ファッション

東京都が次世代デザイナーを発掘する2つのファッションアワード開催 エントリー締切は9月20日

東京都は、東京から若手デザイナーを輩出し、パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークと肩を並べる“ファッションの拠点”とするため、2種類のファッションコンクールを開催する。都内在住・通学中のアマチュアデザイナーを対象にしたファッションコンクール「サステナブル デザイン ファッション アワード2025(SUSTAINABLE DESIGN FASION AWARD 2025以下、SFDA)」と、都内在住・通学中の学生を対象にした「ネクスト ファッション デザイナー オブ トウキョウ 2025(NEXT FASHION DESIGNER OF TOKYO以下、NFDT)」だ。エントリーは郵送もしくは特設サイトから可能で、9月20日まで受け付ける。

日本のファッション文化を
“持続可能に”するには?
「SFDA」が応募者に求めるもの

2コンテストのうちの一つ、「SFDA」の最大の特徴は、応募作品に着物の生地などの使用を義務付けていることだ。日本では古来より、着物を基軸にして染色や刺しゅう、組紐などの技術が発展してきた。しかし、現代では着物を日常的に着用する人が減り続けており、その魅力や着こなしの新たな可能性を提案しない限り、文化や技術が失われかねない状況にある。その意味で、「SFDA」では着物文化を“サステナブル(持続可能)”にしていくアイデアを募集している。

「ウエア部門」と「ファッショングッズ部門」の2部門から成る。それぞれ、デザイン画を対象にする一次審査、実際に制作した作品を披露して質疑応答を行う二次審査、そして3ルックもしくは3グッズをショー形式で発表する最終審査を経て、大賞と優秀賞、特別選抜賞を決定する。賞金は、大賞が100万円、優秀賞が50万円、特別選抜賞が50万円。受賞者はその他の特典として、国内の商業施設で展示する権利や、パリの展示会に参加する支援を受けられる。

審査のポイントは、和装関連品の活用方法を含めたデザイン性や機能性、新規性など。昨年の受賞作品には、絞りや金継ぎの技法から着想を得たウエアや、巾着型のショルダーバッグや帯を使用したコルセットといった小物が並んだ。

ノルベール・ルレLVMHジャパン社長と
篠原ともえに聞く
審査の基準

今年の審査員の顔ぶれには、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON JAPAN以下、LVMHジャパン)のノルベール・ルレ(Norbert Leuret)社長や、デザイナーでアーティストの篠原ともえのほか、「マリオン ビンテージ(MALION VINTAGE)」の石田栄莉子デザイナー、ファッションスタイリストの大田由香梨、メルカリの小泉文明会長など9人がそろう。彼らが考える「SFDA」の意義や、デザイナーに望むことは何だろうか。LVMHのルレ社長と篠原に聞いた。

WWD:「SFDA」の条件は、着物の⽣地などを使⽤したアイテムを制作することだ。⽇常⽣活で和装をする機会が少ない現代⽇本で、あえて着物素材を使う意義とは?

ノルベール・ルレLVMH ジャパン社長(以下、ルレ社長):“サヴォアフェール(匠の技)”を守り抜くことにつながる点だ。ファッションは常に進化しているが、伝統的な要素を取り入れ続けることも大切。着物のデザインとその歴史は日本特有のもので、卓越した技法を用いてつくられるその優美さは、外国人にとってもとても魅力的だと思う。

篠原ともえ(以下、篠原):これからのファッションを発信する若い世代の方々には、クリエイションを通じて美しい着物文化を継承してほしい。着物は日本人の美意識と伝統を受け継いだ素晴らしいアートピースのようなもの。触れて初めて分かる魅力がある。

また、着物の構造には無駄がなく、これぞ“持続可能性”の重要要素。お針子だった祖母があつらえた着物を形見として受け取り、運針をほどいた際、まるでパズルが組み合わさるかのように一枚の布になった。この体験は私の衣装づくりの大きなインスピレーションとなっている。

WWD:「SFDA」に 応募すること魅力や難しさは?

ルレ社長:「SFDA」は少し経験のあるデザイナー向けであり、実際に服として着用する際の実用性や機能性を含め、より多くの基準を考慮しなければならないのが、難しさだろう。

篠原:感覚的な思考よりも、いかに入念なリサーチをするかが鍵になるのでは。その探究心が新しいものづくりを生み出すきっかけとなり、また創作プロセスから日本の伝統文化を学ぶ機会になればと願っている。

WWD:世界で活躍するデザイナーに必要な条件とは。

篠原:ものを形にするだけではなく、かけがえのない伝統の橋渡しをすること。デザインの力で育まれた文化をつなぎ、さらにそこから新たな魅力を引き出す糸口をつくる。その重要性について、私自身もさまざまなプロジェクトを通じて実感している。

WWD:審査ではどのようなポイントをチェックするか。

ルレ社長:素材、シルエット、商品化できるか否か、そしてもちろんサステナビリティだ。

篠原:アイデアに独創性があるかどうか、創作において新しいチャレンジをしているかなどに注目する。

学生のための「NFDT」
「フリー部門」と
「インクルーシブ部門」の2本柱

「SFDA」と同時に開催するのが、学生向けの「NFDT」だ。応募者は「フリー部門」と「インクルーシブ部門」のいずれかを選び、「SFDA」と同様にデザイン画でエントリーする。「フリー部門」のテーマが自由である一方で、「インクルーシブ部門」は障がいを持つ人のニーズに合わせた視点が求められる。審査は東京藝術大学の日比野克彦学長のほか、ウィーログの織田友理子代表理事や、「CFCL」の高橋悠介デザイナー、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦デザイナーら8人が務める。

服飾に限らず、デジタルやアニメーション、映像などさまざまな分野に関わる学生に門戸を開く。コンテスト中には、ワークショップや海外若手デザイナーとの交流を行い、新たな価値観でファッション産業を切り拓く人材をサポートする内容になっている。

次世代のファッションを担うのは誰だ
応募締め切りは9月20日

22年に設立した「SFDA」と「NFDT」は、今年度で3回目の開催となる。若手の育成に注力した両コンテストは、昨年1000件を超える応募があり、年々注目度を増している。ここに掲載した動画は、昨年度のコンテスト開催に際してに撮影したもの。当時の審査員のコメントには、両アワードに通底するスピリットが詰まっている。ファッションがさらに社会を豊かにし、誰もが楽しめる日本の文化的資産となるために、次世代の革新的なアイデアを求めたい。応募締め切りは9月20日。

問い合わせ先
Sustainable Fashion Design Award 2025 事務局
info@kimono-wagara.tokyo