2024-25年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークが6月24日から4日間、パリで開催された。今季の公式スケジュールに名を連ねたのは、27ブランド。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」と「フェンディ(FENDI)」が発表を見送り、いつもよりも控えめなラインアップとなったが、その中から選りすぐりのコレクションをリポートする。
おなじみの初日10時からショーを開催した「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」は、オリンピックの影響もあり、いつも使用している明るく荘厳なプティ・パレから会場を変更。ロスチャイルド家の旧邸宅で現在はイベントに使われるオテル・サロモン・ドゥ・ロスチャイルドの地下に、豪華なクリスタルのシャンデリアのみが飾られた真っ黒な空間を用意した。壁に沿うようにびっしりと椅子が並ぶこじんまりした部屋には、親密な雰囲気が漂う。
「シネマチックな体験を生み出したかった」とダニエル・ローズベリー=クリエイティブ・ディレクターが話すショーは、控えめなライティングの中で行われた。モデルがゆっくりと観客に近づきながら歩くショーは、エモーショナルでいつもより幽玄な印象だ。彼は、これまで筋肉をかたどったコルセットや動物のはく製風ドレス、パソコンの基板などで作ったロボットのような赤ん坊の人形といったSNSでバズを起こす“飛び道具”のようなデザインを取り入れてきたが、今季はそれも封印。「ソーシャルメディアやインターネット上での盛り上がりの効果は、今やとても小さく瞬間的なもの。服の素晴らしさだけが話題に上るように、もっとタイムレスなものを作ることにした」とし、ドラマチックで美しいシルエットと技巧に富んだ装飾でエレガンスを表現した。
「フェニックス(不死鳥)」と題された今季のファーストルックは、肩に大きな羽モチーフの刺しゅうをあしらった黒いベルベットのロングケープ。これは、創業者エルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)がバレリーナのアンナ・パヴロワ(Anna Pavlova)にオマージュを捧げてまとったフェザーのストールに着想を得たもの。「シュールで極めてセンシュアルなバレエを描きたかった」と、ローズベリーはコレクションについて説明する。
中心となるのは、コルセットなどで曲線美を強調したり、胸下を深く開いたりしてセンシュアルかつエレガントなムードを演出したロングドレスや、フェニックスの翼をイメージした幅広い肩が特徴のテーラリング。そこにメタルやウッド、マザー・オブ・パールといった意表を突いた素材で作るアイテムはなく、オートクチュールの原点に立ち戻るかのように、デッサンから始め、布を巧みに操り、装飾を施していくアプローチに専念した。ただ、そこには「ノスタルジックにならず、古典を凌駕していく。伝統的で卓越したものと同時に若々しい捻りを感じさせたい」という思いで取り組む彼のアイデアが生かされている。
例えば、フェザー風の装飾をシルクオーガンジー製の細長いピースをびっしりと縫い付けることで表現したり、バラの茎に見られるトゲのような3Dパーツをちりばめたり。ドレスの裾には、丸くカットしたサテンオーガンジーを幾重にも重ねるように垂直に並べ、優雅な動きを見せる。一方、サテンのコルセットドレスの胸には、ハイヒールを模したデザインを配し、さりげなくシュールさをプラス。終盤には、チュチュのまくれ上がった部分からピンクのラインストーンきらめくライニングが覗くブラックのスリーブレスドレスや、エクリュのクレープサテンのショールジャケットと合わせて銀色に輝くたまご型のパーツをちりばめたダイナミックなチュールスカートも披露し、バレエとのつながりを感じさせた。
ローズベリーが目指したのは、「典型的なものは頼らずに、メゾンの意味を探求すること」。象徴的なゴールドと黒の色使いやキャッチーなデザインがなくとも、「スキャパレリ」の独創性と卓越性を感じさせる息をのむほど美しいコレクションだった。