PROFILE: 冨永愛
日本を代表するモデルの冨永愛が6月28日、新たなエッセイ本「冨永 愛 新・幸福論 生きたいように生きる」(主婦の友社)を発売する。これまで、「冨永愛 美の法則」「冨永愛 美をつくる食事」(ともにダイヤモンド社)といった自己流の美容法や食事術の著書をリリースしてきた冨永だが、新書のテーマはコンプレックスだ。今やファッションという世界だけでなく、俳優やタレントとして日本中で知られる冨永は、若者の憧れる存在でもある。「41歳の冨永愛は、わりと幸せなんです」と語り始める新書の表紙は、彼女のスッピンの笑顔。コンプレックスと向き合い、「生きたいように生きると決めた」彼女の真意を探った。
「自分を信じて生きていくことがきっと幸せにつながる」
――新書のテーマは「コンプレックス」。初告白する内容も多いと思うが、発売を迎えるにあたっての心境は?
冨永:実を言うと、最後の最後まで本当にこの本を出すべきか悩みました。まだまだ40年生きてきただけで、こういった本を出すなんてちょっと生意気だなって思ったんですよ。伝えたいメッセージがあるのかと聞かれても、特になくて。本当に自分が今思っていることを素直に書いていて、それが皆さんの何かのヒントになれればいいなと思っています。そうであれば、自分もこう生きている証になるというか、生きててよかったなって思えるようになれるから。うん、それだけですね。
――新著のプロローグで、「41歳の冨永愛は、わりと幸せなんです。」と綴っている。自分のことをそう思えるようになったのはいつから?
冨永:もうほんとうに最近です。41年生きてこないと分からない、そんな幸せ感がきっとあるんだと思うんですよね。振り返ってみて「わりと幸せじゃん」っていうところに至るには多分これくらい生きてこないと感じないんだろうなって。そう実感してからは、自分の言動や思考回路も変わって、対処する予測もしやすくなって、ここまですれば辛くなるとか、それでも自分から挑戦していくとか、考え方や行動がすごく楽になりました。それが幸せっていうことなんだと思うんです。
――幸せを感じることが増えたことで、変わったことは?
冨永:少なくとも、怒りや悔しさを感じる割合は減りましたね。自分のエネルギーの100%が悔しいっていう感情だったこともあったけれど、今は7割くらいまで減ったかな。幸せを感じることが増えても、新しいことに挑戦をし続けていて、悔しい思いもたくさんしていて、それはそれで私の原動力でもあるんですよね。
――多くの人が生い立ちや容姿など何かしらにコンプレックスを抱えて生きているが、「自分の生きたいように生きる」ためにどのように考えるといいのか
冨永:それは私にとっても人生の大きなテーマで、私自身の経験の中である程度の答えが見えてきたくらいな感じかな。ただ、誰しもが生きる環境で縛られているもので、そういうものから解放されることで生きたいように生きるということではないんですよ。縛りがある中で、どう生きていきたいのか考えていくということに意味があるんじゃないかなって。自分の判断に後悔してきたことももちろんあるけど、できないことの中で、自分が自分自身のことを信じて生きていけるようになるっていうこと自体が、きっと幸せにつながっていくんじゃないかなって思いますね。
――著書で「運は巡る。いただいた恩は誰かに送る」とある。チャリティー活動などさまざまな活動に精力的だが、人に恩を与えることで、自分に返ってくるという実感はあるのか。またどういったモチベーションで取り組んでいるのか
冨永:実感があるのかと言われたら特にない。でもふとした時に、自分が幸運に恵まれたり、いい巡り合わせがあったり、すごくいいタイミングだったり、きっとそういうことも含めて、こういうことなんだろうなって。自分が幸せになるために誰かに何をするっていうことではそもそもないです。もらったものを他に送っていくっていうこの循環を良くすることで、いい人生、いい巡りになっていくという考え方です。
社会貢献について言うと、恵まれた立場にあり、社会的影響力もある自分が、やるべきことだと思ってやっていることです。それに、自分の今の立ち位置を理解することもできる。そんな見方もできると思うんです。中年期特有の心理的危機を“ミドルエイジクライシス”と言われていたりもしますが、これくらいの年代の方は何においても慣れてきちゃっている年頃。ちゃんとした仕事もあって、お金も生活も充実していて、先のことも割と読めてきている年代。それって幸せなことだと思うんですよ。幸せなはずなんですよね。でもそれに気付いていないだけ。だからクライシスになっちゃう。私は真逆だと思うんですよね。自分がどういう状況なのかという立ち位置やポジションを俯瞰して見ることもできるのが社会貢献でもある。いろんな環境や状況で生まれている人たちに会いに行って、特にアフリカでは自分がどういう人間なのかって思い知らされる。ある意味、自分を知るために行っているかもしれないけれど、恩が返ってくるからやっているわけではないです。でもどこかで絶対返ってくるだろうなって信じているっていうことですよね。
息子が厳しいモデルの道へ。「うれしい気持ちはない」
――「セカンドキャリアが見つけやすい世界にしたい」と昨年7月に新事務所、Crossover(クロスオーバー)を設立し、著書では「人生の後半戦の、私の重要な仕事の1つだ」と語っている。その真意は?
冨永:そういったことも考えていかなきゃいけない年齢なんだっていうことかな。自分だけのことを考えていくというよりも、子育てと似ているかもしれないけれど、これから先、ファッションの世界がどうなっていくのかと考えた時に、あまりいい未来が見えてこない。そうした中でモデルの道1本だけだと難しくなる。今私はモデル業以外に色々やらせてもらっているので、その経験が若いクリエイターたちのためになればいいなという思いがあります。
――「100歳になってもランウエイを歩ける私でいたい」という冨永さんの目標は、モデルとしての真の強さが伺える
冨永:昔のショーの様子を見ると、顔つきも歩き方も全然違いますよね。歳を重ねて経験を積めば、表現者として豊かになっていくと思いますね。モデルっていろんなジャンルがありますけど、それが自分だよなって。うん、ランウエイやってなんぼだと思う。モデルをやれたから、この仕事に出会えたから、今の自分があるっていうのはすごくありますし、だから原点ですよね。いつまでもモデルでありたいなって思いますね。
――息子の章胤(あきつぐ)さんもモデルとなり一昨年キャリアをスタートし、俳優としても共演を果たすなど、親子共々活躍しているが、どのような思いがあるか
冨永:私と同じモデルの道に進みたいと聞いたときは、正直うれしい気持ちはなかった。それは今も変わらないです。違う分野に行ってほしかったというのが本音。でも彼のインタビュー記事なんか見ていると、私のことを「尊敬している」って言っていて、私の背中を見てくれていたんだなって、うれしいですけどね。それでもやっぱり畑の広いウィメンズに比べるとメンズは狭き世界。いくら私の息子っていう名前があったとしても、それが助けになるのは2、3年じゃないかって話はしています。そこから自分がどう頑張るかが大事になってくると思っています。
「年を重ねること、基本的にはなるようになる」
――今年42歳を迎え、26年目のキャリアとなる。今や俳優やMCなど幅広く活動しているが、20代のときは今のような自分を想像していたか。また当時の自分をどう振り返るか
冨永:今の自分のことは全く想像していなかったですね。20代はトップモデルを目指して、海外のコレクションを回ることが自分にとって大事なことで、まさか40代で俳優をやっているなんて思ってもいなかったですね。当時のショーの動画なんて見ていると、「かわいいな」「頑張ってるな」って愛おしく思えます。
――幅広く活動する中で、チャレンジする場に直面するときなど、どのようにメンタルトレーニングをしているのか
冨永:大一番のときは、自分を信じることがすごく助けになります。そのための準備は大事。それなりに自分を信じていないとリハーサルなしのショーだってある。自分らしさを発揮できるエネルギーの量や緊張の度合いが違えば、自分の可能性の幅も変わってくると思う。十分準備をすることで、あとは本番で出し切るしかない。自分自身で「大丈夫」と思えるか思えないかでその場をどう乗り越えられるかが変わってくると思っています。私はどちらかというと、自分で人生の道をつくってきたというよりは、その時々の自分のジャッジがあって、ご縁やタイミングがつながり今に至ったという感じですね。
――新著の表紙での清々しい表情がとても印象的だ。今はどういった心境か
冨永:これ実はスッピンなんです。レタッチもほとんどしていなくて。若いころはスッピンでそのまま撮影ってよくありましたけど、さすがにドキドキしましたね。ちょっとどんな顔していいか分かんないなって(笑)。でも出版に向けた意気込みとしては、「まだまだだな」って。自分はまたこれからいろんな経験を重ねて、どういう扉を開いていくんだろうって考えていますね。今の自分のこれ以上はないから、この表紙の自分が全てを物語っているという感じ。これまでも3、4冊の本を出版していますけど、それらは私の歩いてきた足跡。だから私の中ではもう過去のものなんですよね。もうずっと先を見ています。
――女性として、今後どのように年を重ねていきたいと考えているか
冨永:基本的にはなるようになる。あとはちょっとした余力を残しておけるようにして。これからは100%のエネルギーの残し方を考えていく生き方をしないと、きっと体壊すなあって思っています。もちろん100%全力で仕事に向き合うこともあるんですが、地方に行ったりして安らいだりして、余力を蓄えたりして最適なバランスをどう探っていくかがこれからは大事になってくるかなと思っています。
PHOTOS:MICHIKA MOCHIZUKI
STYLING:SOHEI YOSHIDA(SIGNO)
HAIR &MAKE-UP:MIFUNE(SIGNO)
衣装協力:シャツ、パンツ、シューズ、アクセサリー(すべてバーバリー/バーバリー・ジャパン)