「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER、以下ゴルチエ)」は、2024-25年秋冬オートクチュールのゲストデザイナーに「クレージュ(COURREGES)」のニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)=アーティスティック・ディレクターを迎えた。本社内に用意された会場は、デ・フェリーチェらしいシンプルで真っ白な空間。「クレージュ」でも存分に表現している自身の美学を生かし、ミニマルでセンシュアルな「ゴルチエ」のクチュールを見せた。
初めてクチュールを手掛けるデ・フェリーチェが目を向けたのは、メゾンを象徴するコルセット。そこに見られる小さなフック&アイの留め具を機能的なディテールから装飾までに生かした。スタイルの軸となるのは、無地の単色でまとめたスレンダーなシルエット。フック&アイを随所に用いることで、ドレスは裾のスリットや切り込みを調整できるようになっていたり、いくつものパーツをつなぎ合わせて作ったジャケットやパンツはデザインを変えられるようになっていたりと、「クレージュ」でのファスナーやボタン使いにも通じるようなギミックをデザインに落とし込んだ。
一方、757個のラインストーン付きのフックがきらめくパネルを前面に取り付けたジャンプスーツや、まるで鎖かたびらのように4万2000個のフックをチュールにびっしりあしらったロングドレスでは、本来の機能とは異なる装飾としての役割を探求している。
自身の美学を貫きながら、「ゴルチエ」のストーリーを描く
一つのディテールや仕草を出発点にコレクションを発展させていくのは、デ・フェリーチェらしい手法。コーンブラやブレトンストライプといったアイコン的要素をいくつも取り入れてきたこれまでのゲストデザイナーたちとは異なるアプローチと言える。彼はショー後、「私たちはいつも同じアーキタイプ(原型)や象徴的なディテールを目にする。だからこそ、重要だと考えたのは『ゴルチエ』のあまり知られていない部分に取り組むこと。アーカイブを掘り下げる中で、ゴルチエが単色のルックも多く手掛けていたことを発見した」と説明。そして、一般的にクチュールに期待されるような豪華絢爛な刺しゅうや装飾は自分の好みではないと明かし、自身の美学を貫いた。
また、デ・フェリーチェにとってゴルチエは「映画を作るかのようにコレクションを手掛けるストーリーテラー」だという。「今回コレクションを制作する上で、まずナラティブ(文脈)が必要だと感じた。そこで考えたのは、クイアを含むさまざまな人にとって、ゴルチエがどんな存在かということ。彼は“パリに来ればきっと受け入れてもらえるから、なりたい自分でいられる”というメッセージを発信し、ファッションを通してたくさんの人の道を開いてきた先駆者だ」。そんな心が次第に解放されていくようなストーリーを、ヴェール付きのアイウエアや高い襟で顔を隠した匿名性の高いスタイルから始め、徐々に服が脱げたり生地が透けたりして肌や内側が見えてくるという構成で描いた。
2024-25年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークが6月24日から4日間、パリで開催された。今季の公式スケジュールに名を連ねたのは、27ブランド。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」と「フェンディ(FENDI)」が発表を見送り、いつもよりも控えめなラインアップとなったが、その中から選りすぐりのコレクションをリポートする。