世界最大のアイウエア企業であるイタリアのエシロールルックスオティカ(ESSILORLUXOTTICA)は7月17日、VFコーポレーション(VF CORPORATION以下、VFC)から「シュプリーム(SUPREME)」を15億ドル(約2370億円)で買収することに合意したと発表した。規制当局などの承認が下りる時期にもよるが、取引は今年中に完了する予定で、支払いはキャッシュで行うという。
エシロールルックスオティカのフランチェスコ・ミレリ(Francesco Milleri)会長兼最高経営責任者(CEO)とポール・ドゥ・サイヤン(Paul du Saillant)副CEOは、「『シュプリーム』のようなアイコニックなブランドを獲得することは、素晴らしいビジネスチャンスだ。これは当社のイノベーションおよび開発姿勢とも合致しており、新たな顧客や言語、クリエイティビティーに直接つながることができる。『シュプリーム』のユニークなブランドアイデンティティー、D2Cおよび直営でのアプローチ、同ブランドならではの顧客体験を維持しつつ、当社の傘下ブランドとして独自のポジションで運営し、ほかの傘下ブランドを補完してくれるものと確信している。また、同ブランドは当社の専門的な知識、能力、運営プラットフォームを活用できるだろう」と語った。
VFCのブラッケン・ダレル(Bracken Darrell)社長兼CEOは、「当社の下、『シュプリーム』は中国および韓国市場での事業を拡大し、再び力強く収益をもたらすようになった。しかし戦略的な見直しを行った際、同ブランドの特徴的なビジネスモデルと当社におけるシナジーは限定的であり、次のステップとして売却が自然だという結論に達した。エシロールルックスオティカが擁するほかの素晴らしいブランドと共に、『シュプリーム』とその才能あるチームは、今後も成功を収めるだろう。また、今回の取引によって当社のバランスシートにより柔軟性が生まれるほか、長期的な成長や債務レベルの正常化にも寄与するものと考えている」と述べた。
業績不振が続くVFC
VFCは、ほかに「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ヴァンズ(VANS)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」などを保有している。2020年11月に21億ドル(約3318億円)で「シュプリーム」を買収したものの、コロナ禍の影響によるサプライチェーンの混乱などのため売り上げが鈍化。また、22年度には、「シュプリーム」の日本市場におけるビジネスなどに関して、VFCは「金利の上昇や為替レートなど営業外要因のため」に7億3500万ドル(約1161億円)相当の減損費用を計上している。
同社は、2月に23年10〜12月期(第3四半期)決算を発表した際、傘下ブランドの見直しを開始したことを公表。5月には、情報筋の話として、同社がアドバイザリーに米投資銀行ゴールドマン・サックス(GOLDMAN SACHS)を選定してブランドポートフォリオ戦略の見直しを行っていると報じられたことから、「シュプリーム」の売却を検討しているのではないかとの臆測が広まっていた。
なお、VFCの24年3月期決算は、売上高が前期比10.0%減の104億5460万ドル(約1兆6518億円)、営業損益は前年の3億2760万ドル(約517億円)の黒字から3400万ドル(約53億円)の赤字となった。純損益は、支払利息が増加したこともあり、同じく1億1850万ドル(約187億円)の黒字から9億6880万ドル(約1530億円)の赤字に転落している。
「シュプリーム」とエシロールルックスオティカについて
「シュプリーム」は、1994年にジェームス・ジェビア(James Jebbia)がスケートショップおよびオリジナルブランドとしてニューヨークで創業。世界中に熱狂的なファンがいるストリートブランドとして成長を続け、2017年には巨大投資ファンドのカーライル・グループ(CARLYLE GROUP)に株式の51%を5億ドル(約775億円)で売却した。20年11月にVFCの傘下となり、現在は米国、アジア、欧州で17店を運営している。
エシロールルックスオティカは、眼鏡用の部品メーカーとしてスタートしたルックスオティカ(LUXOTTICA)と、レンズメーカーのエシロール(ESSILOR)が合併して誕生した。「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」「シャネル(CHANEL)」「プラダ(PRADA)」「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「バーバリー(BURBERRY)」「ティファニー(TIFFANY & CO.)」など多くの一流ブランドとライセンス契約を締結しているほか、「レイバン(RAY-BAN)」や「オークリー(OAKLEY)」などのブランドも擁している。2022年の売上高は245億ユーロ(約4兆2140億円)。