コロナ禍でEC売り上げを伸長したブランドにとって、人々が対面でのコミュニケーションを求めて外出するようになった現在が、存続をかけた運命の分かれ目だろう。そんな中、アンティローザ(AUNTIE ROSA)のEC専業ブランド「アイバー(AIVER)」は、10代〜20代の若者の支持を集め、勢いを加速しているという。顧客のジェンダーを固定化しないムード、凝ったデザインにもかかわらず手ごろな価格設定、顧客との積極的なコミュニケーションが大きな要因だ。
メンズブランド「キャスパージョン」から独立
自社ECとゾゾで売り上げ伸ばす
「アイバー」は、アンティローザの河嶋翔ディレクターが2014-15年秋冬シーズンに、セレクトショップ業態のブランドとしてスタート。当初は、同社によるメンズブランド「キャスパージョン(CASPER JOHN)」で、店舗の一角に並ぶ小さなブランドだったが、徐々に人気を高め、1年後にはブランド名を「キャスパージョン アイバー」と連名にするまでになった。19年春夏シーズンから、オリジナルアイテムのみを扱う「アイバー」として独立。現在は実店舗を持たずに、自社ECサイトと「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」で販売を行い、順調に売り上げを伸ばしているという。
人気の秘密は、着こなしによってはストリート、モード、メンズ、ウィメンズのいずれとしても捉えられるようなバランスの取れたデザインと、5000〜3万円という手ごろな価格設定だ。全50型ある最新コレクションには、ダークトーンの生地で全面をパッチワークした「アウトドアプロダクツ(OUTDOOR PRODUCTS)」コラボのリュックサックや、極太のバギーデニム、ビッグシルエットのサッカーシャツなど、カジュアルさと無骨さを併せ持つアイテムが並ぶ。かと思えば、パンキッシュな“尻当て”とセットで着用するラッププリーツスカートや、マイクロショート丈のトップスといった、フェミニンでありながらストリートなムードをはらむアイテムも。前シーズンに登場して大きな反響を得たというプラットフォームのスニーカーは、いわゆる韓国系ファッションや“地雷系”ファッションを好む若者とも親和性が高そうに見える。
難易度高めなアイテムに触手を伸ばす若者
メンズだってヘソ出し&スカート
広報担当者によれば、「ひと癖あるアイテムでも、躊躇なく手に取ってくれるお客さまがとても多い」という。実際、一般向けに開催した展示会では、ファッションコンシャスな若者がひっきりなしに姿を現した。例えば、ベースボールキャップではなく、フライトキャップを真っ先に選ぶ女性や、上述のヘソが見えるほどのショート丈トップスやスカートを試着し合う男性客も。高校生の頃からブランドのファンだというダンサーの男性(27)は、「『アイバー』はストリートすぎず、モードすぎない。そのバランス感覚がちょうどいい」と話す。
コロナ禍が明けてから、「アイバー」はこれまで以上に顧客とコミュニケーションを図る。外出がはばかられていた時期から、その重要さに気づき、いち早く動き出せたかどうかが、EC専業ブランドにとっては大きかったに違いない。今年4月には初のポップアップショップも実施したほか、21年以降の展示会は、業界関係者だけでなく一般客にも開放している。また、「販売員出身だからこそ接客を大事にしたい」と考える河嶋ディレクターは、展示会期間中も常に店頭に立ち、来場者のスタイリングのアドバイスも行う。「次の目標は実店舗をオープンすること」と、次なるステップも見据えている。
アンティローザは、1998年創業のアパレル企業。EC領域を主販路とする「キャスパージョン」「メルロー(MERLOT)」「ヴァカンシー(VACANCY)」など70以上の自社ブランドを保有する。14年にはRIZAPグループに買収された。現在は事業を拡大し、アパレル事業のほかに撮影スタジオやイベントスペース運営、カフェ経営にも取り組んでいる。