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劇場アニメ「ルックバック」主演の河合優実と吉田美月喜が語る「物語が持つ力」——「人生を救うこともできる」

PROFILE: 左:河合優実/俳優 右:吉田美月喜/俳優

左:河合優実/俳優 右:吉田美月喜/俳優
PROFILE: 左:(かわい・ゆうみ)2000年12月19日生まれ、東京都出身。21年出演「サマーフィルムにのって」「由宇子の天秤」で、第43回ヨコハマ映画祭<最優秀新人賞>、第35回高崎映画祭<最優秀新人俳優賞>、第95回キネマ旬報ベスト・テン<新人女優賞>、第64回ブルーリボン賞<新人賞>、21年度全国映連賞<女優賞>を受賞。その他の出演作に、映画「PLAN 75」(22)、「少女は卒業しない」(23)、「あんのこと」(24)やドラマ「不適切にもほどがある!」(24)、「RoOT / ルート」(24)などがある。 右:(よしだ・みづき)2003年3月10日生まれ、東京都出身。17年にスカウトされ、芸能界デビュー。主演作に、映画「あつい胸さわぎ」(23)「カムイのうた」(23)「メイヘムガールズ」(22)、ドラマ「マイストロベリーフィルム」などがある。その他、主な出演作に、Netflixオリジナルドラマ「今際の国のアリス」(20)やTBS日曜劇場「ドラゴン桜」(21)、日本テレビ「ネメシス」(21)などがある。

漫画への情熱が、少女2人の思いをつなぐ——。「チェンソーマン」や「ファイアパンチ」などで知られる人気漫画家・藤本タツキが2021年に発表した読み切り漫画「ルックバック」。ポップカルチャーや実在の事件への言及、漫画を通じ創造の可能性と業を描く俯瞰的な視点など、多層的で奥行きのある物語は、公開するやいなや瞬く間に話題となり「このマンガがすごい!2022」オトコ編第1位にも輝いた。そんな「ルックバック」が劇場アニメとなり、6月28日に全国公開された。監督・脚本・キャラクターデザインを担当したのは「風立ちぬ」(13)をはじめ、数多くの劇場アニメーションに主要スタッフとして携わり、世界中から支持を集める押山清高。主人公の藤野と京本を演じるのは、ともに声優初挑戦となる河合優実と吉田美月喜だ。2人は藤本タツキと押山清高が作り上げたキャラクターにどのように魂を吹き込んだのか、話を聞いた。

声優に初挑戦

——初めて原作漫画「ルックバック」を読んだときの感想はいかがでしたか?

河合優実(以下、河合):「少年ジャンプ+」で公開当時に「ルックバック」を読みましたが、時間が交差するアイデアはもちろん、藤本タツキさんが考える創造的なことや、その当時感じていたことを乗せて描いているのがとても面白いなと思いました。そして何より、その熱量が読んでいるみんなに伝わっていった現象自体がすごく印象に残っています。

吉田美月喜(以下、吉田):私が原作に初めて触れたのは本作のオーディションを受けることが決まってからで、当時は藤野と京本どちらを演じるか分からないまま読んだんです。元々藤本タツキ先生の「チェンソーマン」は読んでいて、バトルもののイメージが強かったので「ルックバック」での作風や語り口の違いに驚かされました。日常の温かみもありつつ、すごく漫画ならではの力を感じる素敵な作品だったので、これがどう映像化されるんだろうと読みながらワクワクしましたね。

——今作が声優初挑戦のお2人ですが、出演が決まったときの心境を教えてください。

河合:オーディションはいつも受かりたいという気持ちで臨んでいるんですが、中でも「ルックバック」は原作に惹かれてやりたいと強く感じていた作品だったので、決まった時はすごく嬉しかったです。声優は初めてでプレッシャーもありましたが、プロの声優さんもいる中で自分を選んでくれたことにはきちんと理由があるんだろうと自分に言い聞かせながらアフレコに挑みました。声優のお仕事は以前からやってみたかったので、楽しみな作品としてご褒美を頂いたような気持ちでしたね。

吉田:今まで声優のオーディションを受けてもなかなか結果に結びつかなかったこともあり、あまり自分の声には自信がなかったので、今回まさか受かるとは思わずびっくりしました。京本役が決まると同時に、藤野役は河合さんだと聞いたんですが、実はそれもまたちょっと意外で。というのも私の中で河合さんは渋めの声の印象だったんです。でも今回久々にお会いしてアフレコを見ていたら、私の印象を覆す藤野にピッタリな声を出していて「すごい…」と聞き入っちゃいました。

——身体的な表現を伴う俳優と、声だけで機微を表現する声優とでは感覚が大きく違ったと思いますが、どのように役作りをし、演じられていったんでしょうか?

河合:プロの声優さんの技術を今から身につけることは絶対できないし、でも映像と同じお芝居をするのも多分違うし、最初は「ルックバック」の声優をやるにあたってどうするのが正解なんだろうという葛藤が自分の中でありました。でもオーディションに受かってその次にスタッフの方々にお会いできるのがアフレコだったので、あまり自分の中でイメージを固めすぎず柔軟に臨んだ方が良いかなと考えるようになったんです。だからアフレコに入るまでは脚本や漫画を読んだときの心境とか、藤野と京本の関係性とかそういうことだけを考えて、あとは現場で音響監督や美月喜ちゃんと一緒に作り上げていきました。

吉田:私はアフレコ前に方言指導で一度だけスタッフの皆さんにお会いしたんです。その時に、私の「そのままの声が京本に通じると感じたので、台詞は練習しすぎず方言の練習だけしてほしい」と言われて。どういうことだろう…と思いつつ、ひたすら方言のテープを聴いてそれを感情ゼロで話してっていうのを繰り返していました。声優だと声でしか表現ができないということもあり、方言もごまかしがきかないので、そこは本当に頑張りました。でも変に身構えて家で演技の練習をしすぎなくて良かったと思います。録る前は不安だったんですが、実際アフレコする時には、音響監督が方向性を調整しながら導いてくれていたので、そこを信じていけば大丈夫だろうという安心感がありました。

河合:確かにそうだね。私もディレクションに従ったりオーダーに応えようという気持ちが、いつものお芝居より強かったなと思いました。それは声優の仕事がわからないからこそですね。

——監督ではなく音響監督がお2人のディレクションをされていたんですね。

河合:そうですね。監督も一緒でしたが、声優の演出をしてくれるのは音響監督でした。私も「監督とはあんまり直接話さないんだ……」って初めて知って。もちろん監督によるのかもしれないんですが。

吉田:今回の現場だと、監督が感覚で考えていることを音響監督が汲み取って、私たちに分かりやすく言語化して伝えてくれていたのかなと思います。

河合:音響監督は木村絵理子さんという方なんですが、放言指導の声優さんも「木村さんはすごい」って言うくらいの方で。対面ではなくブースでしか話せない中で、すごく分かりやすい言葉でどうすればいいのかを明瞭に伝えてくださって、とても頼りになりました。

——藤野の走るシーンの躍動感が素晴らしかったですが、あのシーンも何か指示があったんですか?

吉田:たしか走るシーンはあんまり指示を受けてなかったよね? そこは流石のプロでした。

河合:いやいや(笑)。でも確かに動きながらやってみてくださいといった指示は受けたりしていましたけど、そういう走ったり息遣いだったりという台詞がない場面は、思うままにやってくださいと言われることが多かった気がします。生っぽさやライブ感をまず録ってみたいということで。

物語の持つ力

——「ルックバック」は物語や創作の力を描く作品でもありますが、演じることで物語を紡ぐお2人にとって、物語の持つ力とはどういうものだと思いますか?

吉田:すごく大きな影響を与えるものですね。例えば私は小さい頃、「アンパンマン」のロールパンナが好きだったんですけど、あの少し闇がある感じに憧れたりして(笑)。そういう風に私自身、物語やその登場人物に憧れたり、大きな影響を与えられてきたと思うんです。この「ルックバック」を観たことで漫画を描きたいと思う人もいるでしょうし、物語は人生を豊かにしてくれるものですよね。一方で影響が大きいからこその怖さもありますけど。だからこそ自分が作品に携わる時は、誰かの人生に良い影響をもたらすことを目標に作りたいなといつも考えています。

河合:本当に良くも悪くも、とても大きな力を持っていますよね。子供たちが「アンパンマン」を観て、登場人物や善悪の描写に影響を受けて、自分の中の価値観や倫理観として溶けていくように、物語は観ている人の世界と繋がっているということを私も自覚していたいなと考えています。物語は人生を丸ごと変えられるし、救うこともできるし……その力が与える影響を受ける側としても知っているからこそ、作る側に立った時もそのことを忘れないでいたいなと。

——本作への参加で自分の声や、声の芝居に対する考え方に変化はありましたか?

河合:お芝居の中で声がどれだけ大きい要素を持っているかを理解しているつもりでも、実際に声優をやってみると声の芝居をする上での感覚の違いをとても感じましたね。元々舞台や映像、朗読や声優における声の使い方の違いを考えることは好きだったんですけど、映像を続けていくうちにその意識が離れつつあったので、今回声の根本的な部分について考え直すきっかけにもなりました。間違いなく良い影響を及ぼす体験だったと思います。

吉田:私も声の重要さを理解するという意味でとても大切な作品になったと思います。今まで映画のナレーション部分がすごく苦手だったんですよね。声に感情を乗せてるつもりでも変わってないと言われることもよくあったりと声にコンプレックスを持っていて。でもこの作品に出会って、少なからず自分の声を肯定できたんです。だからこの経験を活かして、これからは身体だけじゃなくてもっと声を意識したお芝居をしていきたいなと思いました。

——最後に劇場アニメ「ルックバック」の見どころを教えていただけますか?

河合:声優を演じる時に見た映像はまだラフの段階だったんですが、押山監督の作るアニメーションが本当に素晴らしくって。漫画だからできると思っていた表現が、その質感は変わらず、動くことでより魅力的になっていたんです。漫画「ルックバック」に生命力を注ぎ込んだシンプルかつ最高の映像だと思うので、何より押山監督のアニメーションを知ってもらいたい気持ちが大きいです。そして限られた時間のパーソナルな映画ではあるんですけど、自分の人生の中できっと思い当たる節がある物語だと思うので、漫画をチェックしてなかった人にも観てほしいですね。

吉田:劇場アニメ化の発表があったときの皆さんの反応を見て、改めてこんなにたくさんの人に愛されている作品に関わることができたんだと実感しました。予告を見て「漫画の世界がそのまま動いている」と喜んでいる方もたくさんいたので、きっとその期待を裏切らないものになっているんじゃないかなと思います。少女たちの生きる力や情熱の向け方は、私自身羨ましく感じるほどに素敵なので、原作ファンのみならずいろんな人に共感してもらえると信じています。

PHOTOS:TAKUYA MAEDA(W)

■劇場アニメ「ルックバック」
6月28日全国ロードショー
出演:河合優実、吉田美月喜
原作」藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
アニメーション制作:スタジオドリアン
© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会
https://lookback-anime.com

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