向千鶴サステナビリティ・ディレクターによる連載がスタートします。第1回は「パタゴニア(PATAGONIA)」が本格始動した中古品販売の現場や、「ウィークエンド マックスマーラ(WEEKEND MAX MARA)」がコラボした京都の織物工場の圧巻な光景、そして“持続可能”を文字通り体現している創業400年の「チャーチ(CHURCH'S)」のディナーでの気づき、などをお届けします。何をもってサステナビリティなの?そんな疑問に取材を通じて答えます。
手仕事とハイテクが両立する、生産現場の静かな迫力
「ウィークエンド マックスマーラ」が京都でグローバルイベント(5/19)
「ウィークエンド マックスマーラ」が、バッグ“パスティチーノ”の限定アイテム発売にあたり、京都でプレスツアーを開催しました。ぷっくりしたがま口型の“パスティチーノ”は各国の伝統技術を素材に採用し、年に1度発表されています。ミラノ、パリに続いて“第3の寄港地”に選ばれたのが日本の京都。バッグに採用した唐草や花模様のシルクジャカードは、1843年に京都で創業した川島織物セルコンのアーカイブから選出したもので、留め具部分は1927年の創業の中森組紐工房の職人による手仕事です。
この日、世界各国から集まったジャーナリスト一行は、観光客でごった返す京都市内を抜け出し、川島織物セルコンの工場見学へ。ビデオで同社の歴史を学んだ後、制作工程の説明を受けながら広い工場を歩きました。整理整頓が行き届いた工場はいくつかのゾーンに分かれており、織りの工程は大きく2つの「手織り」「機械織り」に分かれています。その緻密さとスケールを目の当たりにし、「あ〜これが伝統を受け継ぎながら進化をし、世界で評価される日本のものづくりの現場というものか」と圧倒されました。マニュアル化できるところを徹底的にマニュアル化し、その上で職人の技と感性を引き出す。静かな凄みがあります。このスケールがなければ「ウィークエンド マックスマーラ」のようなグローバルブランドのスケールには対応できないですよね。詳細は上の写真をキャプションと合わせてご覧ください。
「必要ないモノは買わないで」を連呼する斬新な売り場で宝探し
「パタゴニア」が中古品の買い取り・販売本格スタート(5/24)
「パタゴニア」が自社製品の中古品の買取りと再販を本格スタートするということで、ポップアップが開催中のパタゴニア東京・渋谷へ。入口ではアスリートたちのお気に入りの一着が迎えます。アウトドアで活躍している彼らがリペアをしながらも愛用し続けるのは、時に命を支えるギアとしての機能性の高さはもちろんですが、ハードな局面を共に過ごしてきた相棒としての思い入れがあるから。アスリートでなくてもそういう一着はありますよね。
足跡マークに導かれて同店の2階に上がると、中古衣類プラットフォーム「ウォーン ウエア(WORN WEAR)」の全貌がわかる展開に。商品の大半は買取り(オンラインでは常時、ポップアップ中は店舗でも実施)した中古品です。同じ製品でも状態により価格も異なり、宝探しのような楽しさがあります。
驚くのは店内随所に「必要なモノは買わないで」とか「新品よりずっといい」と言ったパネルが掲げられていること。新品も販売している店舗で何とも前衛的なメッセージです。これができるのは「パタゴニア」がサーキュラーブランドとして統合したサービスを提供しているから。
「パタゴニア」考える着る人と製品を取り巻くサキュラーの姿は端的に言えば次のようになります。①なるべく長く使用することで、CO2排出量を抑える→②壊れてしまったら修繕をして、自身で愛用を続けたり、第3者に中古品として手に渡り、さらに長い使用でインパクトを減らす→③どうにも使用できなくなったらリサイクルへ。
メッセージは日本語、英語、中国語で掲示されています。アジアで「パタゴニア」の支社があるのは日本と韓国。訪日客もグローバルで発信しているメッセージをここで体感できる、というわけです。一点ものが多いから宝探しのような感覚で買い物を楽しめます。
この場は、実験場であり対話の場だな、というのが訪れた印象です。例えば、どんなに愛着がある製品でもギアとしての機能性が担保できなければアップサイクルを断ることもあるそう。アウトドア製品ゆえ、使用者の命に関わることもあるからです。ここで思い浮かんだのが登山家であった高齢の自分の父の姿です。もう山には登れない彼にとっては、機能性がなくとも愛用の一着を散歩着として持っていたいでしょう。そういった対話がこの場では広がっていきそうです。
その頃、日本は戦国時代だった
「チャーチ」CEO来日ディナー(5/29)
英国のシューズブランド「チャーチ」のデニ・マンザットCEOが職人と来日し、製品のお披露目と合わせて東京會舘でディナーが開催されました。ブランドの創業は1873年と十分に「老舗」ですが、その始まりは1617 年(日本の関ヶ原の戦いの数年後)に靴の職人アンソニー・チャーチが靴づくり始めたことにさかのぼるそうです。受け継がれてきた技を目の当たりにし、これをサステナビリティと呼ばない理由は見当たりません。
いただいた食事は、故・エリザベス女王が来日したときとほぼ同じメニューとのことでワインとともに時間がゆっくりと流れてゆきました。