「プラダ(PRADA)」は6月16日、ミラノで2025年春夏メンズ・コレクションを発表した。今季のテーマは“クローサー(CLOSER)”。その言葉通り、近づくことでハッキリ見えてくるデザインの仕掛けを多用しながら、新たなプロポーションバランスのスタイルを見せた。
簡素な小屋からモデルが登場
アート施設プラダ財団(Fondazione Prada)の中にある自社会場は、毎シーズン全く異なるコンセプトで作られるセットが楽しみの一つだ。今季は中に入ると薄暗い空間が広がり、奥の方の高い位置には簡素な小屋。会場にテクノ音楽が流れる中、その扉や窓の隙間から眩い光が漏れている。それは、まるで小屋の中でパーティーが開かれているかのようだ。ショーが始まると照明が点き、白い小屋の中からモデルが現れ、スロープを下って曲がりくねったランウエイを歩いていく。
上はコンパクト、下はルーズなシルエットが主軸に
ファーストルックは、着丈が短くタイトシルエットで仕上げた紺のVネックセーターに、裾をたるませて履くゆったりしたスラックス。その後もカーディガンや無地から花柄まで多彩なシャツ、ステンカラーコート、ミリタリー調のアウター、レザー製のフーディーなどが登場するが、上は着丈や袖が短くコンパクト、下はルーズといったバランスが主軸になっている。両親や祖父母からの借り物を組み合わせたかのようにも見えてくる。
デザインでは、トロンプルイユ(だまし絵)の技法を多用しているのが特徴だ。例えば、パンツに見られた厚手のツイードやセカンドスキントップスのゆがんだボーダーが実はプリントだったり、ベルトも忠実に再現したパーツをパンツに圧着して表現していたり。ポロニットの襟もトロンプルイユで、ニットのレイヤードに見えるものは全て1枚のセーターだ。さらにフランス人画家ベルナール・ビュフェ(Bernard Buffet)の絵画の作品を大胆に載せたグラフィックTシャツは一見平面のプリントだが、近づくと上からペイントを重ねたように立体的になっていることが分かる。
そして、シャツやミリタリースタイルのアウターの襟や袖口、裾にはワイヤーを入れ、クシャクシャに。パンツやジャケット、ニットには完璧なものを崩すためにミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が好むシワ加工を施し、レザーにはパティーナ加工を施すことでビンテージライクな風合いを加えている。そこには、「そのものに命が宿っているような、生きている服を作りたかった」というミウッチャとラフ・シモンズ(Raf Simons)の思いが込められている。
そんな今季のクリエイションに背景にあるのは、自由な対話から生まれた直感的な思いつきだという。ミウッチャは「若々しい楽観主義を表現するようなことに取り組みたかった」とコメント。一方、ラフも「年をとると、考えすぎて自分を制限してしまうことがある。「若者の心は、なんて新鮮なんだろう。若い頃は、ただ突っ走る。私たちは、その精神を気に入っている」と説明する。2人が表現したのは、自由な精神、若々しい楽観主義、そしてエネルギー。それは、緑や黄色、紫、ピンク、シアンといった鮮やかな差し色使い、スーパーヒーローをイメージしたという大ぶりなファスナーを配したジャンプスーツなどからも感じ取れる。
ユニークなアレンジを効かせたアクセサリー
バッグは、ウエアに通じるポップなカラーで彩ったスエードや風合いのあるスムースレザーの新作が充実。横長のスクエアボストンやトート、ウエア同様のコントラストカラーのファスナーをアクセントにしたスリングバッグを提案する。また、先シーズンのランウエイに登場した“プラダ バックル”バッグは、ベルト部分にスタッズをあしらいアップデート。バッグのベルトやパンツにトロンプルイユで表現されたベルトと同じようなデザインは、実際のベルトとしても販売される。
シューズは、カラフルな配色で仕上げたジャーマントレーナーやクラシックなモンクストラップシューズのアレンジに注目だ。どちらも先シーズン(24-25年秋冬)に見られたような極薄ソールを使い、バレエシューズのようにかかとに伸縮性があるデザインとスリッパスタイルを用意。それだけでなく、ジャーマントレーナーは、人気シューズ“モノリス”のチャンキーソールと合わせたモデルや、つま先をメタルパーツで覆ったものもラインアップする。
サングラスは、スポーティーかつフューチャリスティックな一体型レンズのデザインが印象的。鏡面仕上げのレンズには、身の回りの風景を反射するかのようにビーチやライブ会場の写真が部分的にプリントされたものもあって面白い。