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連載 本明秀文のノットスニーカーライフ

本明秀文の“ノット”スニーカーライフ「ちいかわは最強」

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アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。世界有数のライセンスビジネス大国、日本。そのライセンス産業の価値を広く社会に発信することを目的にスタートしたアワード「日本キャラクター大賞2024」で、「ちいかわ」が2年ぶりのグランプリに輝いた。過去のグランプリも「ポケモン」や「ワンピース」「おそ松さん」「鬼滅の刃」など、そうそうたる顔ぶれだ。これらはIP(知的財産)とも呼ばれる。今回は最強のIP「ちいかわ」は、なぜすごいのかという話。(この記事は「WWDJAPAN」2024年7月8日号からの抜粋です)

――あの「ゴローズ(GORO’S)」がインスタグラムの公式アカウントを開設して話題になっています。

本明秀文(以下、本明):「ゴローズ」の公式サイトは前からあったけど、インスタなら買い方のルールをもっと明確に、スピーディーに発信できるかもしれない。インスタでも「ゴローズ」のファンサイトみたいなのがたくさんあって情報が散乱しているから、正しい情報があればファンも喜ぶ。それよりも「ゴローズ」は偽物が多過ぎるね。

――「メルカリ」もフェイク業者が格安SIMを使って、1人300アカウントぐらいを同時に運用していると聞きます。自ら空売りをして、良い評価を何百と貯めてから偽物を安価で出品するとか。一見怪しいけど、評価が良いから信用して買う人がいるみたいで。偽物のスニーカーを本物のスニーカーと左右で組み合わせてリセールに流しているという話もありますし、正規店以外ではリスクがつきまといます。一方、本物を買うのにも苦労するので、そもそも安い偽物でいいという声もありますが……。

本明:最近はパッと見では偽物と判断できないぐらいクオリティーが高い。それにこれだけ2次流通が発展したら、本物だと思い込んで偽物を身に付けている人もいると思う。ブームになれば、あっという間に偽物に市場が荒らされて、いつか廃れる。だからファッションでIPを守っていくというのは、とても難しい。

――そうですね。市場に出回る数が少ないと価値は上がりますが、偽物も増える。逆に出回る数が多いと、みんなが飽きて売れ残ってしまいます。

本明:だから例えば「エルメス(HERMES)」も、“バーキン”は限られた顧客にしか売らない。IPをブランディングの一部として、価値を高めながら守っている。ナイキの株価が6月27日の決算発表を受けて、28日に20%急落した。時価総額が一夜にして275億ドル(約4兆4000億円)吹き飛んだことになる。アナリストによる分析を見ると、小売価格の高さとOGモデルを売り続けた結果、在庫が溢れていることが指摘されていた。つまり、売れ残るぐらい何度も大量生産して、“エアジョーダン1(AIR JORDAN 1)”や“エアマックス(AIR MAX)”“ダンク(DUNK)”といったナイキのIPの価値を自ら下げてしまったわけだよね。

――なるほど。一方で、キャラクターやアイドルのIPは強いですね。“オタ活”や“推し活”では、「推しにお金を落とす」とか「貢ぐ」って言葉があるぐらい本物に投資したい。渋谷にリニューアルオープンした「ラインフレンズ(LINE FRIENDS)」のNewJeansコラボはめちゃめちゃ勢いを感じましたし、「ちいかわ」も「日本キャラクター大賞」でグランプリを受賞しました。

本明:「ちいかわ」は今、最強のキャラクターIPだね。プロデュースするスパイラルキュートは、従業員約360人に対して年商が1500億円以上だとか。スパイラルキュートのすごさは、売れるフォーマットを持っていること。まずは、作者のイラストレーターにコンタクトして、ガチャの権利を取得するところから始めるらしい。同時にSNSを走らせながら、売れてくるとアイテムを拡充。SNSの使い方も巧妙で、「めざましテレビ」とコラボして、アニメや「ちいかわ占い」を毎日放送。その後、SNSで拡散されて、数時間でインプレッションが伸びる。そういう、人を熱狂させるビジネスモデルが組まれている。だけど、そもそもみんなが何に熱狂するのかは分からない。分からないから、毎日ABテストを繰り返して、小さなヒットを狙っていく。聞けば、「ちいかわ」のプロジェクトチームはずっと同じメンバーで、新しい人は入れないらしい。“経験”が強さだから、酸いも甘いも共に経験してきたメンバーはいわば運命共同体。メンバーの個々の知性が集まった集合知が「ちいかわ」。僕だって、スニーカーを1人で売っていたわけではなく、阿久津や小坂、小島(創業当時からの旧アトモスメンバー)とたくさん失敗しながら、ヒットの確率が上がっていった。ビジネスでラッキーは長く続かないけど、「ちいかわ」はもしダメになっても、また新しいヒットを生み出すと思う。

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