ファッション

近年最高の「ドルチェ&ガッバーナ」と世界初の「フェンディ」マンに心潤う 2025年春夏メンズコレ取材24時Vol.2

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2025年春夏コレクションサーキットが開幕しました。イタリア・フィレンツェからミラノ、パリまで続くメンズからスタートです。「WWDJAPAN」は現地で連日ほぼ丸一日取材をし、コレクションの情報はもちろん、現場のリアルな空気感をお伝えします。担当は、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリ、そして藪野淳・欧州通信員の“浪速トリオ”。愛をもって、さまざまなブランドをレビューします。(この記事は無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)

9:30 「ブリオーニ」

ミラノ・メンズの数ある楽しみの一つ「ブリオーニ(BRIONI)」のプレゼンテーションの時間がやってまいりました。会場のパラッツォ ボロメオ ダッダに到着すると、楽しみすぎてすでに表情がゆるんでいます。おそらく、来場メディアの中でトップクラスで楽しみにしている自信があり、しかも今シーズンはその高すぎる期待を超えてくるプレゼンテーションでした。

「ブリオーニ」の25年春夏メンズ・コレクションは、“エレガンスを生きる”がテーマです。“エレガンス”はムードだけでなく、軽やかな素材だったり、仕立ての丁寧さや、ときにダイナミックなデザインだったりと、解釈はさまざま。特に春夏らしいリネン使いが印象的で、リネンとウールを使ったタキシードや、表地がリネンで裏地がコットンのダブルフェイス仕立てなど、ほどよく重厚感を残しながら、触れてみると驚くほど軽いという仕掛けがコレクションの随所に見られました。この軽さと重さの巧みなバランスを実現させたのは、同ブランドのクラフツマンシップでしょう。外向きは「いやいや、“ファッション”には疎くて」と謙遜しながら、家でコーディネートを1時間ぐらい考えてるような、計算され尽くしたノンシャランなスタイルがスマートです。25年に迎える、80周年を祝したコレクションも登場しました。アイテムは1952年にイタリア・フィレンツェのピッティ宮殿のサラ・ビアンカで開催した初めてショーをオマージュし、白を基調にしています。中でも、クロコダイルのジャケットは存在感がすごかった。

勝手に高まる期待を超えてきたのは、コレクションだけではありません。「ブリオーニ」といえばマネキンを使った演出も見ものです。今シーズンはボディーが回転する仕掛けで、「生地の特徴は触っていただくと分かるのですが」と説明を受けて触ろうとすると、そのマネキンはすでに回転して姿を消し、「あっ」とタイミングを逃して次のマネキンの説明を受けていると、またゆっくり戻ってくるという回転寿司方式。回転寿司なんて発想しているのは日本メディア、というか浪速トリオぐらいでしょう。すみません。今シーズンもマネキン芸を堪能して帰ろうとしていたら、PR担当の「まだありますよ」という雰囲気をわれわれは見逃しませんでした。そう、最大のサプライズは終盤に待っていたのです。なんと、木の上に登ったマネキンや、芝に寝そべって愛を語り合うマネキンカップルなどが登場し、クライマックスのごとく畳み掛けます。ここまで来ると、どういうシチュエーションでマネキンの配置を考えたのかと思考を巡らせ、コレクションの説明が3分の2ほどしか入ってきません。われに返って残り3分の1を質問して回収し、今シーズンも「ブリオーニ」を120%堪能しました。

11:00 「MSGM」

ブランド設立15周年を迎えた「MSGM」は、25年春夏シーズンのメンズ・コレクションと25年ウィメンズ・リゾート・コレクションを披露しました。周年ということで男女合同の特別なショーですが、コレクションにアニバサリー感は出さず、今季も相変わらずプレイフルで子ども心満載の内容です。昨シーズンの着想源であるミラノの街から飛び出して、今季は海、特に彼の別荘があるイタリア北西部のリグーリア州の漁村で生まれた物語をコレクションに落とし込みました。青い海と自然豊かな緑、カラフルな家が建ち並ぶ街の景色は、カラーパレットだけでなく、ショーの演出にもリンクさせました。その詳細は、別リポートでご覧ください。

12:30 「ドルチェ&ガッバーナ」

昨日観覧した「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」の展覧会の内容を思い返しながら、ショー会場へと向かいました。イタリアの文化・歴史と深く結びついた、職人技術を織り込んだ作品群に感銘を受け、まだその余韻が残っています。何世代も超えて受け継いだ技術をもって、手作業で作られる工芸品へのオマージュは、今季のコレクションでも重要な役割を果たしました。

“ファット ア マーノ(イタリア語でハンドメイドの意)”の芸術性を讃え、今季は“編み”の職人技術が主役です。ブルゾンにブレザー、ボックス型のシャツといった定番アイテムを、透かし模様のラフィアで編み、柔らかいレザーのかぎ針編みでトリミングしています。オープンカラーシャツやポロシャツといった多岐に渡るシャツは、肌が透けるローゲージのサマーニットでどこまでも軽やか。ショーツやハイウエストのゆったりとしたトラウザーで合わせ、スーツも流れるように軽く柔らかな生地を採用し、イタリアン伊達男のリゾート先でのノンシャランな装いを体現します。職人技を生かした、珊瑚モチーフのビーズの手刺しゅうに、パラソルを彷彿とさせる非対称のストライプ、夏らしいマリンストライプからは、リビエラの穏やかな海風さえ感じられます。終盤のタキシードも厳格さを解きほぐしてラフで気楽なムード。ここ数シーズンの、アーカイブをたどるコレクションを経て、ラテン気質なイタリアを代表するブランドである「ドルチェ&ガッバーナ」の真骨頂に触れたような気分です。

クラシックでありながらも気負わず、飾り気がなく、ノンシャランな雰囲気が、まさにイタリア人の精神性であるドルチェ・ファール・ニエンテ(何もしないことの喜び)を表していました。その場にただいるだけで満ち足りる、優雅な時間を過ごすことを意味する言葉です。要するに、「あまり深くは考えず、気楽にいこうぜ〜」的なニュアンス。勤勉な日本人こそ学びたい精神性かもしれません。

13:30 「チャーチ」

「チャーチ(CHURCH’S)」は、英国式の洋館でプレゼンテーションを開催しました。新作は、少しあせたようなニュアンスカラーが美しいスエードのローファー。着想源の海軍にちなみ、白いソールの裏にはコンパスのマークがあしらわれています。そのほか、“コンソル”や“フィッシャーマン”といったアイコンモデルも、スエードやブリーチ加工で風合いを出したレザーなどでアップデート。昨年150周年を記念して“シャンガイ”のアーカイブが復刻されましたが、今季はリネンとレザーのコンビにユーズド加工を施したモデルが登場しました。ちょっとノスタルジックでリラックスしたある雰囲気は、今の気分にピッタリです。

会場では、かつて「プラダ(PRADA)」の広告キャンペーンも手掛けていたクリエイティブ・ディレクターのデイヴィッド・ジェイムス(David James)による、「チャーチ」のアイコンにフォーカスした新キャンペーンもひと足早く披露。英国紳士的なモデルはいたって真面目な顔つきなのに、違和感のあるシュールな設定で笑みを誘います。

14:30 「フェンディ」

トレンド巧者の「フェンディ(FENDI)」が今シーズンの発表の場に選んだのは、7000平方メートルという広々とした「スーパースタジオ マキシ」という、いかにもなネーミングのオープンスタジオです。ニコ・ヴァセラーリ(Nico Vascellari)がセットデザインを手掛けており、場内に設置した巨大なミラーの柱6本がモデルの動きに合わせて動き出すというサプライズ。ショーに躍動感を与えていました。

2025年春夏メンズ・コレクションは、創業100周年を来年に控える中、改めて「フェンディ」のスタイルにフォーカスします。過去に発表したメンズシルエットに現代のエッセンスを加え、レトロな雰囲気を備えながら新鮮なスタイルを提案します。カラーはシャーベットやミスト、バターミルク、そしてキーカラーのフォレストグリーンといったソフトな色調。サルトリアの美しい仕立てを軸にしながら、ベースボールキャップや太ピッチのボーダー、レジメンタルストライプのネクタイなどで、プレッピー風の遊び心を加えました。やや要素を入れすぎたかなと感じたスタイルもありつつ、全体は柔らかいカラーパレットにそろえることでうまくまとまめていた印象です。

コレクションには、1925年にローマの馬具職人から伝授された技巧“セレリア”も随所に散りばめます。スーツやジーンズに施したピンストライプは“セレリア”を現代風に解釈したもので、無機質であるはずの柄に有機的なニュアンスを加えます。軽量スエードのポロシャツやニットは、ボタンを開けると首元から左脇にかけて大きく開き、そのアシンメトリーなバランスがスタイルを柔らかい印象にします。「フェンディ」がここ最近強めているジェンダーフリーのディテールを投入し、ユニホーム起点の硬いスタイルを解きほぐしました。“セレリア”のクラフト感は、新作バッグ“ピーカブー アイシーユー ソフト(Peekaboo ISeeU Soft)”やクロスボディー“バゲット ダブル(Baguette Double)”にも採用しています。

そして、アイコンバッグ“バゲット”の未発表モデルを会場で肌身離さず手にしていたのが、ジャパンメンズブランドアンバサダーの目黒蓮さんです。世界初披露の“バゲット”の見え方を常に気にしていたのは、「バッグをいただたときにリンゴのチャームが付いていて、チャームは『あなたは私たちの宝物という意味なんだよ』と聞いて、うれしかったんです」という背景もあるのかもしれません。前シーズンはゲストとして謙虚に、そして今シーズンは堂々とブランドの顔へと成長していた一方、世界各国のゲストや外で待つファンにはおじぎであいさつする謙虚さもあり、その立ち居振る舞いから人柄の良さがにじんでいました。

16:00 「ジョーダンルカ」

パンデミックが明けた2022年にロンドンからミラノに拠点を移し、この地で発表を続ける「ジョーダンルカ(JORDANLUCA)」。今季は装飾のない真っ白な会場に、迷路のように座席を配置して、バレエにインスパイアされたコレクションを披露しました。タイトルをつけるとしたら、“ハイパーフェミニンとハイパーマスキュリンの出合い”。ボックス型のテーラリングと、シグネチャーである二重襟のシャツが中心となり、ホルターネックのトップスとバイカーショーツでボディーコンシャスに、スリムな男性モデルのシルエットを強調します。メタルボタンとキラキラとしたラメを織り交ぜた日本製のツイードを使ったジャケットも、柔らかな生地の特性を無視して、ボックス型に仕上げてマスキュリティとフェミニニティーを交差させます。プラスチックでコーティングした光沢のある質感や、3Dプリンターで成形したバラの装飾で、ブランドの真髄であるパンキッシュにロマンティシズムなタッチを加えました。

ロンドンらしい反骨精神と、イタリアらしい甘美さは、イギリス人とイタリア人の両親を持つデザイナーのアイデンティティーが投影された結果です。メンズウエアはどんどんリアルに着やすくなっていますが、エッジも効いていて好バランス。ショーに登場した新作バッグ”ミニ・ゴッサム(Mini Gotham)”は、シーナウバイナウ形式で公式ECで発売しました。ショーの約6時間後にECを見ると、4カラーのうち2カラーがすでに完売!会場の座席もギュウギュウに埋まっていて、コミュニティを着実に構築し続けているようです。

16:15 「デヴィッド コーマ」

設立から15年を迎えるロンドンのウィメンズウエアブランド「デヴィッド コーマ(DAVID KOMA)」が初のメンズ・コレクションをミラノで披露しました。今回は、芸術家やダンサー、スタイリストなど自分の周りにいるアーティスティックな友人たちから着想。「メンズでは自分の満足いくものを作るにはリアリティーとファンタジーのバランスが重要だった」とデヴィッドが説明するように、カジュアルからフォーマルまでメンズワードローブの定番的アイテムにマラボーフェザーやクリスタル、細かなラインストーン、シルバーのリベットなどでウィメンズにも見られるようなグラマラスな装飾を加えているのが特徴です。

コンテンポラリーバレエの「サラバンド(Sarabande)」から着想を得て、トレーニングマシンのセットで撮影されたコレクションは、同ブランドドらしい官能性と力強さにスポーティーなムードがミックスした、若々しさを感じさせる仕上がり。このスタイルが日本で広がるかは正直未知数ですが、ウィメンズはBLACKPINKがライブで着用しており、メンズもステージ衣装やレッドカーペットなどで目にすることもあるかもしれません。

17:30 「ニール バレット」

ニール バレット(NEIL BARRETT)」は引き続き、クラシカルなスピリットを現代化させる試みです。今季は特に、テーラリングのディテールを日常着へと浸透させました。スーツの装飾であるポケットチーフが、Tシャツからセーター、アウターに用いられ、デイリーウエアにわずかなフォーマルさを加えます。見過ごされがちな機能的ディテールに目を向け、装飾へと転換させるアイデアにより、肘丈の袖を固定するためのガーターをシャツだけでなくアウターにも取り入れ、足首にはベルクロの袖口を備えたボトムスも多数。ブルゾンやショーツといった男性の定番アイテムには、クチュールとウィメンズウエアで使用されることの多い、光沢が特徴のタフタでテクスチャーに変化を与えました。ミラノでショーを行うのは3シーズン目ですが、ミニマルな世界観ながら毎シーズン新鮮さを感じられます。少し欲を言うならば、シルエットやスタイリングでの変化、もしくはアクセサリーを追加するなど、ランウエイで映えるルックも見てみたいです。

19:00 「エンポリオ アルマーニ」

本日ラストは「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」の荘厳なショーです。ステージを囲む大きなスクリーンには馬の映像を投影し、まるで草原にでもいるかのような臨場感がありました。2025年春夏シーズンは、“自然の中で解き放たれる心”をテーマに掲げ、壮大な自然の要素をきれいで軽快なドレススタイルに融合します。カラーパレットは、小麦や砂をイメージしたさまざまなベージュ、干し草のグリーン、ラベンダー畑のパープルなどで、それらを日光によって色あせたようなトーンでそろえ、自然との調和を強調しました。

シャツはたっぷりとボリュームのあるタイプだったり、サイドに大きくスリットを入れたりと、歩くことでニュアンスが加わる軽やかなデザイン。ドロップショルダーのジャケットや、ウエストがゴム仕様のブルゾンなどのアウターに合わせるのは、クロップド丈や七分丈スラックスや、ワイドフィットやテーパードなど、バリエーション豊かなパンツです。個人的には、最近の「エンポリオ アルマーニ」はパンツが特にかっこいいと思っています。

フィナーレには、収穫作業風の屈強な男性モデルと、鮮やかな色柄の服を身につけた女性モデルのペアが続々と登場しました。昔も今もエレガンスをストイックに突き詰めながら、身に着ける人々には袖を通してリラックスしてほしい――ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)のそんな思いが、ランウエイを歩くモデルたちの笑顔からも伝わってきました。

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7月1日号は、毎年恒例の「繊維商社特集」です。13年続く長寿企画で、今回のテーマは「女性発 働き方改革」です。かつては「24時間戦えますか?」に代表されるモーレツ会社員の象徴で、総合職・営業職の大半は男性でした。それがこの数年、総合職の新卒採用で半分以上を女性が占めることも珍しくなくなり、かつての「男社会」は変わりつつあります。一方で、出張の多さや膨大な業務量などの激務は以前と変わらず、子育てと仕…

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