「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は、パリ時間の6月22日20時半(日本時間23日3時半)から2025年春夏メンズのショーを開き、創業デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)が手掛ける最後のコレクションを発表する。アントワープでその準備を進める彼に話を聞いた。
「緊張はこれまで通り、いやそれ以上にかもしれない。もちろんプレッシャーがあるからね。皆の期待値は高いだろう」。そう語るドリスは今、激しい感情の浮き沈みを感じている。そして、インタビュー前日にコレクションの最終チェックを終えた彼は「全ての服がそこに吊り下げられているけれど、ある意味、難しくもあった。いつもなら、色彩の進化や6つのラックに吊るされた見せたいもの全てと向き合う瞬間を楽しんでいる。けれど、これが最後だと気付くと、その瞬間、『あまりいい決断ではなかったかもしれない』と思った」と明かす。
今年3月、38年間ブランドを手掛け続けてきたドリスが退任するという発表は、多くの業界人やファンに衝撃と動揺をもたらした。現在66歳のデザイナー自身も、ショー後に自分がどんな気持ちになるか分からないと認め、「『あぁ、これが私にできる最高の決断だった』と思う日もあれば、『何て決断をしてしまったのだろう』と感じる日もある」 と話す。「もちろん、たくさんのことを恋しく思うことになるだろう。ただ一方で、私は『ドリス ヴァン ノッテン』とつながり続けていく。完全にブランドから離れてしまうわけではなく、アドバイザーのような役割を担うことになる。メイクアップとビューティで忙しくなりそうだし、店舗デザインにもまだ関わるつもりだ……けれど、コレクションは、もう私の仕事ではなくなる」。
最後のコレクションについて聞かれたドリスは多くを語らなかったが、懐古的なものにはならないとし、次のように答えた。「考えたのは、振り返らないということだった。もちろん、私のことを知っている人なら、再び登場する特定のテーマや小さなディテール、要素に気づくだろう。でも、このコレクションは数歩前に進んだものだ。ノスタルジックにはなりたくなかったので、未来を見据えて、素材の実験的な試みなどを多く取り入れている」。そんなコレクションを披露する今季最注目のショーには、多くの同業デザイナーも駆けつけると見られる。
ドリスが大切にしてきたファッションショー
ドリスは、イメージを作り上げ、ストーリーを表現する場として、ファッションショーをとても大切にしているデザイナーだ。広告を打たない姿勢を貫いてきた(実は80年代に一度雑誌に広告を出したことがあり後悔している)彼は、新型コロナウイルスのパンデミックで断念せざるを得なかった2年間を除き、メンズは1992年春夏から、ウィメンズは94年春夏からずっとショーを続けてきた。
そして、彼は「周年」よりもショーを継続してきた「通算回数」を重視している。50回目となった05年春夏は、シャンデリアが吊るされた空間で140メートルの長い食卓をランウエイに見立てた印象的なショーを開催。100回目となった17-18年秋冬は、過去に同ブランドのショーを歩いたモデルと現役モデルをミックスし、過去のコレクションで用いたお気に入りのパターンの上にグラフィカルなプリントを重ねたコレクションを見せた。また05年には全50回のショーを、17年には全100回のショーをまとめた本も出版している。
今回、ショー数日前に届いたインビテーションは、メタリックシルバーの背景に白字で「LOVE」と書かれたものだった。服をこよなく愛し、多くの人々に愛されてきたドリスは、最後にどんなショーを見せてくれるのか。期待が高まる。