ビューティ

「バルクオム」の10年が変えたメンズスキンケアと野口CEOが語る未来像

メンズビューティブランド「バルクオム(BULK HOMME)」がスタートしたのは2013年のことだ。今ほど男性のスキンケア習慣が一般化しておらず、プチプラ商品でも使っていれば褒められた時代。洗顔、化粧水、乳液をそろえると1万円に迫る、マスの男性向けとしてはかなり攻めた価格設定で、メンズスキンケア市場に参入した。

ブランドを立ち上げた当時、バルクオムの野口卓也CEOは「美容への関心・知識は人並みか、それ以下だった」という。一般男性と変わらぬ美容意識、それゆえ業界の常識に縛られない発想力があった。

それから10年、「バルクオム」は世の男性の美容へのモチベーションを動かし、メンズスキンケアのリーディングブランドに成長する。バルクオムは、主要ドラッグストアやバラエティーショップ、ECを合計したメーカー別販売シェア(2023年1〜12月)において、メンズカテゴリーの洗顔料で2位、化粧水で1位、乳液で1位を獲得。シリーズ累計出荷本数は1300万本を突破した。(出典:富士経済「化粧品マーケティング要覧 2023」)。

今や美容関心層だけでなく一般男性からも広く支持されるようになった「バルクオム」。野口CEOにブランドのこれまでと描く未来を聞いた。

男性は「めんどくさがり」か
常識を疑い、王道を目指す

PROFILE: 野口卓也/バルクオムCEO

野口卓也/バルクオムCEO
PROFILE: (のぐち・たくや)慶應義塾大学環境情報学部中退。ITベンチャー等複数の企業を立ち上げ、13年に「バルクオム」をスタート。17年、組織再編を経てバルクオムを設立、CEOに就任 PHOTO:TAMEKI OSHIRO

WWD:創業のきっかけは。

野口卓也バルクオムCEO(以下、野口):「メンズスキンケアを世の中に啓蒙したい」とか、そういう思想めいたものはなかった。ビジネスを自分で興して戦い、勝算が高そうな領域がたまたまメンズコスメだったというだけ。メンズビューティ市場の王道カテゴリー、僕はそれをスキンケアだと思っていたのだが、そこにはまだ圧倒的なブランドがないと感じていた。

WWD:10年前、スキンケアをする男性は今よりもニッチだった。

野口:文明未開の島の住民に商品を売るようなものだった。スキンケアのやり方も、やる意味も分からない人ばかり。マーケティングの世界では、需要の全くないところを攻めるのは悪手だ。プロのマーケターたちは、「ここはだめだ」と見切りをつけていたから、メンズスキンケア市場は広がらなかった。ただ新参者で知識も経験もない僕は、「潜在需要のフロンティアだ」と喜び勇んで飛び込んだ。

WWD:洗顔、化粧水、乳液の3ステップ提案かつ、合計価格は1万円近い。一般男性にとってはハードルが高かったはずだ。

野口:新参者の僕は、メンズビューティ業界の常識を疑うことから始めた。例えば男性のペルソナは「めんどくさがり」。そのせいか男性向けスキンケアは手軽なオールインワンタイプが主流だったが、成功事例と言える商品はほとんど見当たらなかった。

僕は本当にそうなのか?と疑い、別の仮説を立てた。求められているのは、多少値段が張っても、手間がかかっても間違いない「王道のベーシック」なのではないかと。「バルクオム」の商品開発は予算に縛られることなく、女性向けの本格的なスキンケアにも負けない処方を詰め込んだ。

成分や処方を語らず
コンセプトの強さで勝負

WWD:デザインやコンセプトも趣向を凝らした?

野口:ブランド名の「バルク」は、成分や処方などにこだわった“中身”を意味する。ただ、それについてくどくど説明したくなかった。美容に興味がない僕自身、カタカナや専門用語でスゴさを語られても響かないからだ。

全てはファーストインプレッションで決まると考え、コンセプトを磨いた。コスメの世界で男性向けは「手軽でそれなり」なイメージがあり、かたや女性向けは「本格的で効果実感できる」イメージがある。世に出ている男性向けコスメは黒のパッケージばかりだったから、あえて白をキーカラーにすることで、“本物”であることを連想させると気が付いた。コストを少しでも削るためにパッケージを徹底的に簡素化したが、それは余分を削ぎ落とし、バルク(中身)への本気度を際立たせる意図もあった。

WWD:滑り出しはどうだったか。

野口:最初の2年間は全く売れなかった(笑)。ターニングポイントになったのは3年目。SNS広告にいち早く注力し、フェイスブックが大きな認知・流入のハブになった。当時、SNS上ではメンズスキンケアの競合はほぼ皆無で、自由にターゲットに訴求できる夢のような環境だった。

突飛なことをしたからうまくいったという感覚はない。小売店の棚の目立つところに商品を置いていただくための営業が大事なように、オンラインでも同じ発想で、スキンケアを探す男性の目に留めていただく努力をした。

キムタクCMで一気に販路拡大
“ブランディング”に縛られない

WWD:木村拓哉さんを起用したテレビCM(2020年春、21年秋)は話題になった。

野口:これをきっかけに、さまざまな大手ドラッグストアチェーンから商談や問い合わせが入り、3000〜4000だった取り扱い店の数は一気に1万以上に広がった。20年10月にはマツモトキヨシ・ココカラファインのグループ1371店舗(当時)で販売を開始し、現在は1万以上の小売店やサロンで取扱いがある。認知拡大はEC販売にも相乗効果があり、現在も売り上げのうちオンライン(公式EC+モール)が6〜7割を占めている。

WWD:認知が一気に広がり、ブランディングを舵取りする難しさは感じなかったか。

野口:たまに聞かれる質問だが、僕は“ブランディング”というものついてあまり考えたことがない。「バルクオム」を目的にわざわざドラッグストアを訪れる男性客が多い、というデータが出ていることはうれしい。だが日用品ついででも買っていただければ、ありがたいことだ。ドラッグストア、バラエティーストア、EC、どこで買われるお客さまも「バルクオム」のファンであることは変わりない。そこはフラットに見ている。

他のブランドに「真似されている」と感じることは増えた。だが僕らは真似できないバルク(中身)を作り続けるだけだ。定期購入プログラムを利用いただいているお客さまのエンゲージメントも高く、クオリティーに対する自信は揺らがない。

ヘアケアで圧倒的ナンバーワンへ
メンズビューティの新概念に挑戦

WWD:ヘアケア(2018年発売)、メイクアップ(21年発売)にもラインアップを広げた。

野口:「バルクオム」はかくあるべしというポリシーは全くないし、どんどん変化していく。ブランドを山に例えるなら、スキンケアで一定の成功を収めた今がようやく1合目。2合目は、ヘアケア分野における圧倒的なシェア獲得。すでにどの販路でも売れ筋上位に食い込んでいるが、圧倒的なナンバーワンになれるはずだ。売上規模も今の2、3倍にできる。

メイクアップは小売店の棚を見てもらえば分かるが、あまり売れてない(笑)。需要がニッチだから、広告費を投じれば結果がついてくるという単純な話ではない。商品、売り方、コミュニケーションの工夫が必要だし、先は長い。だが男性の美容文化がこれから発展する中で必要とする人は増えていくだろう。使命感を持って、腰を据えて育てていく。

WWD:昨年11月にはインナービューティの提案として“ザ・プロテイン”を発売した。

野口:これからの「バルクオム」を象徴する商品になる。メンズビューティの分野で新しい“概念”を作り出すことにもチャレンジしたい。

プロテインは一般的に筋力増大を補助する栄養剤のイメージだが、僕らが提案するのはインナービューティーのためのサプリメント。男性の美容と、日中を健やかに過ごすために必要な栄養素として、タンパク質だけでなくさまざまなコンディショニング成分を配合した。プロテインという名称を使ったのは、体に摂取するものとして、男性にとってなじみがあり、コンセプトが伝わりやすいと考えたからだ。

これまでの商品と生まれたプロセスも違う。これまでは僕をはじめ一部の人間がコンセプト設計するものが多かったが、この“ザ・プロテイン”は社員のアイデアが元になった。会社は40人前後の少数チームだが、ボトムアップのアイデアも積極的に生かしていく。

例えば100年前には“まつ毛美容液”というものは影も形もなかった。誰かがゼロから作り出して市場に広め、「まつ毛美容」を文化として定着させた。新しい概念を作り出すために、主語となるブランドの知名度や信頼性は強みになる。「バルクオム」はそれにチャレンジできる場所にいる。まずは“ザ・プロテイン”を通じて「メンズインナービューティー」という新しい美容文化を作り出したい。

WWD:思い描く“頂上”の景色は。

野口:メンズビューティの世界ナンバーワンブランドになること。とはいえ売上高は国内が9割以上で、(グローバル戦略は)まだまだ胸をはって言える規模ではない。海外では中国が最優先。現地のメンズビューティ市場はレッドオーシャンと化しているが、クオリティーではどこにも負けていない。消費は冷え込んでおり我慢どきだが、粘り強く機をうかがっていく。

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