴重で非現実的な経験ができました」と興奮気味に話してくれました。今後は「より多くのクライアントと仕事をして、モデル業をさらに追求しながら、その過程を楽しく過ごしたい」と語ります。しかし「将来的な目標はグラフィックデザインに関連した仕事に就くことなので、この分野についても学び続けたいと思っています」とも続けました。2025年春夏シーズンのファッション・ウイークもモデルとして参加予定とのことで、最多ランウエイ登場数を再び獲得するのか注目しましょう。
3.ビラル・ブーラタ
日本のサブカル大好きな現役学生
独立系の15ブランドに登場
時にフェミニンなルックをまとっていた前野さんとフィンに対し、フランス出身のビラル・ブーラタ(Bilal Bourhattas)は、広い肩幅と筋肉質な体格を生かして、男性らしいフェロモンを醸し出しながらマスキュランなルックを際立たせていました。「ケンゾー(KENZO)」と「アミ パリス(AMI PARIS)」のほかに、「エス・エス・デイリー(S.S.DALEY)」や「アワーレガシー(OUR LEGACY)」といった独立系のコンテンポラリーブランドを中心に、15ブランドのランウエイを歩きました。
ビラルはモロッコ人の両親のもと、パリ郊外で生まれ育った学生で、現在は大学でグラフィックデザインを学んでいます。スターバックスでアルバイトしていた際、客として訪れたモデル事務所のスタッフにスカウトされて、モデル業に初めて興味を持ったと振り返ります。「日本のアニメやビデオゲーム、ラップをはじめとした音楽が大好きです。ファッションに親しみはなかったのですが、今はその楽しさに気づき始めました」と、インドア派な性格であることを明かしてくれました。
緊張しつつも十分に楽しめたというデビューシーズンでは、「アミ パリス」のショーが思い出に残っているそうです。「“パリの朝”をテーマにしたショーの演出にとても共感でき、コレクションも美しく、エレガントでした。イマン・ハマン(Imaan Hammam)やモナ・トゥガード(Mona Tougaard)、レティシア・カスタ(Laetitia Casta)といったスーパーモデルと一緒にランウエイを歩くことができ、本当に光栄でした」と話します。さらに、「僕は、肌の色が人種がはっきり分かるほどではなく、細身の体形でもない。どちらもその中間なのに、ファッション業界に需要があるというのはうれしいことです」と続けました。残り2年の大学生活の間にモデル業を継続しつつ、その後はグラフィックデザインの仕事に集中したいと、夢に忠実なビラル。日本のサブカルチャーへの関心が高いため、仕事で日本を訪れることを目標にしながら、「2025年春夏シーズンも成果を出したい」と目を輝かせました。