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ロンドンのバンド、bar italia(バー・イタリア)が語る「創作の秘密」 “共有できないものがある”ことが重要

PROFILE: バー・イタリア(bar italia)

PROFILE: アート界隈でも活躍してきたイタリア人女性ニーナ・クリスタンテと、ダブル・ヴァーゴとしての活動でも知られるジェズミ・タリック・フェフミとサム・フェントンの3人組。奇才ディーン・ブラントのレーベル〈World Music〉から2枚のアルバムリリースを経て、2023年3月に〈Matador Records〉と電撃契約を発表。その後は怒涛のように1年に2枚のアルバム「Tracey Denim」を5月に、「The Twits」を11月にリリース。23年末には多くの主要年間アルバムチャートに選出されるなど大きな注目を集めている。24年5月には初の来日公演が実現した。

ロンドンを拠点に活動するニーナ・クリスタンテ(Vo)、ジェズミ・タリック・フェフミ(Vo/G)、サム・フェントン(Vo/G)の3人からなるバー・イタリア(bar italia)。ディーン・ブラントが主宰する〈World Music〉からデビューしたころのアブストラクトで実験的なスタイルとは変わり、昨年リリースした2枚のアルバム「Tracey Denim」と「The Twits」ではギター・ロック的なアプローチを大きく前進させたサウンドが鮮烈な印象を刻んだ。5月の来日時に見せた生身のバー・イタリアは、かつての実体感が希薄で匿名性を帯びていたイメージは見る影もなく、「バンド」としてのアイデンティティーを主張するようにラウドで陶酔感に満ちていて、白熱したものだった。

活況が続く英国のロック・シーン。その新たなアイコンとして注目を浴びるバー・イタリアだが、一方で地元ロンドンのアンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージック・シーンに“出自”を持つかれらの佇まいからは、ブラック・ミディ(Black Midi)やファット・ホワイト・ファミリー(Fat White Family)などに代表されるサウス・ロンドン〜「The Windmill」周りのバンド・コミュニティーとは異なる空気感のようなものが感じられる。音楽以外にもさまざまなアート活動に勤しみ、ニーナに至っては栄養士やパーソナル・トレーナーとしての経歴の持ち主でもあるという、異色の背景を窺わせる3人。そんな彼女らの創作の秘密について、公演翌日に中目黒にあるオフィスで話を聞いた。

始めたころはこれといったビジョンもなかった

——昨日のライブですが、演奏はもちろんステージングも含めて最高でした。バー・イタリアが本格的に活動を始めたのはパンデミックの最中のことで、当然ライブなんてできない状況だったと思うんですけど。

サム・フェントン(以下、サム):そうだね。まったくできない状況だったし、想像すること自体がリアルじゃなかったというか。

ジェズミ・タリック・フェフミ(以下、ジェズミ):2021年の初めにマンチェスターでライブをやったのが最初だったんじゃないかな。

——初めからあんな感じだったんですか。

ジェズミ:徐々に発展していった感じかな。単純に演奏がうまくなったというのもあるし、3人の一体感という部分も含めてね。

サム:このバンドを始めたころはレコーディングのためだけに曲を書いている感じだった。スタジオで一度だけ演奏して、レコーディングして、それから1年ぐらい曲にはまったく触れず、曲の存在自体も忘れて……という状態だったんだけど、いざライブをやりますってなったときに、作った曲の中でもライブで映えるものとそうでないものがはっきりと分かるようになって。たぶんそういう経験ができたからこそ、今はライブで映える曲が作れるようになったんだと思う。

——バー・イタリアはこれまでに4枚のアルバムをリリースしていますが、結成当初と今とではサウンドやプロダクションの印象はだいぶ違いますね。

サム:(バー・イタリアを始めたころは)これといったビジョンもなかったと思う。どの曲もスタイルが違っていて、似たような曲がまったくなかった。でも、最近の作品の方が音楽性の幅は広いと思う。

ジェズミ:最初の1、2枚目のころはかなりつまらない曲の作り方だったと思う。(サムと)1本のギターを貸し合ったりしていた感じだったし、ソングライティングやレコーディングもバラバラで、みんなで一緒に演奏しているって感じがなかったしね。

3人だからこその魅力

——3人ともバー・イタリアを始める以前から他の活動もしていましたが、「バー・イタリアでしか得られない特別なものはなんですか?」と聞かれたらどう答えますか。

ジェズミ:まず“友達”ってところが大きいだろうね。音楽を作り始めたきっかけは友達同士だったからで、僕たちの音楽は一緒につるんで遊んでいたからこそ自然と生まれたものばかりだったと思うし。

ニーナ・クリスタンテ(以下、ニーナ):今作っている音楽はこの2人とじゃないと絶対作れないものだと思うし、そう信じている。だから私たちに特化した音楽になっているし、バー・イタリアのサウンドは私たち3人だけのものだと思う。

——ちなみに、バー・イタリアを始めるにあたって3人がシェアしていたアイデア、音楽的なテイストはどんな感じだったのでしょうか。

ニーナ:答えるのが難しいな(笑)。

ジェズミ:それよりもこの3人の場合、“共有できないものがある”ってことの方が重要なんじゃないかな。音楽について意見が合わないことの方が多いし、むしろお互いに自分の限界や境界線を広げあっているというか。

ニーナ:私の場合、テイストを共有するというより……一緒に音楽を作るのって、学生だったときを思い起こさせるところがあって。友達と同じものにハマって、好きなものに対して一緒に興奮する気持ちとか、子どものころに戻ったような気持ちになるところがあるというか。だから3人で曲を作っていて、そこにボーカルが入って最高の形でハマるとテンションが最高に上がるし、子どもみたいに無邪気でハッピーな気分でいっぱいになる。その感覚はこの3人でしか作り出せないものだと思うし、それが“お互いの境界線を広げていく”って話にもつながっていくんじゃないかな。

——ニーナさんはソロでも活動していますが、「バンド」に対して憧れがあった?

ニーナ:はい。誰かと一緒に何かをやるのが好きなので。

—これはカジュアルな質問ですが、例えば自分たちのレコードの隣に誰か好きなアーティストのレコードを置くとしたら、今の気分で何を選びますか。

3人:(お互いに顔を見合わせる)。

ニーナ:分からない(笑)。逆に、あなたなら何を選ぶ?

——昨日のライブを観た後だと、スウェル・マップス(Swell Maps)のファースト(「A Trip to Marineville」)とか……。

サム:クールだね。まさに昨日聴いていたよ。

——あとはソニック・ユース(Sonic Youth)……それか最初の2枚のアルバムの隣だったら、ヤング・マーブル・ジャイアンツ(Young Marble Giants)の「Colossal Youth」とか。

ジェズミ:いいね、みんな好きだよ。

——ここまで、バー・イタリアのルーツやリファレンスを知る手がかりとなるような具体的なバンドの名前が、みなさんの口からはなかなか出てこないんですけど(笑)。

3人:(笑)。

——やっぱり、何かと比較されたり、類型化されたりすることには警戒心がありますか。

ジェズミ:初めは悩んだけど、もう慣れたよ。自分たちのやること全てが誰かにたとえられたり、特定のバンドと関連付けて聴かれたりすることに腹が立つこともあった。でもよくよく考えると、比較されるバンドはどれも素晴らしいバンドばかりだなって(笑)。それに、僕たちがやっている音楽は誰とも似ていないって思えるようになれたっていうのもあると思う。

サム:そもそも、自分が聴いているバンドと似てしまうのは自然なことだと思うし、だから望むと望まざるとにかかわらず、そうなってしまう部分はあるんじゃないかな。

レコーディング環境とサウンド

——最初の2枚のアルバムではレコーディング・プロジェクト的な側面が大きかったバー・イタリアですが、昨年リリースされた2枚のアルバムでは「バンド」としての実体感やライブ・フィールを増したサウンドが印象的です。バー・イタリアを始めてからここまでの変化や成長についてはどんな手応えを感じていますか。

ニーナ:私たちは成長していると思うし、レコーディングの機会や時間も増えた。バンドを始めたころはみんな仕事を持っていたし、他にやらなきゃいけないこともあって。前にも同じようなことを聞かれた気がするんだけど、その時に私が、たとえプロフェッショナルになったとしても音楽を作ることに興奮しなくなったり、インスピレーションを感じなくなったりするようなことはない、みたいなことを言ったのを覚えていて。もしかしたら誰かの言葉の引用だったのかもしれないけど、でも(プロフェッショナルとして)真剣に打ち込むことで自分自身のことをより深く掘り下げ、もっと多くの時間を音楽に捧げることができるようになる。そしてその結果、いいスタジオを使うことができるようになったり、心から尊敬できる人たちと一緒に音楽を作る機会に恵まれたりするようになる。

今回、マルタ・サローニがミックス・エンジニアを務めてくれたのもそういうことだと思うし、前にジャズミの部屋で音楽を作っていたころには考えられなかったようなステップアップだったと思う。

——昨年リリースされた「Tracey Denim」と「The Twits」は共にマルタ・サローニ(ビョーク、ブラック・ミディ、ジ・エックス・エックス)がミキシングを手がけたアルバムになりますが、どんなところに制作のポイントを置いていましたか。

サム:「Tracey Denim」はいわゆるレコーディング・スタジオ、つまり音楽のために特化した環境で制作されたもので、「The Twits」はスペインの島にある一軒家——もとは馬小屋だったらしいんだけど、いわば“アコースティック”な質感を持った環境で制作されたものだった。だから環境がまったく違っていて、そういう異なるシチュエーションで音楽を作ることでどんな変化が生まれるのか、それを追求したいというのがあった。マルタは環境を生かすのがとても上手で、だからそうした環境の違いが音の強度や質感に現れていると思う。

ジェズミ:それと、「The Twits」はライブ感が強いと思う。レコーディング・ルームにマイクをたくさん入れたり、「Tracey Denim」のときにはやれなかったアプローチを試したりした。十分な機材がそろったのが初めてだったというのも大きかったと思う。

——“環境と音響”という話は、ローファイでアンビエントな感触を持った最初の2枚のアルバム、「Quarrel」と「Bedhead」のころのサウンドにも通じるポイントかもしれないですね。

サム:1枚目(「Quarrel」)のゴシック・フィールは、録音していた部屋の床が木だったという影響もあるかもしれない。その上でキャスター付きの椅子に座って作業をしていたから床がきしむ音だったり、あと下の階が肉屋だったから肉を切る音だったり(笑)、そうしたいろんなハウス・サウンドがレコーディングに入っていた。それと2枚目(「Bedhead」)はコンプレッサーで圧縮した音をたくさん使っていて、それに外が騒がしいビルでレコーディングしていたのもあって……そうしたバックグラウンドにある小さな音全てが後付けでテクスチャーを構成する一部になっていたんだと思う。たまたま起きた奇跡とでもいうかな。

ニーナ:そういえば、「The Twits」のレコーディングで不思議なことがあって。というのも、スタジオでは常にハミングのような音が聞こえていて、レコーディングは基本的に夜にやっていたんだけど、その音は夜になるとどんどん激しくなって。で、実はその場所全体がソーラーパネルで動いていて、その蓄電の音がハミングの正体だったという(笑)。でも、マルタはその音を消すのではなく、ちょっとした加工を施すことでサウンド・エフェクトの一部として取り入れようとしていた。実際にそれがどの程度作品にフィードバックをもたらしているのか分からないけど。

バンドの見え方/見せ方

——3人はアートスクール出身で、音楽以外の活動もされています。前に、ロンドンで合同のアート展を開催されたと記事で読みましたが、どんな作品を制作しているんですか。

サム:あの時はドローイングだった。僕たちはみんなそれぞれ絵を描いていて、ニーナは絵以外の活動もしている。でも僕たちの場合、絵を描くことが絆の一部になっているところがあって、絵のスタイルはそれぞれまったく違うけど、お互いの絵が好きなんだ。だから僕らの絵を集めて一緒に見せる展覧会をやったら面白いんじゃないかって思ったんだ。

——どんな絵を描いているんですか。

ジェズミ:僕は友達の絵を描いているよ(笑)。

——3人にとって、音楽とアートはどんな関係にありますか。

ジェズミ:僕にとっては別物かな。

ニーナ:私の場合はつながりがあると思う。

サム:潜在意識のレベルでは互いに影響を与えていると思うけど、実際に顕在化するのは2つの異なる領域のように感じる。

——ニーナさんはパーソナル・トレーナーや栄養士としての経歴もお持ちですが、そこにもつながりは感じますか。

ニーナ:音楽への影響はないと思う。でも、ツアーにはアスレチック的な側面があって、実際に体力が必要とされる部分がある。だからそういう意味では、関連していると考えるのがしっくりくるかな。それと、(パーソナル・トレーナーや栄養士として)自分が学んだたくさんの知識を通じて、パフォーマンスをする上でのルーチンや身体の使い方を作り上げてきたってところはあるかもしれない。

——ニーナさんの場合、「アートと健康」というのがテーマの一つとしてあるのかな、と。

ニーナ:そうですね、私自身のアート活動は健康と結びついていると思う。ただ、バー・イタリアで作る音楽とは結びついていない。私にとってアートと音楽の接点は、ミュージック・ビデオとかフライヤーとか、音楽に付随するあらゆる視覚的な表現からインスピレーションを得ているってところだと思う。

——例えば、昨年リリースされた2枚のアルバムをきっかけにメディアへの露出が増える中で、自分たちが“ビジュアル”としてどう映るか、バンドの見え方/見せ方みたいな部分について、何か考えたり意識したこと、あるいはナーバスになったりしたところはありましたか。

ジェズミ:正直、メディアで自分を見るたびに「俺って本当にバカな格好をしているな」って思うよ(笑)。朝起きて着替える時に、わざと「この服、笑えるな」みたいな格好をして外に出て写真を撮られて、それを後で見て「なんて格好をしてんだろう!」って驚くこともあったり(笑)。

サム:俺たちは2人とも昔から、どっちがダサいコーデができるか競い合っているところがあって(笑)。どっちが長いベストを着るかとか、どっちがスキニージーンズをはくかとか(笑)。

ニーナ:私は“イメージを作り上げていく”というアイデアが好き。だから2人の “クリエーション”を横で楽しんでいる(笑)。

——お決まりの質問ですが……好きなブランドはありますか?

サム:ノー、ノー、ノー、ノー(笑)。

ニーナ:バー・イタリアの外ではファッションを楽しんでいるけど、でも好きなブランドを挙げていったらキリがない。それに、もしブランド名を言ったらそれを買わなくちゃいけなくなっちゃうし(笑)。

——昨日のステージではニーナさんの衣装もすてきでしたが、例えば自分にとっての“ヴィジュアル”のアイコンみたいな存在はいますか。

ニーナ:私のおばあちゃん。サムはマドンナみたいだけど(笑)。でも、女性のパフォーマンスは好きだし、とても惹かれます。

■「The Twits」
01. my little tony
02. Real house wibes (desperate house vibes)
03. twist
04. worlds greatest emoter
05. calm down with me
06. Shoo
07. que suprise
08. Hi fiver
09. Brush w Faith
10. glory hunter
11. sounds like you had to be there
12. Jelsy
13. bibs
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