ファッション

韓国の若者に大人気のメンズブランド「サンサンギア」 ディレクターが語るブランドのコア

2019年にスタートした「サンサンギア(SAN SAN GEAR)」は、今韓国で最も勢いのあるメンズファッションブランドの一つだ。ストリートにアウトドア、サブカルチャーをミクスチャーしたスタイルで若者の間で支持を広め、日本でも取り扱うセレクトショップが増えている。ブランドのキム・セフン(Kim Sehun)ディレクターに、ブランドのこれまでと展望を聞いた。

―ブランドを立ち上げたきっかけは。

キム・セフン「サンサンギア」ディレクター(以下、キム):「サンサンギア」は、ストリートウェアを楽しむ消費者に新しい選択肢を提案するために始めたブランドです。他のブランドによくみられるポップカルチャーや現代美術ではなく、傍流のサブカルチャーをブランドのエッセンスとしています。これはブランドが始まってから今まで、ずっと変わらない部分です。

デザイン、コラボ、コンテンツなど、個々の要素がバラバラにならないように大きな文脈を意識しています。スタートしたばかりの頃は私がデザインだけでなく、物流、CSまですべての業務をこなさなければなりませんでした。現在はデザイン、コンテンツ、グラフィック、ソーシング、物流/CS、戦略企画など、チームが細分化されています。より効率的に仕事ができるインフラが構築できています。

―韓国の若いディレクターが運営するブランドの特徴的な点は「ビジュアルマーケティング」だ。「サンサンギア」はディストピア、近未来、ファンタジーなど、奇抜なアイデアを毎コレクションに盛り込んでいる。

キム:私たちが「ビジュアルマーケティング」で重視していることは大きく2つに分かれます。まず、何を見せるか、そしてどのように見せるか。

「何を見せるか」については、シーズンの企画会議を非常に重要視しています。企画会議はシーズンの1年半前から行われることもあり、2023年春夏の“MERCURIAL”、秋冬の“THIRD KIT”、24年春夏の “SCOPE”といったキーワードでメインテーマを決めます。すべての社内チームがつながりながら仕事ができるよう、クイックビューや小規模な会議も頻繁に行っています。

コンテンツの見せ方においては「芸術性」「現時性」「直感性」の3つをすべて満たすよう心がけています。コンテンツ自体は必ず芸術レベルの高いものでなければなりませんが、私たちが選んだ素材や表現方法が適切であり、またそれを見る人が、私たちが伝えたいことを簡単に理解できることも重要です。

さまざまなカルチャーを照らす存在に

―2024年春夏コレクションのエディトリアルイメージで何を伝えたかったのかを教えてほしい。

キム:今シーズンのテーマは“SCOPE”、つまり「観察」です。とあるアーティストの歩みから、木材の細胞の顕微鏡写真まで、スコープの倍率を調節したレイヤーで、さまざまな観察対象に対する美学を語ることを試みました。

―自社発行のマガジン「スコープ」をコレクションと一緒に公開した。一般的なファッション企業ではあまりやらないことだ。

キム:雑誌は、私たちが表現したいことを最も直感的かつ多様に表現することができる、顧客に最も身近な形のコンテンツです。私たちの雑誌“燦燦(さんさん)”では、単にルックブックやエディトリアル写真だけではなく、シーズンのテーマと私たちが追求する価値を、より多様に見せようと考えています。ミュージックプレイリストやグルメなどの要素も盛り込みました。

私たちは「サンサンギア」が一つの“文化”になってほしいと考えています。かつて注目された、あるいはまだ注目されていないさまざまなサブカルチャーを「さんさんと」照らす存在です。

―日本の若者の間でも人気が高まっている。

キム:想像以上に私たちのブランドを好きになってくれて、本当に感謝しています。私は子供の頃、日本のアニメを見て育ち、日本の市場を見てファッションを勉強しました。日本はファッションや文化的なレベルが高い国です。日本に出張に行った時、道行く人たちが自分だけのムードでスタイリングしたファッションをしていて、衝撃を受けました。だから最初は「サンサンギア」が日本で通用するかどうか不安だったのも事実です。

日本の若い層は、デザインのディテールやコンテンツのナラティブ(物語性)を尊重する意識が非常に高い。だから私たちが作った製品が彼らのニーズに合致したのではないかと思います。

―今年3月には、フラッグシップストアを立ち上げた。

キム:私たちの最初のオフライン店舗の名前は「合井(ハプチョン)ストア」で、ソウル市マポ区の想像広場付近にあります。「サンサンギア」が見せたいテクニカルなムードを未来志向的かつ現実的に解釈し、店舗に溶け込ませました。

メイン素材にはステンレスを使っています。空間全体においては、ステンレス特有の冷たくて硬い雰囲気を中和させるために、フレームのないソファと大理石を随所に配置しました。外部の造園にも気を配りましたが、自然素材である石と苔を設え、内部素材と対比させながらバランス感を持たせました。

また、弘大(ホンデ)の中心地に位置する住宅建物として、建物に入居した店舗の変遷、つまり時間を可視化しようと考えました。過去の痕跡を取り除いた建物の骨格に特別な加工をせず、素材本来の風合いを生かしてインテリアを配置し、なるべくシンプルに空間をデザインしました。これにより、「サンサンギア」が持っている生き生きとしたムードうまく溶け込ませようと考えました。 また、窓やドアを大きくして開放感のある空間にし、外部とのつながりを強調しました。

―今後ブランドが目指す方向性を教えてほしい。

キム:「サンサンギア」は、伝統的なストリートウェアブランドの持つ多様性を追求しつつ、私たち独自のビジュアル言語を重要視しています。ストリートウェアブランドとして、これまでにはなかったアイデンティティーを持ちたいと考えています。例えばブランドを代表するアイテムである「ウインドブレーカー」は、季節性、機能性、ディテールなどにバリエーションを持たせ、一つのアイテムにおける多様性を持たせています。

ストリートファッションは衣服だけでなく、その存在自体が多様性を象徴する文化です。さまざまなジャンルを横断し、ファッションを衣類だけでなく、文化に拡張して見せるブランドでありたいと考えています。今後もローカルアーティストとのコラボレーションはもちろん、グローバルブランドとのコラボ、IP(知的財産)の活用など、多角的で立体的な活動をしていく予定です。そのためには、ブランドムードをもっと柔軟にすべく枠にとらわれない服を制作し、同時にコンテンツを通じたメッセージもより先鋭化したいと思っています。

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