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渋谷慶一郎「アンドロイド・オペラ」6年ぶり凱旋 協働の「ハトラ」長見佳祐とアーティスト岸裕真が語る魅力と背景

ピアノやオーケストラ、電子音響、ノイズを駆使し、近年ではアンドロイドや人工知能を導入するなど、領域を横断しながら前進し続ける音楽家、渋谷慶一郎。渋谷のメインプロジェクトであり、これまでデュッセルドルフやドバイ、パリなど世界各地で上演してきた舞台芸術シリーズ「アンドロイド・オペラ」が、単独公演としては約6年ぶりに日本で開催される。

恵比寿ガーデンホールで6月18日に上演される本作は2部構成で、第1部には2018年に新国立劇場の委嘱により初演された、子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ「スーパーエンジェルス(Super Angels)」の抜粋が、第2部には2022年にドバイ万博で発表し翌年にパリ・シャトレ座で上演したアンドロイド・オペラ「ミラー(MIRROR)」が披露される。

第1部「スーパーエンジェルス」に参加する児童合唱団「ホワイトハンドコーラスNIPPON」の衣装を担当する「ハトラ(HATRA)」デザイナーの長見佳祐と、同じく映像演出を手掛けるアーティスト、岸裕真の2人に、渋谷本人や「アンドロイド・オペラ」との出会い、そして公演参加に至る経緯や制作背景について話を聞いた。

PROFILE: 長見佳祐/「ハトラ」代表(左)、岸裕真/アーティスト(右)

長見佳祐/「ハトラ」代表(左)、岸裕真/アーティスト(右)<br />
PROFILE: (ながみ・けいすけ)2006年パリでクチュール技術を学び2010年に帰国後「ハトラ」を設立。衣服を境界状況的な空間と捉えたリミナル・ウェアを提案。3Dクロスシミュレーション、生成AIを始めとするデジタル技術に基づくデザイン手法を確立し、様々なリアリティが溶け合う身体観をリサーチする。主な出展に「JAPANORAMA」(ポンピドゥー・センター・メス、フランス、2017)「DXP2」(金沢21世紀美術館、2024)など。著書に『CLO: DIGITAL MODELISM』(BNN、2023)(きし・ゆうま)人工知能(AI)を用いてデジタル作品や彫刻を制作するアーティスト。主に、西洋とアジアの美術史の規範からモチーフやシンボルを借用し、美学の歴史に対する認識を歪めるような作品を制作。 PHOTO : GO KAKIZAKI

「アンドロイド・オペラ」との出会い

——まずお2人と「アンドロイド・オペラ」との出会いについて教えてください。

長見佳祐(以下、長見):18年に日本科学未来館で初演された「スケアリー・ビューティ(Scary Beauty)」を観劇しました。開演前の会場には「これから何が起こるんだろう?」「もしかしたら何も起こらないのでは?」という、未知の状況を前にした緊張感が立ち込めていたことを覚えています。

開演してしばらくは、舞台中央に立つアンドロイド「オルタ」にばかり目がいったのですが、次第に、渋谷さんやオーケストラの皆さんが「オルタ」という新しい存在・知性と対峙してどう振るまうのか、どう自分たちをアップデートするのかという、人間側の挙動や変化に関心が移っていきました。人類の営みの縮図が表象されているように感じ、強く心を動かされました。

岸裕真(以下、岸):僕が渋谷さんとアンドロイド・オペラを初めて知ったのは、4、5年前、大学院の修士過程の頃です。当時「テクノロジーとアート」について話せる人が周りにおらず、たまたまツイッター(編注:現X)経由で長見さんと知り合い、やり取りが始まりました。そしてある時、長見さんが渋谷さんの「アンドロイド・オペラ」と「スケアリー・ビューティ」について教えてくれたんです。

——どのような流れで「スケアリー・ビューティ」の話題になったのでしょうか?

:AIとアートの関係性について話していた流れでした。その前にAI・機械学習分野の国際会議「ニュール・アイ・ピー・エス(NeurIPS)」に参加したんです。同会議は、その年にほぼ初めてAIアートに関するセッションが設けられ、AIを道具として使うべきだとする「AIは道具」派と、人格と見做すべきだと主張する「AIはコラボレーター」派の論争が起こるなど、小規模ながら盛り上がりを見せました。参加後に会議の話を長見さんに伝えた時に、長見さんは「スケアリー・ビューティ」について熱く語ってくれて、すぐにユーチューブで記録映像を見ました。


アンドロイド・オペラ 「スケアリー・ビューティ」 渋谷慶一郎 日本科学未来館公演

その後、初個展「ネイバーズ・ルーム(Neighbors' Room)」に向けて作品を制作していったのですが、振り返ると、AIとの向き合い方を考える上で1つのロールモデル、参照点になったのが渋谷さんと「スケアリー・ビューティ」だったと感じます。

——今回の公演に参加されることになったのはどんな経緯でしたか?

:昨年3月から6月に開催した僕の個展「フランケンシュタイン・ペーパーズ(The Frankenstein Papers)」を渋谷さんが観に来てくださり、僕は不在だったのですが、SNSでメンションをいただきました。その後雑誌「リアルサウンド」での対談で初めてお会いして意見交換をしたところ「何か一緒にやろう」と誘っていただき、10月に金沢21世紀美術館で上演された渋谷さんと池上高志さん共作のアンドロイド対話劇「イデア(IDEA)」への参加が決まりました。

『IDEA』の脚本、2台のアンドロイドの台詞はすべてGPTで生成されています。僕はGPTの学習やディレクションに関するお手伝いをしました。その打ち上げの場で、次もぜひ、と言っていただき、今回の公演への参加に至った次第です。

——そこに長見さんが参加されることになったのは?

:長見さんとは何度も共作をしています。ちょうど「イデア」の上演と同時期に金沢21世紀美術館で開催された企画展「D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」にも「HATRA+Yuma Kishi」名義で共同インスタレーション作品を出展しました。渋谷さんは、長見さんのことも、僕と長見さんの関係性もご存じで、「スーパーエンジェルス」について話し合う中で「衣装は長見さんにお願いできないか?」と話がまとまり、僕から長見さんに相談したんです。

長見:岸くん経由でお話をいただいてから、正式に参加が決定するまではとても早かったですね。僕は21年に新国立劇場で上演された「スーパーエンジェルス」の初演も観劇しましたし、今回の公演の概要を教えていただいた時に明確なプランがすぐに思い浮かびました。それを岸くん経由で渋谷さんにお伝えして、初めてお会いした時に「じゃあどう進めようか?」と実行プロセスについて話を進められたんです。

「スーパーエンジェルス」参加に向けたクリエーション

——今作でのお2人の担当領域や制作プロセスを教えていただけますか?

長見:第1部の「スーパーエンジェルス」に参加する、多様な特徴と背景を持つ子どもたちの児童合唱団「ホワイトハンドコーラスNIPPON」の衣装制作を担当しています。さまざまな体格の約30名の子どもたちが歌い、踊る演目で、大きなアクションもあるんです。彼らを包み込みながら、その動きを増幅し、劇場全体に解き放つような衣装を制作したいと考えています。ぜひ公演で確かめていただきたいですね。

——長見さんはかねてから3DモデリングソフトウェアCLO(クロ)やAIを活用されていますが、今回も同様ですか?

長見:はい。ただCLOにせよAIにせよ、僕にとってはもはや「筆と紙」のように当たり前の存在なので、特段強調することでもありません。制作に自然と入り込んでくるものです。

——今回の制作でいつもと異なっていることはありますか?

長見:衣装の安全性には、いつも以上に配慮していますね。なかには視力が弱いお子さんもいますし、先述の通り、舞台では動きもあるので、衣装が危険を誘発しないよう意識しながら制作しています。

——映像演出を担当される岸さんは、どのように制作されていますか?

:渋谷さんからは、第1部と第2部のそれぞれに対するイメージを共有していただきました。演奏楽曲の歌詞を読み解き、方向性に沿いながら、来場される方たちに多くを感じてもらえるような空間を演出する映像を制作したいと考えています。

ネタバレはできませんが、中間的な存在としての「天使」が鍵になります。媒介者・メッセンジャーとして神と人間を行き来する天使は、作品を通して「始まり/終わり」や「生/死」「西洋/東洋」などの境界を問い続ける渋谷さんにとって大切なモチーフでしょうし、人工知能という非人間的存在と自己の交友関係から作品を作る僕にとっても、興味深い存在です。この時代に、人工知能とともにどんな天使を降臨させられるか、目下制作を進めています。

2人が考える「アンドロイド・オペラ」の見どころ

——最後に、今回の東京公演の見所について、それぞれのお考えをお聞かせください。

長見
:アンドロイドの「オルタ」が、妹島和世さんがデザインされた台座とともに強い存在感を放っているので、まずそこに目が行くかもしれませんが、ぜひ舞台全体を観てほしいです。舞台上の多様なプレイヤーの連関や相互作用に目を向けると、すごいことが起こっていることに気が付くというか、「アンドロイド・オペラ」への印象が大きく変わるのではないでしょうか。

:同感です。今回の東京公演は、オルタ、渋谷さん、「ホワイトハンドコーラスNIPPON」の子どもたち、オーケストラ、長見さんの衣装など、多種多彩なプレイヤーやクリエイションが集まる空間です。僕は人工知能と共にその空間の意味を最大化するような映像を制作できればと思っています。細部に注目しつつ、空間全体も堪能していただきたいですね。

【公演概要】
Android Opera TOKYO - MIRROR/Super Angels excerpts.
公演日:2024年6月18日(火)
時間:開場18時、開演19時
会場:恵比寿ガーデンホール(チケットは完売)

第一部 Super Angels excerpts.
コンセプト、作曲、ピアノ、エレクトロニクス:渋谷慶一郎
歌詞:島田雅彦
ヴォーカル:アンドロイド・オルタ4
コーラス:ホワイトハンドコーラスNIPPON
オーケストラ:アンドロイド・オペラ・トーキョー・オーケストラ(コンサートマスター 成田達輝)
アンドロイド プログラミング:今井慎太郎
映像:岸裕真
衣装(ホワイトハンドコーラスNIPPON):ハトラ
衣装協力(ホワイトハンドコーラスNIPPON):ノヴェスタ

第二部 Android Opera MIRROR
コンセプト、作曲、ピアノ、エレクトロニクス:渋谷慶一郎
ヴォーカル:アンドロイド・オルタ4
声明:高野山声明(山本泰弘、柏原大弘、谷朋信、亀谷匠英)
オーケストラ:アンドロイド・オペラ・トーキョー・オーケストラ(コンサートマスター 成田達輝)
映像:ジャスティン・エマルド
アンドロイド プログラミング:今井慎太郎

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