「ロエベ(LOEWE)」は6月22日、パリ・メンズ・ファッション・ウイークで2025年春夏メンズ・コレクションを発表した。プレスリリースはいつになく簡潔で、「A Radical act of Restraint(ラディカルな節度)」というキーワードのみ。「抑制されたものを欲していた」と語るジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は、服のアーキタイプ(元型)をベースにした削ぎ落とされたデザインに、意表を突くクラフト技術や素材、コントラストを効かせたシルエットを取り入れ、今季も観客を圧倒した。
アンダーソンにとってパーソナルな作品を並べた会場
今シーズンの会場は、22年春夏と23年春夏のウィメンズショーでも用いたフランス共和国親衛隊の屋内馬術練習場。その時同様、ショーのために2階部分を作り、ランウエイと客席を用意した。そこには、今季の出発点となった写真家ピーター・ヒュージャー(Peter Hujar)が撮影したハイヒールの写真をはじめ、アーティストのポール・テック(Paul Thek)によるネズミなど小さな青銅製オブジェの数々、チャールズ・レニー・マッキントッシュ(Charles Rennie Mackintosh)の手がけた椅子、建築家でありデザイナーでもあったカルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)が製作したイーゼルなど、アンダーソンにとってパーソナルなものでもある20世紀のアート&デザインを象徴する作品が飾られている。
そんなランダムな組み合わせのようにも感じる作品群のセットは、アンダーソンの愛読書の一冊でもあるというスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)の「反解釈」の中で提唱された、作品を解釈するよりもその感覚的な喜びを重んじる“芸術の官能美学”の必要性を呼びかけるもの。観るものそれぞれが自由に感じ取る、連想の旅へと誘う。
「精度に対する自分ならではの解釈を楽しんだ」
ショーが始まると、モデルたちは空間中央の1階から続く階段を上り、ランウエイに姿を現す。まず目を奪われたのは、モデルの顔の前に垂れるキジの羽根のヘッドピース。それは、縦のラインを強調するアクセントになるだけでなく、「顔の中央に線を引くことで、顔を分断したり隠したりしたかった。動く時に錯視をもたらしたり、催眠術をかけたように見えたりするものでもある」とアンダーソンは説明する。
序盤に見せたのは、ヘッドピースの細長いラインに呼応するようなスリムシルエットのブラックスーツ。デザイン自体はミニマルだが、シルクモヘアをスポンジのように弾力のある質感で仕上げた軽やかなオリジナル素材を使っているのが特徴だ。インナーに合わせるのは、服の内側に縫い付けられるロゴラベルを拡大してドレープを寄せたかのようなトップス。足元のオックスフォードシューズはトーが極端に引き伸ばされたデザインで、錯覚を生み出す。
「精度に対する自分ならではの解釈を楽しんだ」という今季は、これまで以上に削ぎ落とされたデザインの中に一見しただけでは分からないような驚きのアイデアや遊び心あるユーモアを散りばめている。例えば、先シーズンのように上下が一体化したルックがある一方、クロップド丈のポロシャツとチノパンツはオーストリッチのベルトでつながっているように見えて別々のアイテム。細身のコートは、シームに沿って入れたワイヤーで裾が捲れ上がったシルエットを生み出す。そしてドレープを寄せたワイドパンツは、正面のファスナーを横に、背面のパッチを前にずらして捻ったかのよう。そこに合わせるチェックシャツは前後が逆になっている。
また、レザーのチェスターコートはグラデーションを描くようにナパからオーストリッチへと変化し、ハウンドトゥースのポロシャツはカットしたフェザーをあしらうことで柄を立体的に表現。構築的なTシャツやショーツはケーブルニットとレザーをボンディングした上から筆でペイントして仕上げたもので、ノースリーブのトップスは3Dプリンターで再現した腕時計の金属ベルトのようなパーツやマザー・オブ・パールで作る。そんなクラフト技術の生かし方は、まるでモダンなオートクチュールを見ているかのようだ。
それだけでなく、フレアラインを描くギンガムチェックのロングシャツにスリムなスラックスを合わせたり、タイトなニットに鳶職人が履く作業着のようにボリュームのあるニットパンツをコーディネートしたりと、コントラストを効かせたシルエットの探求も引き続き。後半に登場したジャケットも、「ポケットに手を入れるという動作のさりげなさを際立たせるような、誇張する何かが欲しかった」とアンダーソンが説明するように、短めの身頃に対して袖は太くカーブし、たっぷりとしたたるみはエフォートレスな印象につながる。
多様なレザーで表現するバッグ&シューズ
バッグの新作は、“ペブル”バケットバッグを同じ金具をあしらった縦型のホーボーバッグやトップスにも見られたコントラストカラーの大きなロゴを配したXLサイズの巾着トートなど。前者はオーストリッチ、スエード、グレインレザーのバリエーションを用意し、後者はなめらかなナパレザーで提案する。また定番の“パズル”バッグには、オーストリッチや「ロエベ」としては初のディアスキン(鹿革)のモデルが登場した。
一方、シューズは前述のオックスフォードシューズに加え、メンズシューズの定番をシルエットや素材で遊んだデザインが目を引く。さまざまなレザーで提案するローファーやバイカラーのデッキシューズは、幅広の丸みを帯びたスクエアトーが特徴。つま先やソール周りをレザーで覆ったキャンバススニーカーやショート丈のワークブーツ、ブラッシュスエードのフットベッドサンダルなどもそろう。