サステナビリティ

自社古着ビジネスの胎動を感じ、経産省ガイドラインを学び、米富繊維をリスペクト【向千鶴サステナDが行く】


向千鶴サステナビリティ・ディレクターによる連載第3回は、「人」が主役。サステナビリティを取り巻く新しい話題を追いかけたら結果的に、新しい才能、行政のリーダー、新ビジネスを興そうと燃えている人たちにカメラを向けていました。企業の大小、有名無名なんて関係ありません。新しい価値って結局、志ある人が作るのです。それを追いかけるメディアの仕事は本当に面白い!

産業を良くするぞ、とやる気に満ちた人たち

「みらいのファッション人材育成プログラム」キックオフ(6/18)

経済産業省が主催する補助事業「みらいのファッション人材育成プログラム」にメンターとし参加しており、この日は公募で選ばれた5組のクリエイターとのキックオフミーティングに参加しました。会場は事務局を務める京都のインフォバーン。5組とはJR西日本SC開発、シンフラックス(Synflux)、マイスズキ(MAI SUZKI)、メタクロシス(METACHROSYS)、ワコール(WACOAL)です。「みらいの人材」と銘打ったプロジェクトに新進企業だけでなく大企業も選ばれていることに違和感を覚える方がいるかもしれません。そうなのです、そこは本プロジェクトのポイントのひとつです。

このプログラムの目的は、「サプライチェーンのデザインから製造、販売、使用、リセール・再生までをリアルとデジタルの両輪でアップデートするために、実践的な教育機会を提供する」ことです。壮大ですよね。つまり繊維・ファッション産業のサプライチェーン全体を大胆にアップデートするため、そこに寄与するアイデアを持つクリエイターを支援しよう、という話です。

そのアイデアを持つ人は、新進企業とも限りません。大事なのは所属している企業の大きさではなく、エントリーしようと決めた「個」の存在。個人に斬新なアイデアと行動力があることが重要です。大きな組織に属する「個」ならば、その組織の力も活用しつつ、自社メリットにとどまらず産業全体に貢献するアイデアを出せるかが問われます。この写真に写っている一人ひとりの肩の上に期待がかかっています。

ブランドリコーマスの胎動を感じる

トークイベント「ブランドと商業施設が考える、サステナ事業の始め方」(6/19)

話題の商業施設ハラカドで開催されたイベントのお題が「ブランドと商業施設が考える、サステナビリティ事業の始め方」だったので、行ってきました。トークのメーンはブランドが自社ブランドの古着を再販することの可能性、です。リードしたのは事業のドメインに「ブランドリコマース」を掲げるフリースタンダードの張本CEOです。

これだけ古着が人気な時代でも、自社の古着を再販しているアパレル企業はごく一部ですが、いよいよその大きな波が日本市場に到達しそうです。サステナビリティ観点からも「長く着る」のが一番。ただし、新品だけを売るビジネスからブランドリコマースの併用に転換しつつ経済的成長と両立させるには、新しい発想が必要です。ここではその可能性が語られていました。例えば、オンワード樫山は2009年から長く衣料品回収を行っていますが、最近は社内公募でのアップサイクルプロジェクトに力を入れている(収益の90%は製作者が受け取るそうで、実質、会社お墨付きの副業)そう。また、ラコステ ジャパンは本社との合意形成など外資ブランドならではの課題を抱えつつ2026年に向けて数値目標をもって取り組んでいます。商業施設の東急不動産的にはテナントから家賃をもらっている立場上ハードルが高いリセールを取り扱うために商業施設外にタッチポイントを作る可能性があること、などが語られました。

プロパーへのマイナス懸念がつきまとう自社ブランドの古着販売ですが、そもそも若者にとってプロパーは「高くて買えない」存在ともなっています。ラコステ ジャパンでは面接に同社の古着を着てくる人が多いと聞くと、若いファン層獲得のためにも自社古着のマーケティングに力を入れる戦略は理にかなっていると思います。“マイファースト〇〇”がスニーカーや小物でなく古着であるケースは今後ますます増えるでしょう。ちなみに、フリースタンダードによるとブランド内再販は外部プラットフォームでの販売と比べて単価が1.4~2.2倍高いそうです。

経産省のこの資料、アパレル関係者は必読です

「繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン」取材(6/20)

経産省のネタが続きますが、「みらいのファッション人材育成プログラム」がクールジャパン政策課管轄であるのに対して、この日の取材は生活製品課。繊維以外に住宅や伝統工芸、日用品などの産業の競争力強化の環境作りをミッションに掲げる部署です。アパレル企業などが所属する日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)などと情報交換をしながら活動をしています。霞が関、という言い方をすると遠い存在に思えるかもしれませんが、経産省は産業にとても近い存在です。表には見えずらいですが、取材を通じて「この方たち本当に産業のことを考えてよく働いているな」と思う局面がよくあります。なんか偉そうな物言いで恐縮ですが出されている資料を見るとその緻密さにグッときます。

そのひとつが6月に公開した「繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン」です。詳しくはこの記事のリンクからぜひご確認ください。「2026年をめどに国内の大手アパレルの情報開示を徹底、30年度には主要なアパレル企業において情報開示率100%を目指す」と、断言するのは田上博道製造産業局生活製品課長です。循環型経済へ向けて欧州のように法規制ありきで動くのか、このようなガイドラインを参考に産業自ら変革してゆくのか、日本のファッション産業の決断が迫られています。

ちなみに、経産省に期待するのは、ガイドラインなどの資料作りにアートディレクター、グラフィックデザイナーを起用してほしいということ。同ガイドラインは全26ページで文字がぎっしり。大事なことが書いてあるのですから読めばよい、のですが、視覚的にデザインすることで文字だけよりも拡散も理解もしやすいと思う。ただし、デザイナーにとって資料のポイントを理解、咀嚼するのは大変。会議に常に参加して議事録ならぬデザイン録を採り続けるデザイナー、という存在を霞が関にあってもよいのでは?と思います。

参考にしたのは家電、というユニークな着眼点

三陽商会リユース事業「RE: SANYO」発表会(6/21)

実にタイムリー!一つ上のトークイベントの2日後に、三陽商会のリユース事業「リ・サンヨー(RE: SANYO)」のお披露目がありました。写真は会見をリードした同社の松尾峰秀・専務執行役員です。

同社が回収自体をはじめたのは2019年ですがこれまでは自動車内装材などへ再資源化していたそう。それを再販へと舵を切るにあたり、力を入れたのが回収後の服を独自基準で仕分けし、クリーニング・仕上げで整え、検品し再販するまでの仕組みづくりです。内製化することで持続可能な低コスト運営としているそう。仕組みの参考にしたのが家電のリサイクル、という話が印象的でした。確かに、日本では衣料品より家電のほうがリサイクルが先行しています。業界は違えど先駆者から学ぶことは多いですよね。

もうひとつ印象的なのが、その場所です。同事業の一号店として選んだ「サンヨーG&Bアウトレット落合店」は、国内にアウトレットモールが広がりを見せる前の今から40年前、在庫品の廃棄削減を目的に三陽商会のアウトレット1号店として1984年にオープンした店舗とのことです。百貨店などの取引先とも競合しない絶妙な立地に新ビジネスの種を植えたわけですが、それが今また新しい種まきの場所となっている点がおもしろいです。

ヨネトミのTシャツはなぜかセーターっぽい、その理由

米富繊維ポップアップストア(6/21)

その経営姿勢と製品をリスペクトする米富繊維のポップアップに行ったら、長年の知り合いである小野瀬慶子さん(写真右)とバッタリ。勢いで大江健社長(写真中)とともに写真を撮りました。名物バイヤーとして鳴らした小野瀬さんは今、慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程でファッションの社会/人類学を研究中。ファッションと社会は表裏一体ですものね。

長い時間を経て私はサステナなモノづくりの角度から、小野瀬さんは研究角度から、山形県山辺町発のニットメーカーである米富繊維にたどり着き、自社ブランド「コーヘン(COOHEM)」を前に、同じように感動している点が非常に感慨深い。

ちなみに米富繊維のTシャツは首回りがセーターと同じ作りなのでしっかりしており、大人が1枚で着ても不思議とカジュアルになりすぎません。私は米富繊維と徳島の藍染め「Watanabe's」のコラボTシャツを購入しました。「Watanabe’s」の渡邊健太代表は山形出身なのですって!

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

サステナビリティ特集 サステナブルなアパレル製品の作り方

「WWDJAPAN」9月9日号の特集は、「How to be a Sustainable Apparel」。本特集では、サステナブルなアパレル製品の作り方について考えます。サステナブルなアパレルといってもそのアプローチ方法はさまざま。有力アパレルメーカーが定番品をよりサステナブルに作り替えた製品や新たにブランドを立ち上げた事例、社会課題解決に向けてゼロから方法を模索して作った製品など課題に対してよ…

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