ゴールドウインと、有機素材の合成クモ糸繊維の実用化を目指すベンチャー企業であるSpiber(スパイバー)は10月8日、スポーツウエアにおける業務提携契約を締結して第一弾の製品となる"ムーンパーカ"のプロトタイプを発表した。「ザ・ノース・フェイス」の"アンタークティカ・パーカ"をベースに、スパイバーが世界で初めて開発に成功した人工合成クモ糸素材"クモノス"を表地と刺しゅう部分に使用したもの。同素材を用いて実際の工業ラインで衣料品の生産を行ったのも、世界で初めてのことだ。今後は2016年中の発売を目指し、量産体制に向けた整備などを行う。
スパイバーは07年設立。関山和秀・社長(32)が慶應義塾大学在籍時の04年から研究する合成クモ糸繊維のバイオベンチャー企業である。現在は、山形県鶴岡市に本社を構え、合成クモ糸繊維のアパレル、輸送機器、医療機器への活用について研究している。経産省や内閣府のプロジェクトとも協働し、世界からの注目も集まっている。今年5月には6600平方メートルの研究施設を完成させた他、9月にはゴールドウインと事業提携を結んだ。同社からの30億円の出資を含む第三者割当増資で95億8416万円を調達している。
合成クモ糸繊維は微生物発酵によってクモの糸の主成分であるタンパク質を生成し、それらを紡績・加工することによってつくられる素材だ。関山社長は「現在主流であるポリエステルなど石油由来の素材は、生産工程で膨大なエネルギーを消費し、温室効果ガスを排出している。また、石油は枯渇が懸念される原料でもある。一方で合成クモ糸繊維は、タンパク質からなり、生分解性も持つサステイナブルな素材。また強度の高さと弾性を両立するなど、機能素材としても既存のものより優れた面があり、スポーツウエアにも適している」と可能性について話す。商品化に向けた課題の一つとして生産コストを挙げ、流通に向けた生産効率の向上やコストダウンを図るという。
渡辺貴生ゴールドウイン専務は「、持続可能な社会を実現するために、アイデアだけでなく実現可能性を高く持つスパイバーに魅力を感じ、当社から提携を申し出た。ゴールドウインはこれまでにもアスリートや宇宙飛行士のためのウエアを開発してきたが、今回は一から(素材開発から)ものを作るという初めての経験だ」と期待を語る。同社の一部社員はスパイバーの研究所に出向し、開発に携わるという。