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新垣結衣×早瀬憩 「誰かと食べるごはんはおいしい」——人と人は分かりあえない現実の中で、誰かと生きていくには

PROFILE: 左:新垣結衣/俳優 右:早瀬憩/俳優

左:新垣結衣/俳優 右:早瀬憩/俳優
PROFILE: 左:(あらがき・ゆい)1988年6月11日、沖縄県出身。2007年に公開された主演映画「恋空」で第31回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。「ミックス。」(17)では第41回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、第60回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。近年の主な出演映画は「劇場版 コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」(18)、「ゴーストブック おばけずかん」(22)、「正欲」(23)などがある。テレビドラマでは、「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」シリーズ(CX)、「リーガル・ハイ」シリーズ(CX)、「逃げるは恥だが役に立つ」(16/TBS)、「獣になれない私たち」(18/NTV)、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、「風間公親-教場0-」(23/CX)などに出演。 右:(はやせ・いこい)2007年6月6日生まれ。23年、日本テレビ「ブラッシュ アップライフ」で門倉夏希の中学時代を演じて注目を集める。フジテレビ「うちの弁護士は手がかかる」(23)にも天野杏(中学生時代)役として出演。雪印メグミルク「雪印北海道バター」やSUPER BEAVER「決心」のMVにも出演。

「あなたと私は別の人間だから。あなたの感情も、私の感情も自分だけのものだから。分かち合うことはできない」

「違国日記」の主人公・高代槙生は、15歳の少女・田汲朝に言い放つ。朝は一見冷たく感じる言葉に「そんなの嫌だ!」と目をうるませて反論するが、槙生の表情はかたくなだ。朝は両親を事故で失い、茫然自失する中で、叔母である槙生から「ずっとうちに帰ってきなさい」と言われ、同居生活を始めたばかり。

原作者である漫画家・ヤマシタトモコは、「現実的に人間は分かりあえないものであるし、それを大前提とした上で、『それでも』と超えていこうとすることが、物語においてすごく美しい」とインタビューで語る。このテーマが反映された本作では随所に「分かりあえなさ」が“温かく”描かれる。

映画「違国日記」で槙生を演じた新垣結衣、槙生と同居する女子高校生・朝役の早瀬憩に、本作に向き合うことで感じた「他者との付き合い方」について話を聞いた。

共感を覚えるも、苦戦した特徴的な言葉たち

本作は、人気作品の実写映画化であるため、新垣と早瀬は共に「どういった反応が返ってくるのか、やっぱり不安」「原作を徹底的に読みこみ、現場でもずっと読んでいた」と口にする。

新垣は、「あなたと私は別の人間だから」と断言する槙生のスタンスに「私自身も人との向き合い方として、それぞれ違う人間であるということを意識していたいと思っているし、それぞれの世界を大事にしたいタイプなので、共感する部分は多い」とうなずく。そんな中で、苦労したのは「言い方」だという。

新垣結衣(以下、新垣):「違国日記」ならではの言葉選びがとても好きで原作の魅力の1つだと思うんですけど、生身の人間の口から発したときにどう聞こえるかというのが難しい点だなと当初感じていました。いちファンとしてはその魅力を映画にも活かしたいと思いましたし、監督と相談しながら試行錯誤しましたね。最終的には、本番前に原作の槙生ちゃんの表情を頭でイメージしながら演じることでスッとセリフを言えた気がします。

早瀬憩(以下、早瀬):槙生ちゃんは、言葉にしづらい感情をバシッと言ってくれますよね。朝の両親の葬儀中で「決してあなたを踏みにじらない」と言ってくれたシーンは、朝として聞いて、泣きそうになりました。

「ある日突然、大人になるわけじゃないんだよ」

新垣は現在35歳、対する早瀬は16歳。19歳差の2人の年齢は、原作とほぼ同じだ。そんな本作では、朝が槙生の「大人らしからぬ姿」を見て驚くシーンが数多く存在する。早瀬は作中の「ある日突然、大人になるわけじゃないんだよ」というセリフに、新鮮な驚きがあったという。

早瀬:私は、「違国日記」の撮影前までは、長い時間一緒に過ごしてきた大人といえば、家族や先生、あとはマネージャーさんだけでした。だから「大人=かっこよくて、自分のことは自分でできる」イメージが強かったんです。でも、この作品に出てくる大人って、槙生ちゃんだけじゃなくてみんな悩んでいるので、「大人も悩むし、完璧ではないんだ」と感じられました。これは、自分にとってすごくよかった気がします。

新垣:私は15歳の頃に上京してきたんです。当時は分からないことだらけでしたけど、今はその倍以上生きてきて、見えてるものが増えたなぁとは思うのですが……30代って、もっと大人だと思ってました(笑)。

大人って、いろんなことを知ってて、ある程度のことはうまくやれる存在だと思っていたんですけど、実際自分が大人と呼ばれる年齢になっても早起きも予約の電話も苦手だし、できないことも知らないことも山ほどある。いつまでたっても途中なんだと日々実感しているので「違国日記」のキャラクターには、「そうだよね」と思うことが多いです。

早瀬:でも、現場にいる結衣さんや瀬田なつき監督は、1つ質問すると100ぐらいに返してくれて……すごいなぁって。大人の人たちに相談したことがなかったので「聞いてもいいんだ」と初めて思えました。大人って少し怖い印象もあったのですが、撮影期間を通してハードルが下がったような気がします。

新垣:よかった(笑)。朝は若いが故に、人と関わるとき、「相手に不快な思いをさせるかもしれない」とか「自分が傷つくかもしれない」という恐れがない……その真っすぐさが、槙生には眩しかったかもしれないし私もとてもハッとさせられました。

劇中の話ですが、朝はたとえ自分が誰かを傷つけてしまったとしても、それすら素直に受け止めて「ごめんなさい」としっかり謝れる。朝の純真さが、私が演じた槙生ちゃんのコンプレックスを刺激して、ムズムズするシーンもありました。そういうフレッシュな素直さって、なかなか取り戻せないので。

「自分がある大人」と「フレッシュな少女」の違いは、劇中では槙生と朝の服にも表れる。新垣は槙生らしさを「サイズ感」と、早瀬は朝の服を「カラフル」だと分析する。

新垣:槙生ちゃんは、部屋のシーンが多いのでスエットみたいな楽な格好の印象も強いですが、身なりに無頓着な人ではなくて、外出時はちゃんとしているし、けっこう幅広いアイテムを着用しているんですよね。そんな中で彼女らしさを表現するには、流行りではない心地よさと、サイズ感がポイントでした。

早瀬:朝は、古着っぽいカラフルな服を着るんですよね。朝自身が好きな色を探していたり、いろんな感情があったりするからなんだと思っています。私は普段、モノトーンのワンピースみたいな服をよく着ていたので、すごく新鮮でした。

新垣:あれ? 現場で見た私服は結構カラフルな色を着ていたような……。

早瀬:撮影期間中は心が朝だったので、朝が選ぶものを選んでたような気がします(笑)。撮影前はボーイッシュな格好はあまりしてこなかったんですけど、朝を演じさせてもらってから古着も着るようになりました。自分が染まったのかもしれません。

「いってきます」「いってらっしゃい」の積み重ね

分かりあうことが不可能な現実で、重要な役割を果たすのが食事だ。槙生と朝は、一緒にエクレアやピクルス、餃子を食べて、怒ったり泣いたり笑い合ったりする。新垣自身も「誰かととる食事で毎日が楽しくなる」と微笑む。

早瀬:餃子をみんなで包む「包団(パオダン)」結成のシーンは本当に楽しかったです。みんなで作って食べるとこんなにおいしいんだって。

新垣:あのシーンは「自由にしてください」とだけオーダーがあったので、みんなで盛り上がりました。

誰かと食べるごはんは本当においしいですよね。手の込んだ料理ではなくても、素朴なものでも全然味が違ってくる。もちろん1人で食べても美味しいですし、人によって毎日のその時間をどう過ごしたいかはそれぞれですが、私の実感としては「誰かと食べるごはん」は、自分にとってすごく満たされる時間です。

早瀬:私には、まだ生活とか暮らしとかって、ちょっと遠いんですけど……。実は、結衣さんの、「憩ちゃんの作った卵焼きを食べてみたい」という言葉がきっかけで、最近初めて卵焼きを作りました。今まで料理ってあんまりしたことがなくて、スクランブルエッグみたいになっちゃいそうだなぁと思いながら作ったんですけど、なんとか作れました。

毎日とる食事。そこに「きっかけ」があるとは、忙しく生きていると気が付きもしない。槙生と朝は食事を通して歩み寄っていくが、その距離感を劇中で表しているのが「いってきます」「いってらっしゃい」という言葉なのだという。新垣、早瀬は声をそろえて「好きなやりとり」と話す。

早瀬:本当に何気ないんですけど「いってきます」「いってらっしゃい」が、映画の最初と最後にあるんですね。最初は2人が全然打ち解けていない(笑)。でも、最後の方に出てくるこのやりとりは、全然違う。「いってらっしゃい」って言ってくれる槙生ちゃんの顔がすごく好きです。応援してくれてるのが分かる。

新垣:最後は、日々を重ねて何度も言ってきたような「いってきます」「いってらっしゃい」になってたね。本当に何気ないんですけど、もしかすると、距離感が一番分かりやすいコミュニケーションなのかもしれないですね。ささいなことが実は温かさを持っている。こういうことを、実感させてくれる作品だと改めて感じます。

誰かと関わることで、人は“途中”の道を進んでいく。毎日の小さな積み重ねの先に「いつのまにそんなに大人になったの?」と驚き、「あなたが幸せでいてくれればいい」と願う日がやってくるのかもしれない。たとえ、分かりあえなくても。

PHOTOS:TAKAHIRO OTSUJI
STYLIST:[YUI ARAGAKI]YOSHIAKI KOMATSU(nomadica)、[IKOI HAYASE]MIZUKI KOBAYASHI
HAIR & MAKEUP:[YUI ARAGAKI]ASUKA FUJIO(kichi)、[IKOI HAYASE]MOE MORIOKA(sui)

[YUI ARAGAKI]ネイビースエットベスト 2万900円/チノ(モールド 03-6805-1449)、シャツワンピース 16万2800円/プルーン・ゴールドシュミット(メゾン・ディセット 03-3470-2100)、ベージュスラックス 4万6200円/ハイク(ボウルズ 03-3719-1239)、靴 5万1700円/ニードルズ(ネペンテス ウーマン トウキョウ 03-5962-7721)、ピアス 2万6400円、左手人さし指リング 9万9000円/共にマリハ(マリハ 03-6459-2572)、右手人さし指リング 2万7500円/セルジュ・トラヴァル(アッシュ・ペー・フランス hpfrance@hpgrp.com)、右手薬指リング 2万6950円/プリュイ(プリュイ トウキョウ 03-6450-5777)

[IKOI HAYASE]トップス 6980円/ソマリ(シアンPR)、パンツ 3万4100円/パノルマ、左手リング7万1500円、右手リング 8万5800円、左耳イヤーカフ 5万5000円、右耳イヤーカフ 3万5200円/すべてイー・エム(イー・エム 青山)

■映画「違国日記」
6月7日から全国ロードショー
出演:新垣結衣、早瀬憩
夏帆、小宮山莉渚、中村優子、伊礼姫奈、滝澤エリカ、染谷将太、銀粉蝶、瀬戸康史
監督・脚本 :瀬田なつき
原作 :ヤマシタトモコ 「違国日記」 (祥伝社 FEEL COMICS)
音楽:高木正勝 
劇中歌:「あさのうた」(作詞・作曲:橋本絵莉子)
撮影:四宮秀俊 
照明:永田ひでのり 
美術:安宅紀史、田中直純
衣裳:纐纈春樹
企画・制作:東京テアトル 
配給:東京テアトル、ショウゲート
2024年/日本/カラー/シネスコ/DCP5.1ch/139分
Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会
https://ikoku-movie.com

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