ファッション

「バレンシアガ」は創業者を象徴するデザインとデムナの美学を融合 一度しか着られない“儚いドレス”も【2024-25年秋冬オートクチュール詳報】

2024-25年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークが6月24日から4日間、パリで開催された。今季の公式スケジュールに名を連ねたのは、27ブランド。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」と「フェンディ(FENDI)」が発表を見送り、いつもよりも控えめなラインアップとなったが、その中から選りすぐりのコレクションをリポートする。

年1回のクチュールを発表している「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、今回も常識を打ち破るアプローチで実験的なコレクションを披露した。デムナ(Demna)=アーティスティック・ディレクターが着目したのは、創業者クリストバル・バレンシアガ(Christobal Balenciaga)による1950〜60年代のデザインを特徴付けるコクーンシルエット、七分袖、豪華でエキセントリックな帽子、そして素材における革新という4つのコード。そこにストリートウエアやゴス、スケーター、メタルヘッズなど、デムナ自身の美学やデザインに大きな影響を与えたサブカルチャーの要素を掛け合わせた。

デムナがほぼ毎日行っているというメディテーション(瞑想)のセッションを再現した音源が流れる中で行われたショーは、コットンジャージーのTシャツやテクニカルシルクのパファージャケット、ナイロンのボンバージャケットなど、オーバーサイズのストリートウエアからスタート。ライニングにスキューバ素材のようなハリのあるサテンを用いることで構築的なシルエットを生み出し、アウターは七分丈のワイドスリーブで仕上げているのが特徴だ。そこに合わせたジーンズやスエットパンツは、腰に同素材のジャケットを巻き付けたようなハイブリッドデザイン。今季のキーアイテムとして繰り返し登場し、象徴的なシルエットを描いた。そして、過去に発表したプレタポルテのTシャツやジーンズ、テクニカルパーカを組み合わせてタイトシルエットのイブニングドレスに仕上げる提案は、24-25年秋冬のプレタポルテにも見られた複数のウエアを組み合わせて新たなアイテムを作るアイデアの発展形のよう。ボディーの片側がドレープを寄せたラップデザインになったナイロンパーカやレザージャケットのように、日常着のエレガントな再解釈も印象的だ。

今回のコレクションのベースはカジュアルウエアだが、そこには多彩な手仕事の技術が詰まっている。例えば、Tシャツやフーディに見られた写真を忠実に再現したロックTシャツ風のアートワークは、画家が約70時間をかけて油彩で描いたもの。チェックのフランネルシャツは、立体感のあるタフタージュ刺しゅうで表現している。また、ダメージ加工が施されたマキシドレスは、アトリエのデッドストックから選んださまざまなサイズのビーズを全面に刺しゅうしたストレッチニットのパネルを組み合わせたもの。毛足の長い人工ファーのマキシコートはヘアスタイリストのゲイリー・ギル(Gary Gill)がカットによる造形や染色を施したウィッグ用素材を使用しており、制作には2カ月半を要したという。

ショー後にデムナが「一番難しかったのは、個人的に苦手な帽子。無用の長物だが、クチュールのシルエットを完成させるために極めて重要な要素なので取り組んだ」と明かした帽子は、中国人アーティストのニー・ハオ(Ni Hao)とのコラボレーションによるTシャツにドレープを寄せた状態を樹脂で固めたデザインや、アラステア・ギブソン(Alastair Gibson)との協業によるカーボンファイバー製のボディーが特徴。日本人アーティスト大喜多祐美と共に手掛けたという、変化や自由の象徴である蝶モチーフのマスクも目を引く。そのほか、往年のクチュールモデルが歩く時に持っていたナンバーカードはレザーの財布にアレンジ。ライブのリストバンド風のブレスレットや目隠し線のような細いアイウエアなど、ウィットに富んだアクセサリーがルックを仕上げる。

プラスチック袋までがクチュールドレスに

終盤の6ルックは、素材の可能性と、ダーツやシーム(縫い目)をできる限り減らしながらシルエットを作るドレスメーキングのプロセスを探求した。トレーンを引く白のコラムドレスは、プラスチック袋を溶かしてアップサイクルし、ボディーラインに合わせて成形。1枚の大きなレザーや金色に輝くアルミニウムのホイルを用いたものもある。また、ミンク風の人工ファーを用いたビスチエドレスには古くから受け継がれる毛皮のパターンメーキング技術を活用し、細長くカットしたピースを縫い合わせることでヘリボーン柄を表現。フロック加工を施したレザーのミニマルなブラックドレスはジュエリーの展示用ボディーからヒントを得たもので、胸元には1960年のアーカイブネックレスが輝く。

最後に登場したのは、大胆なボリュームのブラックドレス。これは、クリストバルが軽やかなシアー素材を求めて開発したガザールを現代的に再解釈したナイロン生地を47メートルも使用し、着用者の体の上に巻き付けながら、ドレープを寄せてピンを打ち、直接造形した作品だ。脱ぐためには解体するしかなく、一度しか着ることができない。それを「儚いドレス」と表現するデムナは、「正直なところ、クチュールが必要不可欠な人はいない。私にとって、これは服をまとうという体験であり、ある意味パフォーマンスのようなものだ。このドレスを実際に購入すると、クチュールアトリエから3人が顧客のもとを訪れ、1回のイベントのためだけに作り上げることになる。またダーツやシームなしで、どこまで『バレンシアガ』の真髄であるシルエットを作り上げられるかという試みでもあった」と説明した。

そんなデムナにとって、クチュールはクリストバルが築き上げた歴史を今につなぐものだ。そのため、伝統的なクチュールの世界に彼自身がこの10年で確立した現代の日常着をベースにしたスタイルやアイデアを取り入れている。そして、「10カ月をかけて制作できるクチュールには実験を行うぜいたくな時間があるから、物質的な観点で多くの労力をかけられる。伝統的なテクニックを使うだけでなく、クチュールにおける新たな技術となるような新しいテーマを考え出すこともできる」と話した。

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