ファッション

コロナ禍以降の「高級時計バブル」終焉!? 中古取引とオークションから見る市況

有料会員限定記事

コロナ禍以降、右肩上がりだった高級時計市場。一次流通の品薄が二次流通のブームをもたらし、価格も上がるばかりだった。だが、今年に入って発表されているデータには「高級時計バブル」の終焉を予期させる芳しくない数字が並ぶ。激動の予感漂う高級時計をめぐる市況を、中古取引とオークションという二次流通の観点から分析する。「スイス時計輸出額」から一次流通市場の劇的な変化を分析したこちらの記事も併読いただきたい。(この記事は「WWDJAPAN」2024年5月20日号からの抜粋です)

 ドイツ発祥の高級腕時計オンラインマーケットプレイスの「クロノ24」は、2024年第1四半期の60万件以上にも及ぶ自プラットフォームでの中古時計取引を分析し、市況をまとめたリポートを発表した。同リポートによれば、中古市場で最も価値が高まったのは「ジャガー・ルクルト(JAEGER LECOULTRE)」で、3.97%の上昇。ただし中古市場全体に目をやると、取引された時計の価格はこの四半期ほぼ停滞し、0.49%下落している。

 「クロノ24」のバラッツ・フェレンツィ(Balazs Ferenczi)ブランド・エンゲージメント統括は、今後価格が上昇に転ずるかは不透明とした上で、「第1四半期には、40%以上の人気モデルの価格が上昇した。欧州と米国の中央銀行が主要金利を引き下げれば、時計市場はまだ活性化する可能性がある」と楽観的な見方を示す。ただし、両地域のインフレ率は依然として高水準のため、経済専門家は直近で金利の引き下げが起こる可能性は低いと見ている。

愛好家たちは価格の再高騰を期待?

 フュレンツィ=ブランド・エンゲージメント統括は、「一方で第1四半期には、『クロノ24』における取引数は過去最高を記録した。愛好家たちが時計価格の再高騰をにらみ、今後価値が上がる可能性のある時計を手頃な価格で手に入れたいことの表れだったではないか」と分析する。
 なお「ジャガー・ルクルト」に続いて同四半期を通して取引価格がプラスを示したメゾンは「パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)」「タグ・ホイヤー(TAG HEUER)」「ロレックス(ROLEX)」。一方で最も値を下げたのは「ブライトリング(BREITLING)」で、4.49%の下落。「カルティエ(CARTIER)」「オメガ(OMEGA)」「オーデマ ピゲ(AUDEMARS PIGUET)」「ウブロ(HUBLOT)」も2%以上値を下げた。個々のモデルでは、値上げ率が最も高かった上位2つはどちらも「カルティエ」の時計で“パンテール”は19.51%、“サントス”は18.25%の値上がりを記録している。その他、15%以上値上げしたのは「ブライトリング」“ナビタイマー”、「ジャガー・ルクルト」“レベルソ グランド タイユ”、「タグ・ホイヤー」“モナコ・ガルフ”、「パネライ(PANERAI)」“ルミノール マリーナ 1950 3デイズ”、「ウブロ」“ビッグ・バン”、「グランドセイコー(GRAND SEIKO)」“ヘリテージコレクション”の6モデルだった。

オークション最大手クリスティーズは
高級時計顧客像の変化に注目

 停滞する中古高級時計市場に対峙するのはロンドンに本社を置くオークションハウス、クリスティーズも同じだ。レベッカ・ロス(Rebecca Ross)時計部門販売統括とマチュー・ルファット(Mathieu Ruffat)時計スペシャリストによると、同社はユニークピースの時計のオークションや、若い顧客の増加のおかげで、市場が直面する課題をうまく切り抜けているという。同社の発表によれば、2023年は12回の対面オークションと8回のオンラインオークションを通じて2億3400万ドル(365億9360万円)を売り上げた。業界トップの数字だ。
 ルフェットは「コロナ禍の直後、中古高級時計の価格は極端に高騰し、特にモダンな時計に大きな需要があった。直近数カ月は下降傾向にあるが、私たちのオークションで扱う時計のほとんどは希少なビンテージウオッチのため、さほど痛手はない」と語る。ロスも同様に、「斬新なアイテムを提供できているからこそ、市場の低迷の影響をある程度回避できている」と述べる。

浮かび上がる新たな顧客像
鍵を握る若年層と女性コレクター

 両氏は、急増する若い顧客層が、中古時計市場におけるクリスティーズの好況を継続させる鍵だと説明する。時計コレクターの人物像は変化している。インターネット上では情報が盛んに交換され、知識と知性を持ったさまざまなマイクロ・コミュニティーが存在するようだ。「より教養を深め、額面やトレンドに従うだけでなく、自分の好みに向き合う購入者が増えている」と語る。
 その他に増加しているのが女性コレクターだ。クリスティーズの時計顧客は依然として男性が多いものの、ロスは「女性の自立が急速に進んだこともあり、腕時計はステータスシンボルとして、婚約指輪と同程度の重要性を持つアイテムになっている」と期待を口にする。苦況を呈する中古時計市場の中で、新たな時計愛好家たちの情熱が市場を維持する鍵となるのか。

この続きを読むには…
残り0⽂字, 画像0枚
この記事は、有料会員限定記事です。
紙版を定期購読中の方も閲覧することができます。
定期購読についてはこちらからご確認ください。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

リーダーたちに聞く「最強のファッション ✕ DX」

「WWDJAPAN」11月18日号の特集は、毎年恒例の「DX特集」です。今回はDXの先進企業&キーパーソンたちに「リテール」「サプライチェーン」「AI」そして「中国」の4つのテーマで迫ります。「シーイン」「TEMU」などメガ越境EC企業の台頭する一方、1992年には世界一だった日本企業の競争力は直近では38位にまで後退。その理由は生産性の低さです。DXは多くの日本企業の経営者にとって待ったなしの課…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。