ニット機大手の島精機製作所は、次世代編み機「ホールガーメント」を2017年3月期に前期比3倍の1500台の販売を計画する。「ホールガーメント」は1995年に同社が世界で初めて、縫製のいらない次世代コンピューターニット機として発表。その後はデスクトップ上で服のデザインとCAD/CAMのできるデザインシステムも並行して開発も進めてきた。これまで約20年で累計販売台数は8400台にとどまってきたが、島正博・島精機創業者兼社長は「『ホールガーメント』はいよいよ本格的な普及期に入った。日本やイタリアなどの先進国だけでなく、生産コストの上昇が激しい中国でも一気に普及する。用途もアパレルだけでなく、シューズやアクセサリー、産業分野にも広がっている」という。ナイキの「フライニット」を筆頭に、大手スポーツブランドは相次いでニットによるシューズを開発しており、今年中にドイツ国内で世界初のシューズの全自動工場の稼働を予定。ニットを軸にした工場になると見られている。ニット機の世界トップメーカーで、服やシューズの生産工程を一気に短縮できる同社の「ホールガーメント」の普及は、これまでのアパレルやシューズ生産のあり方を大きく変えることになりそうだ。
「ホールガーメント」の最大の強みは、これまで企画/デザインからCAD(設計)/グレーディング、織り・編み、裁断、縫製など複数の工程にまたがってきたアパレルの生産を、デスクトップデザインから編みという2工程へ一気に短縮できること。同社のアパレルのデザインシステム「SDS-ONE APEX3」は高精度の3DCGと組み合わせ、ニット製品だけでなく、織物でも3Dでデザインした服の形に沿って自動で服の型紙や仕様、設計が調整できるようになっている。「ホールガーメント」と「SDS-ONE APEX3」を使えば、服のデザインから生産までをシームレスにつなげ、生産工程も糸からそのまま服になるため、生産工程が一気に短縮される。昨年イタリアの繊維機械見本市「ITMA」で発表した最新機種は、これまでメーンの用途だったセーターだけでなく、複雑な組織のカーディガンやボトムス、ジャケットなども生産できるようになった。島社長は「守秘義務があるため、具体的な企業名などは明かせない」としながらも「部品の設計から製造までを内製化していることが当社の強み。出遅れていたシューズ分野でも今年からシューズ専用の『ホールガーメント』の出荷を開始している」と語る。これまでシューズは競合のドイツのストール社などが先行していたが、これまでのようにアッパー部分だけでなく、シューズ全体を一気に製品化できる新製品の投入で巻き返しを図る考え。
同社の17年3月期は、「ホールガーメント」の拡販により、売上高が前期比127.1%の630億円、営業利益が同198.9%の115億円、経常利益が同242.7%の110億円、純利益が同214.0%の70億円と大幅な増収増益を計画する。