フランス国立モード芸術開発協会が主催する2024年「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award以下、ANDAM賞)」のグランプリに、クリストファー・エスバー(Christopher Esber)による「クリストファー・エスバー(CHRISTOPHER ESBER)」が選出された。特典として、賞金30万ユーロ(約5160万円)に加え、常任審査員であるアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vacarello)「サンローラン(SAINT LAURENT)」クリエイティブ・ディレクターによるコーチングを受けることができる。
準優勝に位置付ける特別賞には、フランス人デザイナー、エメリック・チャチョア(Emeric Tchatchoua)が手掛ける「3.パラディ(3.PARADIS)」が選ばれた。また、ピエール・ベルジェ(Pierre Berge)賞には、エドモンド・ルウ(Edmond Luu)によるパリのメンズブランド「ピーシーズ・ユニークス(PIECES UNIQUES)」、アクセサリー賞には、クリスチャン・ハイコープ(Christian Heikoop)によるアムステルダムのレザーグッズブランド「メイデン(MAEDEN)」が受賞。3組はそれぞれ賞金10万ユーロ(約1720万円)とコーチングを受ける権利を授与された。
イノベーション賞には、新興企業のオルタナティヴ・イノベーション(ALTERNATIVE INNOVATION)が受賞。評価された特許技術のアルタースキン(Alterskin)は、再生可能な形状記憶の植物バイオレジンを提供し、コーティングやコーティングテキスタイル、ソフトバイオソーシング素材などさまざまな用途に利用することができる。
「クリストファー・エスバー」がパリデビュー半年で優勝
「クリストファー・エスバー」は、オーストラリア・シドニー発のウィメンズブランド。設立11年目となる昨年の24年春夏シーズンに、パリで海外デビューを果たしたばかり。軽やかなテクスチャーのファブリックを、カッティングやドレーピングなど巧みな技で操ったミニマルでモード、かつエッジィを効かせたテイストを得意とする。ゼンデイヤ(Zendaya)やデュア・リパ(Dua Lipa)といった海外セレブリティーのファンも多い。「ファブリックに必要なことをさせ、着る人にその瞬間を楽しんでもらう」ことがエスバーのモットーだという。今後は「パリにアトリエを構えることを視野に、全てのアイデアを集中して形にしていくことが目標だ」と語った。
特別賞はセレブに人気のメンズ「3.パラディ」
「3.パラディ」は、13年にスタートしたメンズブランド。ブランドを手掛けるチャチョアは、画家のサルバドール・ダリ(Salvador Dali)をロールモデルとしており、彼の作品に登場する飛ぶ鳥をイメージしたアイコニックなモチーフをデザインに取り入れている。またジェンダーレスなアプローチが注目を集め、18年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のセミファイナリストにも選ばれている。ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)やジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)らが着用していることでも知られ、24年春夏パリ・メンズ・コレクションでは初のファッションショーを開催。直近では、25年春夏パリメンズでコレクションを発表したばかり。チャチョアは、「賞金はビジネス拡大のための新規採用に費やし、チームの強化を図る」とさらなる意欲を語った。
ピエール・ベルジェ賞に輝いた「ピーシーズ・ユニークス」は、カンボジア人の父とベトナム人の母を持つエドモンド・ルウによるパリ発のメンズブランド。インスピレーション源とするのは、ルウが好きなマンガやSF映画、ビデオゲームのヒーロー。服を着ることでヒーローのように感じられるような“鎧”を作ることを目指しているという。受賞したこの日はフランスの国民議会選挙における1回目の投票が行われていたこともあり、ルウはこのようにコメントした。「(移民の子どもである)私は、この国の一部の人々が受け入れたくないと考えている存在の“顔”となることが重要だと思っている。郊外に住む移民の子どもたちも成功できるということを示す手本になりたい」。
24年度のゲスト審査員にBLACKPINKロゼも参加
35周年を迎えた今年のANDAM賞は、ヴァカレロ「サンローラン」クリエイティブ・ディレクターが13人のゲスト審査員を選出。その一人に選ばれた「サンローラン」のアンバサダーを務めるBLACKPINKのロゼ(ROSE)は審査会で、「才能あふれるファッションデザイナーが集まる場に参加することができてとても光栄に思う。また同じクリエイターとして、彼らのストーリーを聞き、革新的なビジョンを目の当たりにすることに興奮している。彼らデザイナーたちが今後ファッション業界にもたらす目覚ましい貢献が楽しみだ」とコメントした。
ロゼの他に、モデルのアンニャ・ルービック(Anja Rubik)、アレック・ウェック(Alek Wek)、ベアトリス・ダル(Beatrice Dalle)、俳優のロッシ・デ・パルマ(Rossy de Palma)、ニールス・シュナイダー(Niels Schneider)、ヴィルジニー・エフィラ(Virginie Efira)、映画監督のギャスパー・ノエ(Gaspar Noe)、小説家のヴィルジニー・デパント(Virginie Despentes)、元「ヴォーグ・パリ(VOGUE PARIS)」編集長でスタイリストのエマニュエル・アルト(Emmanuelle Alt)、ジャーナリストのオーガスティン・トラペナード(Augustin Trapenard)が審査した。
ANDAMの創設者である、ナタリー・デュフール(Nathalie Dufour)=マネジング・ディレクターは、「この35年間はわれわれの独創性と決断力の証である」と話し、賞に関わるエコシステムや増え続ける企業や団体のサポートに感謝した。また「国境を越えたつながりこそ、新たな才能と可能性を見出すことを確信している」と語った。
ANDAMは1989年に、フランスの文化省と国内のファッション産業の発展を促進する組織であるDEFI(フランス服飾開発推進委員会)の支援を受けてスタート。新進ブランドの登竜門の一つであり、バレンシアガ(BALENCIAGA)やシャネル(CHANEL)、クロエ(CHLOE)、エルメス(HERMES)、サンローラン、ケリング(KERING)、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)、OTB、ロレアル パリ(L'OREAL PARIS)、メタ(META)、グーグル(GOOGLE)など、多数のブランドや企業がスポンサーとなっている。