ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回はアパレルチェーンの利益に注目する。売り上げさえ伸ばせば利益もついてくといった単純なものではなく、アパレル販売には複雑な要素が絡み合う。具体的かつ詳細に説明しよう。
アパレルチェーンの利益を左右するのは「値入れ」−「値下げ」=「粗利益」の構図と思われがちだが、各社の実態を検証してみると必ずしもそうではないようだ。「値入れ」も「粗利益」も厚くても利益率が薄い事業者もあれば、「値入れ」が薄かったり「値下げ」が大きくても利益率の高い事業者もある。「値入れ」の確保も「値下げ」の抑制も重要だが、結局は「粗利益」と「販管費」のバランスが決め手になっており、認識を改める必要がある。
「値入れ」−「値下げ」=「粗利益」の構図
図表は「値入れ」−「値下げ」=「粗利益」の構図を開示データ(値下げ率を開示しているのはしまむらだけ)から計算、あるいは推計できる主要アパレルチェーンの実態を比較したものだ。決算期中に売り上げた商品の「仕入れ売価」総額に対する「実現売り上げ」総額の比率が「歩留まり率」とか「換金率」とか言われるもので、その差が「値下げ率」になる。
「ファッションセンターしまむら(以下、「しまむら」)」の値下げ率は6.5%、「アベイル」の値下げ率は13.2%と開示されているが、「値入れ率」と実現「粗利益率」の単純落差であり、売り上げた商品の「仕入れ売価」総額から「実現売り上げ」総額の目減り率としての「値下げ率」は計算する必要がある。
「しまむら」の場合、開示されている「粗利益率」33.7%に「値下げ率」6.5%を加えれば仕入れ段階の「値入れ率」が40.2%と知れる。実現「売上原価」(売上比66.3%)=「調達原価」(仕入れ売価比59.8%)だから、「歩留まり率」は90.2%、「値下げ率」は9.8%と割り出せる。同様に「アベイル」の場合も、開示されている「粗利益率」38.8%に「値下げ率」13.2%を加えれば仕入れ段階の「値入れ率」が52.0%と知れる。実現「売上原価」(売上比61.2%)=「調達原価」(仕入れ売価比48.0%)だから、「歩留まり率」は78.4%、「値下げ率」は21.6%と割り出せる。
平均的なカジュアルSPAの場合は「調達原価」率が「仕入れ売価」比34%程度、実現「粗利益」率は「実現売り上げ」比55%程度だから、「売上原価」(売上比45.0%)=「調達原価」(仕入れ売価比34.0%)から「歩留まり率」は75.6%、値下げ率は24.4%と計算できる。カジュアルSPAの圧倒的覇者「国内ユニクロ」はライセンス収入を除いた正味「粗利益」率を47.9%と開示しているから、「調達原価」率を「仕入れ売価」比38%と仮定すれば、「売上原価」(売上比52.1%)=「調達原価」(仕入れ売価比38.0%)から「歩留まり率」は72.9%、「値下げ率」は27.1%と計算できる。
調達ロットの限られる平均的なカジュアルSPAより国内ユニクロの「調達原価」率が高いのは、圧倒的大ロット計画生産による低コスト調達と他社に差をつける高品質のバランス点であり、「値下げ率」が高いのは大量計画生産品を計画通りに売り減らしていくフレキシブルな売価変更(マークダウンとは限らず数日だけのキックオフ※1.も多用)によるものだ。「値下げ率」が27.1%と高く「粗利益」率が47.9%にとどまっても、販管費率が34.7%と平均的なカジュアルSPAより14.3ポイントも低いゆえ、営業利益率は13.2%と格段に高い。
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