パリでのオリンピック・パラリンピック開催を目前に控え、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)「ディオール(DIOR)」ウィメンズ・アーティスティック・ディレクターが抱いたのは、古代から現代にいたるまで、偏見や障害を乗り越えて公平なスポーツ競技の確立に努めてきた全ての女性アスリートたちに敬意を表したいという思い。そこで2024-25年秋冬は、通常オートクチュールには使用されないようなジャージー素材を多用し、メタルメッシュのインナーや手の込んだ装飾を組み合わせることで、スポーツとクチュールの世界を融合した。
ドレープやプリーツが美しいドレスが充実
ロダン美術館の中庭に設けられた会場の壁を飾るのは、数カ月前にこの世を去ったアメリカ人アーティスト兼活動家のフェイス・リングゴールド(Faith Ringgold)がアスリートなどを描いた代表作を、インドのチャーナキヤ工房と同工芸学校の職人が巨大なモザイク画として再現した作品の数々。モデルたちは、その前を伝統的なスタイルを生かしたグラディエーターサンダルで闊歩する。
今シーズンの主役となるのは、古代ギリシャやローマの彫刻をほうふつとさせるドレープが美しいワンショルダードレスやトップスとスカートのセットアップの下に、繊細な刺しゅうを施したスポーティーなタンクトップを合わせたスタイル。ほかにも体を優しく包むフロアレングスのドレスが豊富で、エフォートレスでありながら優雅なシルエットから、細かなプリーツを施したものまでがそろう。一見シンプルなデザインも背面には緻密に計算されたドレープが寄せられており、エレガントに肌をあらわにする。一方、テーラリングは、端正なジャケットに片側にラップスカートのパーツをドッキングして動きを出したパンツを合わせているのが特徴だ。
輝きを放つ素材と装飾で華やかに
そんな巧みな布使いと技術でスポーツに通じる動きを表現したコレクションに華やかさをもたらすのは、輝きを放つ素材と装飾。アスリートが競技前後に着るローブを想起させるベルトコートやボディースーツは丸や四角形のミラーパーツで光を反射し、メタリックな糸を用いたモアレジャカードや極細のフリンジは上品にきらめく。そして終盤には、金、銀、銅のカラーで彩ったメタリックジャージーのドレープドレスを披露。それは、勝利を目指すアスリートたちへのエールのようにも感じられた。
2024-25年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークが6月24日から4日間、パリで開催された。今季の公式スケジュールに名を連ねたのは、27ブランド。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」と「フェンディ(FENDI)」が発表を見送り、いつもよりも控えめなラインアップとなったが、その中から選りすぐりのコレクションをリポートする。