サステナビリティ

古代ローマ時代の市場でサステナビリティを考えるイベント開催 「ボッテガ・ヴェネタ」CEOなど100人のゲストスピーカーが登壇

伊NPOのサステイナブル・ファッション・イノベーション・ソサエティー(SUSTAINABLE FASHION INNOVATION SOCIETY、以下SFIS)は6月4日と5日の2日間、欧州議会と欧州委員会との提携によるフィジタル・サステナビリティ・エクスポ(PHYGITAL SUSTAINABILITY EXPO、以下PSE)をローマで開催した。PSEはファッション&デザインのサステナビリティに特化したイタリア初のイベントとして2019年にスタート。技術革新による“メード・イン・イタリー”の持続可能な産業への移行促進を目指している。

多彩なパネルトークからユニークなファッションショーまで

会場は、コロッセオやフォロ・ロマーノと同じエリアにある古代ローマ時代の市場跡地「トラヤヌスの市場」。世界遺産や歴史的建造物が至るところにある街ならではのロケーションと言える。そんなユニークな会場にステージや約15企業や団体の展示ブースを設けた。

5回目を迎えた今回は、ポリシーメーカーである政治家からファッションや素材、サステナビリティ関連企業のトップ、学者、NPOまで、イタリア国内を中心に17カ国から約100人のゲストスピーカーがステージに登壇。終日ひっきりなしにパネルトークやプレゼンテーション、レクチャー、公開インタビューなどが行われた。テーマやトピックは、EUやイタリアにおけるサステナビリティ関連の政策やイニシアチブをはじめ、素材や生産、小売、ESG投資、EPR(拡大生産者責任)、ダイバーシティー&インクルージョン、エネルギーまで多彩。大半はイタリア語で行われたが全て英語で同時通訳され、オンラインでも2言語でライブ配信された。

PSEがハイライトの一つに据えているのは、初日夜のナレーション付きファッションショーだ。披露したのは、出展者をはじめとする9ブランドが制作したアイテム。サステナビリティに対する意識を高めることを目的としており、モデルがランウエイに登場すると、その服の生産に用いられた技術革新やサステナブル素材の詳細、生産にかかる温室効果ガス排出量についてのナレーションが流れるという演出が特徴になっている。同イベントは一般客も無料で参加でき、ショーには若者を中心に地元の人も数多く集まった。

「ボッテガ・ヴェネタ」や「フェラガモ」など優れた“メード・イン・イタリー”を表彰

2日目の午前中には、“メード・イン・イタリー”の優れた取り組みを表彰する「サステイナブル・メード・イン・イタリー賞」の授賞式とトークセッションを開催した。クリエイティビティー&クラフツマンシップ部門は「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」、イタリアン・ヘリテージ部門は「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」、職人の知恵部門は「フェラガモ(FERRAGAMO)」が受賞。さらに、ファッションのデジタル化部門には「ユークス(YOOX)」の創業者でもあり、現在は英国のチャールズ国王が立ち上げた「ファッションタスクフォース(FASHION TASKFORCE)」の会長を務めるフェデリコ・マルケッティ(Federico Marchetti)、そして、メード・イン・イタリーの若手女性イノベーター部門にはイタリア製のオーガニックコットン繊維を手掛けるソーファイン(SOFINE)のアリアイ・ヴェントゥーリ・クアットリーニ(Aliai Venturi Quattrini)=マネジング・ディレクターが選ばれた。

ステージに登壇したバルトロメオ・ロンゴーネ(Bartolomeo Rongone)=ボッテガ・ヴェネタ最高経営責任者(CEO)は、同ブランドのモノづくりに欠かせない職人たちにフォーカスした短編映像「クラフト・イン・モーション」を流し、「まずサステナビリティなしに卓越性を実現することはできない。サステナビリティは、環境だけでなく、文化的な伝統や人においても言えることだ」とコメント。そして「『ボッテガ・ヴェネタ』は、クオリティーに対する厳格なアプローチで、丈夫かつ世代を超えて受け継げるような製品を作っている。また、常にクラフツマンシップの伝統を守ることにこだわり、責任を伴った成長にフォーカスしてきた。職人の手仕事はブランドの本質であり、従業員に適切な賃金を支払うことやベストな労働環境を保証することに取り組んでいる。企業は、自分たちが拠点とする地域そして国全体を守るために、コミュニティーに価値を還元し、良い環境を生み出していくことが必要だ」と続けた。

現在ミラノで大規模な展覧会も開催している「ドルチェ&ガッバーナ」のフェデーレ・ウザイ(Fedele Usai)=ジェネラル・ディレクターは、「展覧会でもイタリアのさまざまな地域のクラフツマンシップへの愛を感じられるだろう」とし、「イタリアには、国内にモノづくりの現場をたくさん有するという豊かさがある。(変化のためには、)自社の社員だけでなく、そのモノづくりに関わる全てのサプライチェーンを教育していくことが重要だ」と主張。「新たな世代はサプライチェーンの管理や説明責任を重視している。私たちが若かった頃と今の若者では何を信じるかという点で違う考えや視点があり、新世代を未来の消費者として捉えるだけでなく、その声に耳を傾けることも大切だと思う」と話した。

そして、ジェームス・フェラガモ(James Ferragamo)=フェラガモ グローバル・チーフ・トランスフォーメーション&サステナビリティ・オフィサーは、「ファッションブランドには今、継続的な成長と同時にサステナブルなビジネスモデルへの移行という目標に向かっていくことが求められる。このジレンマに対する解決策をサプライチェーン全体で考えていかなければならない。祖父のサルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)は戦時中、レザーやメタル、ラバーが使えない中、コルクやセロファンなどで靴を作り、クリエイティブであることを諦めずに成長を続けてきた。『フェラガモ』には、今でもそういった革新のDNAがある。私たちが目指しているのは、革新的かつサステナブルであることだ」と述べた。

主催者が語るイベントを続ける大切さ

ヴァレリア・マンガーニ(Valeria Mangani)SFISプレジデントは、PSE立ち上げのきっかけについて「イタリアの現状に危機感を覚え、ファッション業界のサステナビリティに対する認識を高める必要性を感じた。EUは2050年までに気候中立達成を目指しているが、EPRなどのさまざまな政策を打ち出すことよりも、(イタリアでは)まず生産者や消費者に自分たちが作ったり、買ったりするものについて考えてもらうことが重要だった」と振り返る。そして、「イタリアには世界的なビッグブランドもあるが、中小企業が多い。そのため、サステナビリティ実現のためのノウハウや資金、労力をもっていない企業も多く、適切な説明や支援が必要だ」と説明する。

現在抱える最も大きな課題について尋ねると、「二つあるが、一つはファッションにおけるサステナビリティ実現に向けた行政からの金銭的支援。そのため、経済発展省が設立した会合『テーブル・フォー・ファッション』の一員でもあるSFISは、ポリシーメーカーへのロビー活動を積極的に行なっている。もう一つは、人々のマインドセットを変えること。一朝一夕にはいかないが、特に中小企業における変化が急務だ」と語った。

現地で感じた意義と課題

イタリアの大手ファッション企業ではよりサステナブルなビジネスモデルへの変化や取り組みが進み、ミラノ・ファッション・ウイークを主催するイタリアファッション協会や「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」や「リネアペッレ(LINEA PELLE)」といった素材見本市でもサステナビリティへのフォーカスが見られる。しかし、国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が世界各国のSDGs達成度を評価した「サステナブル・デベロップメント・リポート」の23年版によると、イタリアは24位(ちなみに日本は21位)。北欧諸国やドイツ、フランスなどサステナビリティ先進国の多いヨーロッパでは遅れをとっているのが現状だ。そんな中、ファッション業界にとって重要な生産国、そして輸出国の一つでもあるイタリアでサステナビリティに対する意識を高めていくために、このようなイベントを継続して行う意義は大きい。

一方、実際に訪れてみて、イベントとしての課題が見えたのも事実だ。一つは、ゲストスピーカーの数は充実しているものの、各セッションや登壇者に与えられた時間が短かったこと。活発な意見交換や具体的なソリューション提案というよりも、それぞれの取り組みの紹介や意見表明というレベルにとどまり、結果的に深く掘り下げられていないことも多々ある印象を受けた。また、初日夜のファッションショーにはたくさんの来場者が見られたものの、日中はイベントの関係者やメディア以外の来場者はさほど多くなかった。ファッション業界やモノづくりに携わる人を対象にするにしても、一般消費者を対象にするにしても、「人々のマインドセットを変える」にはまずより多くの人を呼び込み、関心を持ってもらったり、考えるきっかけを与えたりすることが重要。専門用語や新たな技術が多く難しいと捉えられがちなサステナビリティのイベントにとって、当事者として身近に感じられるようなテーマや登壇者の選定、そしてより多くのワークショップのような参加型企画も大切だと感じた。ブラッシュアップの余地は大きく、今後の発展に期待したい。

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