「ディオール」は、名香“ミス ディオール”の物語をたどる「ミス ディオール展覧会 ある女性の物語」を7月15日まで六本木ミュージアムで開催している。空間デザインは、2022年から23年にかけて東京都現代美術館で開催した「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展に続いて建築家の重松象平が手掛けた。また、ルネ・グリュオーやマッツ・グスタフソンによるドローイングや水彩画、井田幸昌やサビーヌ・マルセリスらの作品に加え、初めて若手現代アーティスト・江上越の作品を展示する。“ミス ディオール”をそれぞれ空間と絵画で表現する重松と江上に、同フレグランスの魅力や作品への落とし込み方について聞いた。
記憶に残るシーンを重ね、
“ミス ディオール”を描き出す
重松象平/建築家
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WWD:香りという、目に見えないクリエイションを空間デザインにどう落とし込んだのか?
重松象平(以下、重松):そもそも香水は、花々などのノートをレイヤリングして作られています。さらに「ディオール」というブランドや“ミス ディオール”の歴史、ボトルやリボンのデザインなど、さまざまな要素が集まって完成しています。空間デザインにおいても、幾つものレイヤーを重ねることで香水の総体が浮かび上がり、ストーリーが見えてくるような構成を意識しました。香りを体験させるのは難しい課題でしたが、その分やりがいがありました。
WWD:2022年から23年にかけて開催した回顧展を経て、プレッシャーはあった?
重松:テーマが“ミス ディオール”に限定されていたことや、会場のスケールが異なることから、また違った観点で取り組めました。ファッションから美容までトータルビューティを構想するブランドの根幹といえるアイテムを、空間デザインで表現するのは面白かったです。
WWD:空間デザインで意識したことは?
重松:何を見せたいか、それをどう映えさせるかを意識しました。建築家としての個性をある程度消して、批評性や客観性を発揮しつつ、議論を重ねながら作っています。「ディオール」と、お互いをインスパイアし合う関係になりつつあるのはうれしいですね。
WWD:香水のレイヤー構造から全体の連続性を考えたとのことだが、オートクチュールドレスと香水の限定エディション、アートの空間はどのような意味を持つ?
重松:“ミス ディオール”の広告キャンペーンに使用したオートクチュールドレスとフレグランスのボトル、さまざまなアーティストの作品を展示しています。本展覧会では全体的に、“ミス ディオール”を象徴するピンクを多用してきたため、ここではあえて白を採用しました。花畑のようなドリーミーな空間を構想し、ドレスを花に見立てて表現しました。「ディオール」というメゾンの下に集ったあらゆるジャンルのアーティストが、それぞれ存分に発揮したクリエイティビティーを体感できると思います。
WWD:新作“ミス ディオール パルファン”の香りの印象は?
重松:女性の美を求める意欲や、愛、自分を見つめ直す感覚......人間的な部分をかき立てるような印象を受けました。香水は、ファッションのように目には見えないけれど、自分を表現する手段の一つですよね。いろいろな思いを喚起させ、インスピレーションを与える香りだと思いました。
WWD:来場者には、どのような体験を届けたい?
重松:記憶に残るようなシーンを幾つも連続して体験することで、最終的には“ミス ディオール”という一つの映画を見たような感覚になってほしいですね。とはいえ感じ方は人それぞれ自由なので、いろいろな関わり方や感じ方があっていいと思います。
誰しもがミューズになり得る
江上越/アーティスト
WWD:新作“ミス ディオール パルファン”の香りからイメージするものは?
江上越(以下、江上):魅惑や誘惑と、自信という印象を受けました。私にとって香水は、気合いを入れたい大事な場面で使うものです。新しい世界に連れていってくれるような気がするんですよね。
WWD:“ミス ディオール”からどのようなインスピレーションを受け、作品でどう表現した?
江上:“ミス ディオール”は伝統的かつ革新的、繊細だけど大胆。この香水をまとうことで、女性は誰にでもなり得るという想像力をかき立てられ、一つの定義にとらわれない多様な美しさを描きたいと思いました。そこから“虹色”というイメージが浮かび、カラフルなブラシストロークで、光の中で踊る自信に満ちた女性を表現しました。虹はどこまでも平行線で交わらないけれど、それぞれが美しい。夢や希望の象徴でもあります。
WWD:大胆なタッチやブラシストロークが特徴的だ。
江上:自分の絵画言語において、とても大事な要素です。自分の痕跡や生きた証、軌跡のようなものだと思っています。シンプルな一筆一筆を重ねて、エネルギーやエモーションを乗せていく......自然とそういう描き方になっていきましたね。ミニマムな筆致の中に、人間のエモーショナルな部分を感じてもらえたらうれしいです。
WWD:作品を制作する中で困難はあった?
江上:ゼロから何かを生み出すのは、やはり難しいです。もともと真っ白で完璧に美しいキャンバスに切り込んでいき、新たな自分の世界を作らないといけないんですよ。一筆目がいつも一番怖いですね。
WWD:作品を通してどのようなメッセージを届けたいのか?
江上:誰しもがミューズになり得る、ということです。人それぞれ、自分の中に答えがある、というのが「ディオール」の答えなんじゃないかなと思います。来場者には、作品との距離感を楽しんでもらいたいですね。近くで見ると、“ミス ディオール”にも共通の、女性特有の忍耐強さや内に秘められたパワー溢れるラインが見えます。距離を取ると、女性のしなやかさやボディーなどのイメージを感じられると思います。
日程:6月16日〜7月15日
時間:10:00〜21:00(最終入場20:00)
場所:六本木ミュージアム
住所:東京都港区六本木 5-6-20
※事前予約制・⼊場無料
パルファン・クリスチャン・ディオール
03-3239-0618
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