「MSGM」が6月15日、ミラノ・メンズ・ファッション・ウイーク(以下、ミラノ・メンズ)でブランド設立15周年を記念した男女合同ショーを開いた。会場は、リナーテ空港にほど近い倉庫跡のようなインダストリアルな空間。中に入ると、ランウエイの片側にだけ並べられた客席の向かい側には透明なアクリルパネルを立てられていて、白い作業着の男たちがそこにモップのようなブラシで白いペンキを塗っている。そして、ショーが始まる頃には、パネルは真っ白なキャンバスに。そこにブラシを叩きつけるようして色とりどりのペンキを載せ、ショーが進むに連れアブストラクトアートのような作品が完成していく。その演出は、現代アート好きとしても知られるマッシモ・ジョルジェッティ(Massimo Giorgetti)らしいアプローチと言えるだろう。
海につながる要素満載の都会的スタイル
今回披露した2025年春夏メンズ・コレクションとウィメンズの2025年リゾート・コレクションのタイトルは「海と私(The sea and I)」。エミリア・ロマーニャ州にある海辺の街リミニで生まれ育ち、今はリグーリア州ゾアーリの海沿いに隠れ家的な別荘“ラ・ヴェデッタ”も構えるジョルジェッティは、「着想源はシンプルで、自分の生活や幼少期」と説明。「太陽やストライプ、子供の頃にビーチで見た色使い、夫と一緒に購入した“ラ・ヴェデッタ”、若い頃に聞いていたMGMTの『Kids』(フィナーレに使用)など、このコレクションはとてもパーソナルだ。“ラ・ヴェデッタ”では海を眺めたり、将来について考えたり、自分自身や今の社会と向き合ったり。そこから生まれたコレクションはある意味、より良い未来、そしてビーチや海で過ごす素敵な週末や1日へのエスケープ(逃避)を表現したもの。ポジティブなエネルギーや心をハッピーにする服こそ、『MSGM』の真髄だ」と続ける。
そんな今季は、海につながる要素が満載だ。例えば、セーターにはカニやイルカのモチーフを編み込み、開襟シャツはヨットのグラフィックをのせた生地とストライプ地をミックス。パラソルやデッキチェアを想起させるストライプはさまざまな配色でウエアやバッグを彩り、マリンボーダーは歪みを加えて描く。さらに、“ラ・ヴェデッタ”の写真の全面プリントや、その周りに咲く花々からヒントを得たデイジーのグラフィック、英国人アーティストのルーク・エドワード・ホール(Luke Edward Hall)による船乗りのイラスト、マクラメ編みで表現した太陽なども織り交ぜ、テーラリングからカジュアルまで、ほどよくリラックス感が漂う都会的なスタイルに仕上げている。
カギは「若さの中に見出す“気楽さ”」
「MSGM」は通常、ミラノ・メンズのショーではメンズの新作のみを発表しているが、今回ウィメンズのプレ・コレクションを一緒に見せたのにはいくつかの理由があった。一つは、09年のデビュープレゼンでメンズとウィメンズを一緒に見せたことを振り返り、同じようなエネルギーをショーにもたらしたかったということ。そして、現在のビジネスは約5000万ユーロ(約84億円)規模で、その70〜80%を占めるプレ・コレクションに光を当てたいという思いもあったという。それだけでなく、「以前はメンズ独自のストーリーやインスピレーションがあったが、今は質感やプリント、文脈などウィメンズと共通する部分も増えた。それなら、一緒に見せたらいいんじゃないかと感じた」と明かす。
ブランドを立ち上げてから15年、ジョルジェッティ自身やチームも顧客も年を重ね、クリエイションも変化。近年はより落ち着いた提案も増えた印象だ。だが、彼が常に追求しているのは「若さの美学」であり、「若さの中に見出す“気楽さ”が、自分にとって重要なカギだ」と話す。その点で課題と考えるのは、人件費や原材料費などの生産コストが上がる中、アイテムの大半をメード・イン・イタリーにこだわる「MSGM」で、いかに手の届きやすい価格帯を維持していくかということ。「私にとって“気楽さ”は、クリエイティブなプロセスにだけ表れるものではなく、買い手が軽やかな心持ちでいられるかということでもある。もはや挑戦すべきは、売上目標ではなく、価格帯を維持し続けることだ」と語った。
また、今後はトップ市場の一つであるアジアでの存在感と認知度を高めるため、特に韓国、中国、ベトナムへの注力を計画。商品面では、アンダーウエアへの再挑戦やアイウエアのライセンス契約、スキンケアラインの開発なども視野に入れるようだ。