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かわいいだけじゃない、芯の強さを演出? 中国で「ミュウミュウ」スタイル人気上昇中

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世界的な「ミュウミュウ(MIU MIU)」人気が止まらない。プラダ グループの報告によれば、同ブランドの2023年12月期決算は直営店の売上高が前期比50.3%増の6億4893万ユーロ(約1090億円)という好調ぶりだった。中でも中国では、若年層女性の消費者心理に刺さるクリエイションやセレブリティーマーケティングが功を奏し、ブランドの注目度が高まっている。「ミュウミュウ」と似たムードを持つローカルブランドも台頭し、トレンドの波はまだまだ衰えを知らないようだ。

中国で「ミュウミュウ」は、“リッチ ベイビー ガール(お金持ちのお嬢さん)”風スタイルというブランドイメージが定着している。不動産危機やハイテク分野の伸び悩みのため景気が悪化していることを背景に、富を誇示するインフルエンサーに対する世間の風当たりが強くなる中で、中国のネット上で同ブランドは“本物の富裕層の子女”らしさを嫌味なく演出すると認知されるようになった。かわいらしく上品でありつつしっかりした芯のある雰囲気を醸し出し、レトロでありながら同時に若々しさを感じさせるクリエイションは、中国国内のウィメンズ市場に浸透し、トレンドをけん引するまでになっている。

「ミュウミュウ」に追随する
中国発のブランド

その系譜を受け継ぐブランドとして代表的なのが、中国発のファッションブランド「シュシュ/トング(SHUSHU/TONG)」や「マーチェン(MARCHEN)」「ダブリューエムダブリューエム(WMWM)」だ。マイクロミニスカートやレディーライクなオールシースルーのウエアなど、「ミュウミュウ」をほうふつとさせるようなスタイルでありつつも、肌見せ度合いを抑えたり、レースや蝶ネクタイ、柔らかなカラーパレットを採用したりすることで、現地のマーケットシェアを獲得している。

中国の若手デザイナーを支援するプラットフォームであり、上海に6カ所の販売拠点を構える「レーベルフッド(LABELHOOD)」のジリアン・シン(Jillian Xin)=ヘッドバイヤーいわく、「“女性らしさ”のイメージは、中国と西洋諸国で大きく異なる。中国では、『肌見せ=セクシー』とはならず、むしろ挑発的と見られることもある」と話す。また、上記のような「ミュウミュウ」的要素を持つブランドの売り上げは、2024年春夏シーズンで前年同期比3倍という驚異的な伸長率を記録しているという。「シュシュ/トング」は現在、ドーバーストリートマーケットやオンラインストア「エッセンス」で取り扱われるまでに成長した。

中国のレトロスタイルは急速な進化を遂げている。シン=ヘッドバイヤーによれば、「ここ数シーズン、レトロスタイルから過度な甘さがなくなり、より多義性を帯びるようになった。着る人たちが『私は単にかわいいだけではなく、読書もするような人間です』と芯の強さをアピールしたがっている」。クリエイティブ・エージェンシー、アーキビズムの創設者であるブレイン・ラー(Brain La)は、「背景には、中国の女性が家父長制的かつ愛国的な社会に生きながらも、そこから抜け出したい思いがあるからではないか」と推測する。「ミュウミュウ」は“図書館司書ルック”や“ナード(オタク)ガールルック”として知られており、「女性の自我を穏やかに目覚めさせるもので、威圧的になりうる“知的エリート”的なスタイルとは異なる」。具体的には、「ダブリューエムダブリューエム」が提案するオーバーサイズのカーディガンがそういった“おしゃれな司書ルック”の典型だ。

中国では、1990年代にも同様のレトロスタイルトレンドが生まれたが、「ミュウミュウ」のように女性の自立や自分らしくあることを表現したものではなかった。当時を象徴するブランドとして、91年に設立された中国のファッションブランド「フェアリーフェア(FAIRYFAIR)」がある。「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCON)」とロリータカルチャーをミックスしたようなスタイルは、香港や台湾のテレビドラマが人気に火をつけたとラー アーキビズム(Archivism)創設者は、振り返る。

効果的なセレブリティーマーケティング

現在の「ミュウミュウ」人気は、ブランドのインフルエンサーマーケティングの影響も大きい。デザイナーであるミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のクリエイションを浸透させるため、アジアでは話題性のあるセレブリティーをアンバサダーとして起用してきた。K-popガールズグループ・Twiceの日本人メンバーであるモモや(G)I-dleのミニー・ニチャ・ヨンタララク(Minnie Nicha Yontararak)、IVEのチャン・ウォニョン(Jang Won Young)がその一例であり、「ミュウミュウ」が日本や中国、韓国、東南アジア市場で支持を得た要因と言える。

中国では特にIVEのウォニョンが絶大な人気を誇り、中国版インスタグラムと言われる「小紅書(RED)」では、彼女の名前は30億回以上言及されている。その数はBLACKPINKのメンバーであるリサ、ジス、ロゼよりも多く、唯一、ジェニーのみがウォニョンを超えている。ちなみに、ウォニョンがダンスする映像が大バズりしたことがきっかけとなり、IVEが中国版TikTokの抖音(ドウイン)で公式アカウントを開設したという逸話もある。

ほかに、ラッパーのレクシー・リウ(Lexie Liu)や俳優のチャオ・ジンマイ(Zhao Jinmai)といった新進気鋭のスターや、俳優のドン・ジエ(Dong Jie)やカラ・ワイ(Kara Wai)などのベテランをブランドの顔に任命。また、24-25年秋冬シーズンのショーでは、“ドクター・チン”として知られる70歳の医師チン・フイラン(Qin Huilan)をランウエイモデルに抜てきし、ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)や俳優のクリスティン・スコット・トーマス(Kristin Scott Thomas)と一緒にウオーキングさせた。

先鋭的なデザインから、インターネット上で思わぬ反響を呼ぶこともある。例えば、「小紅書」と抖音で計700万人以上のフォロワーを持つ中国の女性インフルエンサー、田田小阿姨が、「ミュウミュウ」が23-24年秋冬シーズンで発表したクリスタルで全面を覆ったアンダーウエアを引き合いに出し、その有用な使い道について問いかけるショート動画を投稿した際は、同様の疑問を抱いたフォロワーからコメントが相次いだ。米資産運用会社バーンスタイン(Bernstein)のルカ・ソルカ(Luca Solca)=アナリストは、「ミュウミュウ」が中国のSNSで急成長を遂げたことを挙げ、「『小紅書』やWeChatのようなユーザーがコンテンツを生成するプラットフォームと相性がいい」と指摘した。

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