ファッション

「アンリアレイジ オム」立ち上げの本当の理由 岐阜企業とのタッグでメンズ服の可能性探る

アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦デザイナーは、メンズライン「アンリアレイジ オム(ANREALAGE HOMME以下、オム)」を始動し、今年3月にファーストコレクションを披露した。スタイリストのTEPPEIや「ノリエノモト(NORIENOMOTO)」の榎本紀子デザイナーとコラボしたスタイリングやアイテムなどで話題を集めた。「アンリアレイジ」設立から21年が経つ今、なぜ森永デザイナーは「オム」を立ち上げたのか。目指すブランド像や、新たな取り組みなどについて聞いた。

WWD:「アンリアレイジ オム(以下、オム)」を始動した経緯を改めて教えてほしい。

森永邦彦「アンリアレイジ オム」デザイナー(以下、森永):今のメンズウエアにないものを作り、メンズウエアで“ファンタジー性”を描きたかったから。メンズはテーラード重視のスタイルなので、アイテムに制限が多い。ウィメンズウエアでは当たり前のものがないこともあるため、それを“ファンタジー”と呼んでいる。例えば、メンズウエアはレイヤードしたスタイリング提案がしづらいのを逆手に取り、ジャケットの上に着られるシャツを作れたら面白い。メンズ版の十二単のような、ドレスっぽいスタイルが生まれるかもしれない。

基本的に「アンリアレイジ」黎明期の洋服をベースにしているが、懐かしむだけでは意味がないため、どう更新していけるかが重要だ。制約を設けず、素材使いに工夫を加え、フェミニンではないレースの使い方を考えたり、ポップでカラフルな色使いを採用したりしたいと考える。「これぞメンズ」なクールなスタイルではなく、未熟で子どもっぽい人間像も具現化したい。

WWD:「オム」ではスタイリストのTEPPEIをビジネスパートナーに迎えた。どのように共に服作りをするのか?

森永:僕らの原風景は、2000年代の原宿にある。その頃のワクワクしていた気持ちに戻れる洋服をTEPPEIくんと一緒に作るつもりだ。当時のファッション雑誌を見ると、今でもすごく面白いと感じるものがあるから。通常、スタイリストは、デザイナーが作ったものをどう組み立てるかを考えるのが役目。でも、「オム」で彼は自分のことを“スタイルコンポーザー”と自称している。“コンポーザー(composer)”はいわば作曲家のこと。2人で「どういうスタイルを作るか?」を話し合い、ジャケットの丈やボトムのシルエットなどを調整していく。「アンリアレイジ」がコンセプトをベースに作るブランドならば、「オム」は理想のスタイルをベースにするブランドだ。

WWD:ファーストコレクションの反響は?

森永:想定外に大きかった。実は今回、初めて一般のお客さま向けにも展示会を開催した。トグルが付いたシャツや、ノリちゃん(榎本紀子デザイナー)と合作したスタジャンなど、まとまった数の受注が付いたアイテムがいくつもあったし、全面をボタンで覆ったジャケットのように、約300万円するアイテムをオーダーしてくれる人もいた。

WWD:なぜ一般向けに開催を?

森永:ウィメンズのパリのスケジュールに合わせた「アンリアレイジ」とは異なり、「オム」は、東京のファッション・ウイークを中心に動くブランド。だからこそ、日本のお客さまを巻き込んだブランド作りをすべきだと考えた。正直に言うと、ショーの座席は、ブランドと関係性の薄いインフルエンサーよりも、これまで実際に商品を買ってくれたお客さまに多く割り当てた。ランウエイを見て「この服が好きだ」と感じてくれた人が、そのまま展示会に来られる流れを作りたくて。

WWD:販路を自社ECと直営店主軸にしている理由は?

森永:もちろん、卸もやりたい気持ちはある。ただ、自分たちでマネジメントできる範囲で販売したいので、あくまでも主軸は自社ECサイトと直営店。だから、その第一歩として原宿に「オム」の店舗を8月にオープンすることに決めた。東京・青山にあり、7月15日に営業終了した「アンリアレイジ」本店とは雰囲気を大幅に変える。手仕事を追求していたブランドの原点に立ち返るような、手作り感溢れる店にしたい。下手なりに頑張って作る、ということを大事にしているため、もしかしたら店舗もDIYするかもしれない。

岐阜のアパレル企業とタッグ
「ブランドと工場を対等な関係に」

WWD:新ラインを作るため生産体制はどう調整する?

森永:自社の人員を増やすことはしないが、新たな生産背景にチャレンジする。OEMやODMを行う岐阜県のアパレル企業、サンエース(SUNACE)と協業することに決めた。90%を同社で生産し、残りの10%は「アンリアレイジ」が国立市に構えるアトリエで賄うつもり。サンエースは、モチベーションの高い若手社員がどんどん増えており、3Dパターンのような最新の仕組みが整っている。「この人たちと一緒に、ブランドを作るチームを形成したい」と思った。

工場名を公にするのは、ファッション業界内ではまだ珍しい試みのはずだ。通常であればブランドは、工場の価格競争を避けるために生産背景を公表しない。しかし、昨今は安く仕立ててくれる工場を探すうちに、海外に生産拠点が流れてしまうようになった。日本を拠点にブランドを営む上で、それは何か大きな損失であるような気がした。

WWD:サンエースとの協業内容は?

森永:在庫リスクを軽減するため、サンエースのラインを丸ごと買い取る契約をした。奇抜なデザインの服は売れ残りやすいから、ブランド側も小ロットで製造したがる。そうすると、どこの工場からも「採算が合わないので作れない」と断られてしまう。だから「オム」ではブランド専用のラインを工場内に作ってもらって、売れやすい商品もそうでない商品も発注しやすい環境を整えた。結果的に、複雑な構造の服も価格を抑えて販売することができると思う。

WWD:日本のモノ作りの課題は?

森永:これまでブランドと工場の関係性は、極端かもしれないが、ブランドが「指示を出したら、あとは出来上がりを待つだけ」というような一方向なコミュニケーションになりやすかった。ただ、やはり両者の間には対話が必要だ。「オム」ではそれを強化するため、サンエースに常駐する人員を一人派遣することにした。工場がブランドに対して「もっとこう縫ったほうがいい」「この仕様を変えたらはき心地が良くなる」と意見を出すなど、デザイナーと工場が互いに高め合うモノづくりをする。そうすれば、ブランドはさらに成長できると思う。

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